墓標
22章 「墓標」
『那祇…。』
線香の香りが辺りに漂って、悲しい思いを引き連れてくる。
ふと、つい最近始めた孫探しについて考える。
息子の那祇が唯一残した孫。
13年前の自分を悔いた。
あのときは、那祇のことだって許せていなかった。
あの、娘のことも。
那祇の娘は今年でいくつになるだろう。
あの頃の那祇や那月さんと変わらないぐらいだろうか。
『あの、シュウのことだよ。』
シュウはあたしが隠した青柳 美里を知らない。
あたしが尚一さんの妹だと思ってるはず。
あたしの光だけ。
シュウが知らないあたし。
闇に今にも飲み込まれそうで。
おば様たちの家で居たときのこと、今でも夢に見てうなされる。
足の傷は痛みを発してまるで、あの頃のあたしがここにいると主張してるみたい。
傷はとうとう残った。
『あれ?この傷は?』
以前、シュウに聞かれたときあたしは兄と木登りしていて落ちて怪我したのだと嘘ついた。
小さいころはおてんばだったから、と嘘に続けた。
あたしの傷はおば様の家を出るためにつけた傷だ。
あまり、深くしたつもりはなかったが。
尚一さんには話を会わせてもらっている。
あたしの傷を悪く言われたくないとか。
『美里。お前の娘だ。
どうして、事故なんかで…。』
墓石に向かって言っても虚しいだけだとわかっている。
早く探し出して本家の跡継ぎに据えねば。
今までは病弱で表に出さないで通してきたが。
流石に、美里が成人間近で妙齢となると。
隠し仰せない。
だが、最初に引き取られた青柳以降の足取りがつかめない。
消息がぷっつり途絶えている。
まさか、その孫が一般的な普通の生活を送り、社会に紛れているなんて思いもしなかった。
そもそも、尚一は美里が恋人と慎ましやかに同棲していることを知らないし、シュウも美里と兄が豪奢な生活をしていたことを知らない。
2重生活の裏には那祇や那月と生活していたらあり得たであろう2つの今を生きる願望もあった。
『…にい…さ…。』
こんなときに呼ぶのは兄のこと。
わかっているけど、悔しい。
ミサトは樹海から出たときに意識を失った。
慌てて近くの病院に担ぎ込んだのだが。
『美里。』
そういって、駆け込んでくる一人の男。
確か、あの日見たリーマン。
ミサト、お前この人を保護者にしてんの?
僅かばかり、劣等感と、多大なる怒りの感情が頭をもたげる。
『那祇、お前の娘は巫の正統な跡取りだ。
少しばかりでもいい。お前に似ててくれれば。
』
静かに墓標をなぞりながら呟いた。
乾いた笑みを携えて――――。




