本当
28章 「本当」
『うん、やはり間違いないようだね。』
北海道のなかでも比較的大きくなく、かといって田舎みたいに小さくない街に落ち着いた。
本当は田舎に行くつもりだったけど、社長婦人の指摘が正しければ田舎では中学生か高校生の姿では浮いてしまうから。
ここに来るときも巫一族が末端、格下の跡取り娘の身分を借りた。
川瀬を名乗っては足がつくし、曽根だって同じこと。
あたしの父親は那祇だと証明できる写真入りのアルバムを隠していてよかった。
過去にあたしを虐待した親戚を脅す道具になったのだから。
『那祇氏のことを調べていて巫、大きい家の跡取りだとわかった。
末端の高校生の娘が北海道にいるらしい。』
表向き北海道へ行ったのは進学のためとしているが、当人は東京のミッションスクールの大学部に入学希望らしい。
だから、北海道へ行くはずがない。
ミサトの手がかりが掴めた瞬間だった。
周也は早速北海道へ向かった。
事前に写真で確認した尚一は間違いなく、中学生のミサトだと言った。
会いたい。
『うーん、あまりいい兆候じゃないなぁ。
君はまだ15と若いし、身体だって細い。』
医師から説明を受ける。
嫌。失いたくない。
がんばるから。あたし、がんばるから。
シュウとはもうだめかもしれない。
だから。
北海道に着いて尚一が用意してくれたホテルに入る。
朝になればミサトを迎えに行く。
どれだけ離れている間抱き締めたかったか。
もう、どこにも行かせない。
『パートナーは支えてくれているのかい?
君一人ではどうにもならないのはわかっているだろう?』
老医師が言うことはもっともだろう。
でも、あたしはこの事をだれにも、もちろん、シュウにも知らせてない。
彼にはちゃんと夢を叶えてもらいたいし、何より、春架がいる。
あたしは家族を見放す人は嫌いだ。
あたしには家族がだれも、シュウ以外いないから。
だから、彼があたしを捨てたらどうしようって。
怖くて。
ツキンッ。頭痛がする。
微かに鈍く痛む。
前に、こんなことがあった。
思い出さなきゃ。
大切なことをあたしは…。
『ああ、まぶしい。』
自宅アパートの布団の上。
3畳一間の一角。
今のあたしの体調を考慮して大家が入院している間、代理でバイトして家賃をタダにしてもらっている。
沖縄で稼いだお金にも限りがあるし、あまり無駄遣いしたくない。
あたしにとって大切な、もっとも忘れてはいけない本当を取り戻した――――。




