面会
30章 「面会」
『美里…。こんなに大きくなって。
会いに来てくれるなんて。』
記憶にあった母親はまだ若くて、でも、儚いイメージがあった。
今も変わらない。
あたしは母親をとっくに見つけていた。
だけど、母親があたしを捨てたんだって思っていて会いに来なかった。
『ありがと…う。あたし、幸せに…。』
これが精一杯の言葉。
那祇を亡くした那月があたしの命をあきらめていたら?
あたしはシュウと出会えなかった。
あたしにとって大事と思える人に。
『美里が戻ったか。
今まで行方不明でいたというのに。』
あたしは表情を冷涼なものに変える。
あたしが憎むべき相手は。
あたしにあんななんの望みも持てない過去を与えた人物。
今もなお、あたしを手駒として利用しようと目論む人物。
『あたしを利用しようと目論むのは勝手ですが、それは想像でしかないことを努々忘れぬよう。
あたしをあなたは捨てた。だから、今度はあたしがあなたを、いえ、巫を捨てる。』
ずっと考えていたことだ。
あたしのお父さん、那祇だってそうした。
結果的にあたしとお母さん置いて事故死してしまったけれど。
あたしはシュウと別れた今、この子を護らなきゃいけない。
『美里…。よく決心してくれた。
それでこそ那祇とあたしの娘。』
あたしには予感があったんだ。
美里が会いに来ないから、どこかに養子に出されたんだって。
なのに、捨てられてたなんて。
『あなたはあたしに会うことができない、もう、会ってはいけない人間です。
顔すら本来見せてはいけないのです。』
青柳でいた頃から否定されてきたから否定的な言葉を罵るのは得意だ。
あたしの未来をこんなにした人物。
自分でこんなにしておいて事実に気づかないなんて…。
『…ふふふっ。浅ましい人。
どうせ、あたしをどっかの金持ちと結婚させる気でしょうけど無駄なことよ。』
シュウの子を守る。
今のあたしの最大の任務。
シュウのためにこの、あまり丈夫と言い難い幼い身体を酷使してでも。
『えっ?って、美里…。あなた。』
母が驚き目を見開く。
どう答えよう。シュウにも言ってないことなのに。
あたし、お母さんには嘘をつきたくないなぁ。
その時、今日つけた髪飾りの存在に思い至る。
シュウに真実を伝えるとき、言葉が出ないことを恐れて買った髪飾り。
シュウに真実を伝える気はないし、自分で言いたい。
欲が出てこの、面会に着けてきた。
きっと、気づいてくれるはず。
お母さんなら――――。




