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サイレント  作者: 明日奈 美奈
14/41

告白

14章 「告白」

『ねぇ、あなたは何を恐れているの?』

声をかけてきたのは今のあたしと同じ位の、髪

を花飾りで二つに結わえた女の子だった。

どことなく、懐かしい感覚がする女の子。


『あたしが、恐れている?

あたしは、もう、大切にしているものを失うのが嫌なだけ。』

そう、だから、大切だと言わない。

シュウだってそう。

もう、一人でいたくないから、一人になりたくないから。

これが、怖いということ?


『どうして、一人になりたくないの?』

だって、一人は怖い。

また、置き去りにされたみたいで。

あのとき、言葉に詰まって言えなかった言葉。

シュウがあたしに示してくれた感情。

シュウがあたしにくれた感情。


シュウがいなくなったら、それを考えるだけで怖い…。

シュウがいなくなったら、あたしは…。


『寂しい。シュウを失いたくない。』

唐突に叫んだ。あたしは、伝えないといけない。

シュウにこの想いを。届けなくちゃ。

シュウはあれだけあたしを好きだといってくれるもの。

怖がらないで。


『よかったね。ほら、感情が少し戻ったよ。』

そういって笑う、女の子が記憶を失う前の美里に見えたのは気のせいだろうか。


『うっ、うーん。』

目を覚ました美里はベッドの下で背をもたれ掛からせるようにして眠る恋人にタオルケットを掛ける。

その時、異変に気づいた。

着ているワンピースが膝上太股の半分位の長さで長袖のはずが、七分丈になっている。

極めつけは肩口や胸が少しきつい。

あわてて、9つか10のときの服を取り出す。

可愛くない。子供の服じゃない。

川瀬にいたころの服。

棗が見立ててくれたり、お下がりをくれたりしてたから、それなりに落ち着いた感じがする。

高校までは川瀬にいたが、意図的に川瀬の娘というのを隠してシュウと会っていた。

その時は、一人で買って隠していた、一般人を装うときの服を持ち、待ち合わせより早い時間に行って着替えて会っていた。

その間、来ていた服をコインロッカーに入れているため、駅前の待ち合わせが多かった。

改札だと、着替える前に鉢合わせしそうで怖かったから。


『おはよう。って、あれっ?

ミサト?少し大きくなった?』

大人びた表情は最初からしていたけれど。

なんだか、違和感が少し減った。


『うん。今のあたしは小学校中学年。

9つか10の年齢に見えるはず。』

美里は親戚の家に引き取られるまでの記憶がないこと、感情を知ることで19歳、元の年齢に近づくことをシュウに話してきかせた。


『だったら、見た目に似合うこと、ミサトが子供の頃にできなかったことをしよう。』

ミサトが子供の頃、ミサトは子供として過ごしてはいなかった。

薄々、その事には気づいていた。


言葉に出せば、ミサトが傷付く事がわかっていたから、言わなかった言葉。


『そうだね。憧れてたなぁ。

引き取られる家で見かけた同じ位の年齢の子供たち。』

誕生日のプレゼントが欲しいなんて言っちゃいけないと思ってた。

クリスマスの奇跡も、温かい家族も望めない。

奥さまの代わりに料理を作って、子供を着替えさせて、夕食なんてなくて薄暗い屋根裏で薄い毛布の中でうずくまって天国に行けることをのぞんでた。

あの頃の薄汚い子供じゃないってわかっていた。

だけど、なんとなく誕生日なんて言わなくて川瀬でも、祝ってもらったことはない。


『ミサト、…20の誕生日には今までの、20年分のお祝いをしよう。』

泣きじゃくって俺の言葉に耳を傾けるミサトにせめてもの生誕の祝福を。

そして、ミサトの人生で一番幸せな1日を一緒に過ごせる喜びを噛み締めて眠りにつく――――。







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