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サイレント  作者: 明日奈 美奈
10/41

本当の涙

10章 「本当の涙」

『あれっ?』

家の前まで帰って、部屋の電気がついてないないことに気づく。

ミサト、どっか出掛けてる?

でも、この雨のなか、どこに?


シュウはハッとして駅への道へ走る。

いない。

どこだ?

駅周辺はいないし。

ミサトが人を待つとしたら。

あの、川縁かな?


でも、ミサトはお兄さんの事とても慕ってて、恋人の俺だって、まだそこまで信頼されていなくて。

今まで一度だってお兄さんに会わせてもらっていない。


本当の兄ではないとわかっていてもミサトが、家族とどう接しているのか気になるし。


川縁に向かって走る。

ミサトがいると信じて。


『何でこんな目に遭うかな。』

美里は雷鳴が嫌いだ。

何か、とてつもなく大きな事を忘れていそうで。


美里の父親、那祇の死因はバイクによる事故死。

雨でスリップしたバイクに跳ねられ、死んだらしい。

那祇本人は真面目な建設の現場職員として働いていたそうだ。

そして、美里の母親も同じように真面目で、しかし、身体の弱い女性だった。

那祇はそんな彼女のことをとてもなんて言葉で言い表せないほど大切にしていた。

美里の誕生を彼女と一緒に一番心待ちにしていたし、美里を心から愛してくれていた。


美里がこれらを知ったのは極最近、川瀬に引き取られてからだ。


美里が家に引き取られて知ったのは、両親の事をあまり知らないことだった。

尚一でさえ、両親がどういった人だったのか知っているのに。


人を使わず、ましてや、美里の両親の名前すらあやふやなまま二人を知る人をさがすのは苦労した。

美里の父親の職業がわかったのがせめてもの救いか。

それも、駆け落ちした両親が底辺に落ちたと酔っ払った親戚が笑い話にしていたと無表情に言っていた。

いや、美里本人は少なくとも、苦笑いを浮かべて苦々しそうに言っていると思っているだろう。


『現場監督さんですね?

はじめまして。川瀬 尚一といいます。』

那祇氏の死の直前、那祇氏の直属の上司だった曽根氏。

さすが、現場の纏め役だけあって迫力がある。


『そうだが、お前か。

俺の昔馴染みの話が聞きたいと言うのは。

なんだ?まだ、年端もいかない子供じゃないか。』

那祇の手がかりを求めて1年。

もうすぐ17歳になろうとしていた。


『あのっ。えっと、那祇氏の事を覚えてませんか?

あなたの部下で事故死してしまった、那祇氏です。』

どう切り出すべきか迷った。

先に、那祇の娘、美里の事を話すべきか。


あぁ、そっか。尚一さんと普通の兄妹として過ごせるようになったのは、尚一さんが曽根のおじさんを探して会わせてくれたときだ。

だから、シュウは知らないはず。

あたしの兄が血のつながりがないって。

会わせたら、知られちゃう。

二人揃って川瀬に引き取られた訳じゃないって。

あれっ?おかしいなぁ。

眼から生ぬるくてしょっぱい液体が。

雨と夕方でよかった。

誰にも見られずに済むから――――。






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