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サイレント  作者: 明日奈 美奈
24/41

恋人

24章 「恋人」

『美里は白河君のこと、信頼してるんだ。

だから、今回隙を見せて失敗した。

僕はまだ、美里には信頼してもらえてないのな。

もう、6年経つのに。』

美里は川瀬の家にきてからもどこかよそよそしくて他人行儀だった。

遠慮しているのかなと思いほったらかしにしていたけれど。

まさか、美里が高校へ行って一般常識を身につけて家を出る決意をするなんて思いもしなかった。


『何が6年なんですか?』

困惑顔で白河君が聞いてくる。

美里から養子である事実を聞いていないのだろう。

しかし、美里が信頼している間柄だ。

話してもいいだろう。


『お兄様、…話しすぎです。

その事をあたしからシュウに後で話しますから。

お兄様はお帰りください。

お姉様に疑われますよ?』

頭を押さえている彼女は、酷く顔をしかめていた。

棗のことを出されると兄が弱いことを知ったのは川瀬に引き取られてすぐだ。

青柳 美里という人間はとにかく人の機微に鋭い感性を早い段階から身に付けていた。

青柳の家でいるために。

もっとも、そちら方面に優れてもいたようだが。


『…で?教えてくれるだろう?』

6年と彼女の兄は言った。

6年前に彼女の身に何が起こったのだろうか。

彼女と19年を過ごしてきた彼女の兄。

悔しいけど、一緒に過ごした時間は少ない。


『あたし、13のとき川瀬 美里になったの。

養子として引き取られた。』

冷静な声で淀みなく言うその言葉はいつものミサトにないぐらい重みがあった。

川瀬に引き取られるまでの13年をどこでどうやって過ごしていた?なんて思っちゃだめなのに…。


『じゃあ、あのお兄さんは実の兄?』

彼女と引き取られたならそうだろうけど。

もし、そうじゃなかったら?

肩を抱かれた彼女の姿が脳裏から離れない。

実の兄じゃなかったら?


『いいえ、尚一さんは川瀬の実子よ。

幼い頃に両親を亡くし、祖父母に育てられたのだって。』

尚一さんがこの話をしていたとき、すごく悲しそうな目をしていた。

あたしも、人のことを言えないけど、あたしは父親も母親も写真すら見たことがない、記憶にない存在だ。

その痛みはあたしにはわからない。

愛された記憶ですらない。

愛は知っている。

シュウがあたしに示してくれたそれ。

尚一さんと棗さんのことを近くで見ていて、あたしにもその想いがあることを知っていた。


『じゃあ、どうしてこの姿で会ってたんだ?』

醜い嫉妬心だってわかってる。

だけど、ミサトが大事すぎて。

失うことが怖くて。


『大切な兄の尚一さんとその幼馴染みであたしが川瀬に引き取られたときからよくしてくれてる棗さんが結婚するから。

尚一さんに指輪選ぶの手伝ってって頼まれたの。』

尚一のセンスはあまりいいと言えないものだった。幼い頃からそうだったから美里に頼んだのだろう。

恋人は嫉妬深いと初めて知った――――。


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