番外編 母親参っ
番外編「母親参っ」
『あいたたっ。』
引き連れる感覚と痺れるような痛みとで目を覚ます。
薬は優しく緩やかに効果を消しているのか頭が重い。
しばらく動けないなぁ。
せめて、傷が軽く塞がってくれないと。
歩くこともままならない。
どうしようか。
高校のときは急に親族に不幸が云々でちょうど給仕をしたり、幼い子供を見る女手が少なく…。
手伝いに行くために学校を…。
とかなんとか足をひこずるようにして友達と旅行してくるなんて家を出て少しの間、ホテル暮らしだったんだっけ?
足の傷をシュウに見られたくない。
樹老医師は隠していてくれたみたいだけど。
あたしがこの傷を人に見られたくないことを知っているから。
あたしのこの傷の経緯を知るのは義兄と義祖父母、それに、義姉だけだ。
みんなに妊娠をカミングアウトしたときに告げた。
義姉の棗さん美里ちゃんの娘が初ひ孫になるのね。
昔のことは美里ちゃんが正しいと思うわ。
青柳だっけ?からうちの家に引き取られたのも嬉しいことよ。
だって、こんなにいい妹が尚ちゃんをしっかりしたお兄ちゃんにしたんだもの。
皆、棗さんの意見に相違なかった。
嬉しかった。
こんなあたしでも必要としてくれる人がいて。
それだけで幸せで、それ以上にあたしを家族として迎えてくれることが言葉に言い表せないぐらいに幸せで、愛に溢れていて。
だから、あたしは自分から家族を作ることを望んでいた。
あの、幼い、親族の家で肩身の狭い思いをしていたあたしではもはやなかった。
『うーん、なんか前より深い傷みたい。』
引き連れる感覚が前より酷い。
どこかに身を隠さないと。
棗さんでも頼ってみようか。
『もう、シュウくんには話したら?
傷のこと。
あれがなきゃ、あなたはシュウくんに出会えなかった。
だって、高校に通えたかわからないから。』
当たっている。
あたしは川瀬にいたから、シュウに会えた。
あたしは自分で自分に刃を突き立てたから、生きていられた。
そのための代償は大きいけれど、それでも幸せだった。
あたし、伝えられるかしら?
幼くて怯えることしか知らなかった自分のこと。
逃げたくて考え付いた稚拙な罠のこと。
ああ、だけど、彼に嫌われたくないわ。
春架にもあたしのこと嫌われたくないわ。
あの人のたった一人の家族。
そして、あたしとこれから生まれ来るこの子の
大切な家族。
だから、認められたい。
シュウの嫁として。
春架の母親として――――。




