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サイレント  作者: 明日奈 美奈
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守護

21章 「守護」

『こちら、青柳 美里の部屋ではございませんでして?』

おば様。やっぱり、ここを嗅ぎ付けてきたんだ。

嫌っ。戻りたくない。


『いいえ、…いいえ、ここは兄が知人に借りてる部屋です。

確か、巫さんだとか。』

巫は青柳が本家と呼ぶ一族。

一族の人間が関わっている所は青柳は手を出さないはずだ。

本当は巫の名を出すのも嫌だ。

だけど、それでシュウが護れるなら。


青柳に見つかった。

それは、平穏との別れ。

早く、ここを出ないと。

シュウは残して行こう。

何も知らないのに巻き込みたくない。

逃げて、逃げて、…逃げ場なんてない、住み処もない不自由ばかりの逃亡生活にシュウを連れていけない。


あたしは、大丈夫だ。

何度だってひどい目にあってきている。

だけど、シュウにはそんなことさせられない。

前は海外を目指したんだだけ。

今度は、今度の目的地は、…。


ロープにカッター、睡眠薬…。

あっ、地図も必要か。

身元不詳にしないとだから、身元を示すものは持って行けない。

シュウとの写真も。

シュウには迷惑かけられない。


いざ、富士の樹海へ。

JRからモノレール、バスと徒歩でたどり着く。

富士の樹海は噂に聞く通りじめじめとしてあちこちに白骨が。

人骨がいっぱい。

諸先輩方に合掌。

本日、新たに死体を横たえることになる、新人自殺者です。

そちらの世界でのご指導のほど宜しくお願い致します。


さて、死後のための準備をば。

服は、流石に着替えづらい。

エンジェルメイクは覚えている。

死後、早く見つかった時のため。

実は、服の下に死後装束を仕込んでいる。

逆三角形の白布を被る。


薬を大量服用。

ああ、目の焦点が合わなくなるとか、雑誌の話だと思ってたけど。

木にくくりつけたロープに首をかけ、足場にした大きいキャリーバックを蹴飛ばそうと意思を決める。


『美里っ。』

シュウ。…どうして‼

何も言わずに出てきたのに。


『話してても焦点が合わない瞳、パソコンに残った山梨の青木ヶ原樹海の履歴、極めつけに、自殺希望サイトへのアクセス履歴。』

そういえば、シュウの専攻…、児童心理学でしたね。

心理学かじってるんでしたね。

すっかり失念してたよ。


シュウ、怒ると言葉が羅列されて出てくる癖があるんだよ。

最初に喧嘩したときの恐ろしいぐらいの、笑顔と言葉の羅列。

今、思い出しただけで身震いがする。


『何を思い出したのかな?

俺以外のこと?

忘れろよ。』

ミサトが何を思って家を出たのかわからない。

ただ、過去につらい目にあっていることはわかる。

夜中にうなされて何度も起きていて、たまに寝坊するのを知らないと思っているのか?

授業で習ったPTSD(外傷後ストレス障害)に類似した症状で何度か過呼吸発作を起こしてるって知ってる。

教授に知り合いの話として相談したら、過去において虐待、あるいは、それに近い状態だったんじゃないかと言われた。

だから、守って、護って、幸せにするんだ。

俺の手で――――。






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