冒険者
その日は良く晴れた日だった。
時折、長老が村の子どもたちを集めては様々な話を語って聞かせる事があった。と言っても、集まるのは子どもばかりではなく、子どもに混じって大人も話を聞きに来ていることもままあったのだが。
その長老の話の内容は多岐に渡り、村の由来やカーディニア王国の成り立ち、周辺諸国の話の他にも、様々な国の国旗の話や信仰されている神にまつわる話、更には生活の上で必要な知恵なんかまでで、本当に多岐に渡り、長老の知識の量には毎度驚かされたものだ。
その日の話は冒険者についてだった。
「皆は冒険者を知っているか?」
いつもの穏やかな口調で問い掛ける長老に、首を縦に振ったり、「知ってる」と、声を出したりと反応は様々だったが、集まった者たちは皆、冒険者と呼ばれる存在については知っているようであった。
「では、冒険者たちは我らと見た目は変わらぬが、その身体能力が桁違いに優れていることも知っているかな?」
その問い掛けの返答には、頷いたりする者の他に、「長老さま、しんたいのうりょくってなーにー?」という幼い声が混じり、長老はその質問をした少女に優しく身体能力という言葉の意味を説明した。
「では何故、冒険者は我らと違い、あれほどまでに優れた動きが出来るのか、それを知っている者は居るかな?」
その問いには、誰もが顔を見合わせては首を捻ったり、長老に向けて首を横に振ったりしていた。
「そうか。では何故、冒険者があれほどまでに身体能力が優れているかだが、実のところそれはよく分かってはいない。いや、正確には幾つかの説が唱えられている」
長老はそこで一度話を切ると、集まった者たちの顔を順番に見回す。
「よく知られているところでは進化論、異世界者論、異種族論の三つがあるな。まず進化論だが、これはそのまま我らよりも進化した存在だと言う説で、次に異世界者論だが、これは冒険者はこの世界ではない別の世界からやってきたのではないか、という説だ。最後の異種族論もそのままで、見た目は似ていても我らとは種族が違うという説だ」
「異世界?」
長老の説明に、誰かがぽつりと呟いた。それを皮切りにそれぞれの説への質問が次々と飛んでくるが、それに長老はゆるゆると首を左右に振ると、
「これらは一つの説だ、正しいかどうかまでは分からない。例えどれかの説が正しくとも、それについては今のワシには分からないな」
長老が申し訳なさそうにそう言うと、集まった者たちも申し訳なさそうに口をつぐんだ。
それからも、現在の冒険者たちの社会や、多くの冒険者たちが所持し、冒険者の証とも呼ばれている装置“カタグラ”という存在など、様々な話を長老は集まった者たちに話して聞かせたのだった。