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サイレント  作者: 明日奈 美奈
35/41

結婚

35章 「結婚」

『ミサト…。いつまでそうやって意地張ってる気だ?

お前が意地張ってても子供は産まれてくる。』

わかっている。

わかっているけど、あたしの意思は必要ないみたいじゃん。

あたしのわがままなのかなぁ。

シュウからちゃんとプロポーズしてほしいって。


『でも、どうして子供の姿になったんだ?』

ずっと、疑問に思っていた。

どうして恋人が、子供の幼い見た目になったのか。

どうして大人に戻ったのか。


『ある人から身体を借りたの。

あたしの心が揺れ動くことが大人に戻るために必要だった。』

心?

そう言えば、ミサトと初めて会った頃は表情が乏しいというか、能面のようだった。

彼女は昔、事故にあって怖い思いをして表情を無くしたと言っていた。


『泣かない子供。』

シュウならわかるだろう。

児童心理学科の教授の覚えもめでたい彼なら。

その言葉があたしのようなサイレントチャイルドの別名だって。

今だって驚いた顔をして。


あっ、と思ったときすべての今までの謎が解ける。

表情がないのはサイレントチャイルドの最も有名な症状の一つだ。

なぜだろうか。

一番近くにいたのに、気づいてなかった。

ミサトが、命を絶とうとしたのも、何かあったからじゃないのか。

なのに、そのとき、お兄さんとの仲を疑ってかかって、まともに聞こうとしなかった。


『ミサト…。ごめん。

ミサトが苦しんでいたことに気づかなかった。

ミサトは山梨県まで行ったのに。』

ミサトが何かから逃げていることは明らかだった。

不用意に個人情報を登録しないし、病院なんて悪化するまでほったらかしだったし。

明らかに身元がわかることを危惧していた。

彼女は不安なんだ。

どこにいたって。

居場所をあげたい。

彼女にとって特別な場所。


『川瀬 美里さん、こんな俺で良ければ子供の父親にしてもらえませんか?』

これしかなかった。

俺も美里も家族を、本当の家族を切望してたから。

川瀬 美里じゃなくて全くの別人だったとしても、あるがまま、俺の知る彼女を愛しているのだから。


『いいの?こんなあたしで。

色々と問題かかえてるあたしなのに。』

なんて卑屈な。

我ながらものすごい卑屈っぷり。

それに、あたしは卒業まで学校に通って単位が足りたとして就職ができないこの状況で、シュウの収入だけに頼ると春架はどうなるのだろうか?

シュウと結婚すると決めただけでそんなことを考える。

ああ、ダメだ。シュウだってちゃんとしてる。

シュウを信じよう――――。






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