happy birthday
37章 「happy birthday」
『明日が美里さん…。お母さんの20歳の誕生日なら、わたし、お母さんの誕生花の花束をプレゼントにする。』
突然、娘が妻の誕生日が明日だと言い始めた。
どうしてその事を知っているのか問えば、娘を養子にする書類を妻が書いたとき娘に関することだからと同席させたと言う。
ケーキと料理の材料を手にして家路につく。
春架からの留守録だとミサトが微熱で寝込んでしまったらしい。
しまった。と思った。
ミサトはまだ、安静が必要だった。
この間の検診のときにも言われたと愚痴を言っていたではないか。
あまり、ミサトに負担をかける子供じゃないと春架のことを思ってるものの。
いつになったら、春架に明かすだろうか。
『おにい、お母さん苦しそう。
熱が上がってて。』
帰宅直後に娘は言う。
5つまでの記憶のない春架にはどれだけ心配したことだろう。
春架には一刻も早くそこらへん含めて説明をしておいた方が良いかもしれない。
『ミサト。どうして言わなかった?
春架からの電話朝方だった。』
ちょうど家を出た直後。
それまで我慢して耐えていたのだろう。
俺を送り出してすぐに寝付いてしまうあたりがなんとも妻らしいけど。
二人で暮らしてた頃もこんな感じだった。
『春架、おいで。』
妻の言葉に頷いて娘はベットの端に座る。
あたし、シュウの邪魔になりたくないの。
シュウ、今日だってあたしの単位計算しに行ってくれたでしょう?
指摘されると、そうだ。
授業が終わってすぐミサトの夫としてミサトが取得している単位で卒業できるか聞きに走った。
できることなら、一緒に卒業したい。
『あなたと卒業できるわよ。
そのために頑張ってたんだもの。』
驚いた。心を読まれたのかと思った。
あなたと良く似た性格のなにを犠牲にしても望みを叶えようとする、そんな人を知ってるから。
微笑みながら彼女は言う。
そう、この子よ。と言うように腹部を撫でる。
優しく、慈しむように。
『春架にも言わなくちゃね。
春架、来年の夏になる頃にお姉さんになるのよ。』
優しく微笑む妻は今まで見たどの笑顔よりも輝いた気がした。
二十歳の誕生日おめでとう。
ミサトが生まれてくれてとても嬉しいよ。
お酒を飲ませてあげられないけど。
おどけて笑う義父の姿にわたしは姿を消す。
二人っきりでいいよね。
お母さんもお父さんも良くしてくれるし、今年の誕生日プレゼントかな。
この年から春架の誕生日プレゼントが二人の時間だったことは言うまでもない――――。




