義兄
23章 「義兄」
『大丈夫です。
倒れてすぐ、薬は吐かせました。
身元照会できるものを何も持っていなかったです。
本気だったようです。』
ああ、いつから俺、こんなに説明がうまくなったかな。
恋人が死のうとしてたのにこんなに淡々としていられる。
『ああ、えっと、君は?』
義妹が倒れたと聞いて飛んできたが、その、義妹の自殺を止め、尚且つ、付き添っているこの若い男は誰だろう。
真っ先に思い付くのは義妹の恋人。
だだ、義妹の過去からするに考えづらい。
『えっと、ミサトの高校からの友人で白河といいます。
ミサトとは同じ大学の別の学科に通っているので、親しくさせてもらってて。』
どぎまぎしながら、だいたいこんなところで家族の恋人だと名乗られても困るだろうと無難に答える。
本当はこんな形で会うべき人でないとわかっている。
『そうか、美里の。
ありがとう。妹を助けてくれて。』
リーマンの正体がわかった。
美里の兄、川瀬 尚一。
だが、あの疑惑は晴れない。
少しこの男と話してみよう。
『いいえ、こちらこそ。
心理学をかじっているのに妹さんの異変に気づかなくて。』
心理学は心理学でも、児童心理学だけど。
ミサトの異変に気づいていて、ミサトのあとをつけたなんて、できれば言いたくない。
『心理学ですか。
どの分野ですか?』
物腰良く、さっきの取り乱した姿が嘘のように聞かれる。
この男はミサトの自殺の件だけ目を反らした。
きっと、何かを知っている。
『児童心理学を主には。
自殺の兆候を見抜けないなんてまぬけですね。』
苦々しく笑う。
この人は何かを隠している。
ミサトの自殺の理由に関する何かだ。
未だに、美里の自殺の理由がわからない。
自殺ではなく、結果は未遂なのだが。
『…。』
苦笑いを呈して言う、爽やかでおとなしそうな好青年をまじまじと見る。
美人系ではないが、整った顔立ちの美里と穏やかで人の良さそうな白河。
並んだら、とてもお似合いではないか。
ああ、いけない。
これじゃあまるで、もう美里を嫁にやったみたいじゃないか。
『入院手続きしてくれたんだって?』
ここにくるまでに、看護師がそう教えてくれた。
今の美里は白河の従妹、春架ということになっている。
そして、僕の役どころとして白河と春架の後見人の弁護士。
『ああ、はい。勝手にすみません。
連絡したとき、インテリ系だって思ったから、弁護士ってことにして。
美里の手帳に名前と番号しかなくて。』
美里のやつ、まだ僕たちに心を開かないのな、苦笑いになる。
義兄として義妹を護ってた気になっていきがってたなんてお笑い草だ――――。




