心
36章 「心」
『ちょっと待って。
春架ちゃんはどうするの?
あたしたちが学校出たら、一時はあなたの収入だけで暮らさなくちゃいけない。
入院してるんでしょ?』
疑問をぶつけた。
現実はそう甘くない。
身元引き受けを今までしてくれていた川瀬だってどうなるかわからないし、シュウはだれも頼れる肉親がいない。
『大丈夫だ。春架、意識が戻って施設に入れようかと思ってる。
事故の保証あるし、卒業までは大丈夫だ。
就職先も公務員扱いだから、給料いいし。』
しっかりしてる、と思う反面、従妹に対する処遇が気にくわない。
それなりに収入があるのなら、手元で育てるべきだと思う。
あたしが捨てられた子供だったから余計そう思うのだろうが。
『だめ。そんなことするならシュウと結婚しない。
あたしは春架ちゃんを引き取って育てるわ。
それは譲れない。』
俺は正直不安だった。
ミサトが春架を邪険に扱わないか。
だが、それも杞憂で済みそうだ。
春架のことを話す彼女がとても穏やかで、母性がにじみ出ていたから。
『ミサトなら、そういってくれるって信じてた。
ミサトに会うように言ったの春架だから、引き取られて俺らの娘として両親の仲良いの見てもなにも言わせない。』
けらけら笑うシュウ。
よかった。春架も引き取って育てられる。
人一倍可愛がって、実の娘にする。
産まれてくる子供の姉になってもらう。
『ねぇ、春架ちゃんに会わせてくれる?
ついでに、お母さんに面会に行くの付き合ってよ。
連れてくって約束したから。』
そうだ。シュウには何も過去のことを明かしていない。
大事なことなのに、失念していた。
えっと、生まれる前、実父那祇が亡くなる。
6つのとき、親元から祖父のもとへ。だが、捨てられる。
以降7年を親戚のもとで過ごす。
13のときに川瀬に引き取られる。
事実だけをただ、たんたんと語る婚約者に同時に彼女に身体を貸していた人物は案外、彼女に近い人物なのだと感じる。
『ただいまぁ。』
気の抜けた声をたてつつ、部屋に入る。
春架は勉強をしている。
これ、俺の嫁さんね。
で、こっちが春架。
と互いを紹介すると二人からもっといい紹介のしかたはないのかと不満がられる。
なんだよ。俺なんかより似た性格だよ。
『よろしくね。春架ちゃん。
あたし、美里。名前はどうとでも。』
あれっ?しれっと最重要なことを抜かしているような。
まあ、いつか心が決まったら言うよな――――。




