川瀬 美里という人物
3章 「川瀬 美里という人物」
『ちょっと、あんた。きちんと働きなさいよ』
そう言って怒るのがおば様の日常だった。
美里という名前があるのに、それすら、今まで呼ばれたことはない。
この家に来てから、3回桜をみた。
来た当時10の年を数えたはずだから、いまは13か。
みすぼらしいぼろ切れの服を着て、学校にも行かせて貰えない。
今までも、行く先で下働きとして働かされてきた。
親戚とは、所詮こんなものだと思った。
あたしと同じ位の子供の着付けの手伝いをさせられる。
なんでも、パーティーだそうで。
‘大企業’の‘お偉いさん’がたくさん招かれているらしいそうで。
逃げるなら、今しかない。
この家のいつもは着せられない‘使用人’のお仕着せを押し付けられる。
13歳のあたしを使用人にしておくのはいささか外聞が悪い。
年を尋ねられたら、18と答えるように言われた。
他にも、両親を亡くし、この家に引き取られたが、とても良くしてもらっていると言えと強要された。
この、やせっぽちのいかにも子供が18にみえるか。
親?野垂れ死にしてなけりゃどっかでのうのうと生きてるよ。
くだらない。鼻で笑った。
誰がお仕着せなんて着るか。
いつもの、だぼだぼの摩りきれたシャツに、ぶかいショートパンツ。
これでもましな方だ。
靴は年が3,4上の威張り散らした使用人に盗られてない。
さぁ、前代未聞のエスケープのはじまりだ。




