寂しさと恐怖
13章 「寂しさと恐怖」
『ああ、もう、ほら、泣き止めよ。
いい加減さぁ。
弱いもの苛めしてるみたいじゃん。』
ミサトを連れ帰ってかれこれ3時間。
ミサトは泣きじゃくっていてこのままじゃ、過呼吸発作でも起こしやしないかと内心冷や汗をかいている。
とりあえず、身体が冷えてはいけないと濡れた服を脱がせ、温かいお湯で湿らせたタオルで拭い、新しい服を着せた。
別にもう、恥ずかしがるなんて初々しいカップルでもあるまいし。
ポンポン…。
寝かしつけようと腹を軽く叩いてやるが、ミサトは眠らない。
一人でベッドに横たわっているのが嫌なのか?
横になって、小さいすっぽり抱き込めるミサトの身体を心音が聞こえるように抱き締める。
授業で習ったことがこんなところで生かせるとは。
俺は苦笑いを呈した。
ミサトを眠らせることに成功し、胸を撫で下ろす。
ミサトの様子が気にかかって、部屋へ戻る気もせず、ベッドの下に屈みこむ。
『うっん。いやあああぁぁぁぁっ。』
何度か雷鳴が轟いた時だった。
ミサトが大きな悲鳴をあげ、 目を開けた。
『ミサト、…ミサト。』
呼び掛けるが、ミサトは正気ではなく、震えている。
ミサトの身体を抱き止めて何度も大丈夫だと言ってやる。
守るから、大丈夫だと。
『あたし…、あたし、雨のなか、誰かに置き去りにされて、…雷が鳴ってて…。』
震えた声。
ミサトから、過去のことはあまり聞いていない。
ミサトも過去のことをあまり話したがらない。
いい思い出があまりないと、親戚の家で無きものとして扱われていたと言っていたことがあった。
置き去りにされたとは、親戚の家に引き取られたときのことだろうか。
それより以前のことは頑としてはなさない。
本当のところ、話したがらないのではなく、話せる記憶がないのだが。
ミサトは覚醒して正気をだんだん取り戻し始める。
『あたし、何か言ってた?
言ってたとしても、忘れて。』
あたしは一人で生きると決めたんじゃなかったっけ?
記憶がないことに気づいてから。
『俺は頼りにならないのかな?
せめて、愛する恋人が弱ってるときぐらいはさ。
お前に愛されてないと知っててもそう思っちゃだめかな。』
切なく、悲しそうで、それでいて、ミサトを心配している事が表情から読める。
この感情を知ってる。
親戚の家にいたときに一番にかんじた感覚とおんなじ。
気を失うように眠る美里。
愛しき人に抱き締められて――――。




