1-3 彷徨う骸骨
「それで、これからどうするの?」
「まぁ、下に行くか、瓦礫をどうにかして上に行くかなんだろうが……」
髙橋の問に答えつつも、視線を瓦礫の方へと向ける。
そこにあるのは、大量かつ結構な重さがありそうな瓦礫の山。
俺と髙橋では、どう手を尽くしたところでどうにかなるとは思えない。
というわけで、基本的には下に行くしか無いわけだが。
「問題は下に行っても脱出できそうにないってことだよな」
「ゲームなら一番下に行けば、外にでる方法があるんだけどね」
「いくらゲームに出てきそうな場所だからって、そう都合がいいことが起こるとは思えないけど……」
「じゃあ、あれをどうにかするの?」
そう言って髙橋は手に持ったメイスで瓦礫を指す。
女子である髙橋はもちろんのこと、俺の身体能力も一般的な男子高校生の範囲から逸脱しない程度だ。
俺がメイスで思いっきり瓦礫を殴っても、ほんの少しひびが入るかどうか。
むしろ上手く瓦礫を崩すことができたとしても、倒壊なんて事になったら目も当てられない。
かと言って一つ一つ丁寧に取り除いていたら、少なくとも手持ちの食料では足りないほどの時間がかかるだろう。
となると、結論は一つしか無い。
「――とりあえず下に降りていこう。後のことは、後で考える」
「私もそれでいいと思うけど、ただの問題の先送りだよね」
髙橋の発言はスルーすることにして、俺達は下へと降りて行くことにした。
「それで下に降りてきたけど、何も変わらないね」
「そんなこと言うなよ……」
しかし髙橋の言うとおり、何も変わってない。
朽ち果てそうな松明も、無機質な壁も、ひんやりとした空気も、少し気味悪いくらいの静寂も。
このまま何一つ変わらないままなのか、そんなことを考えているとき、変化が訪れた。
それが望ましいものなのかそうでないのかは、ともかくとして。
それに最初に気づいたのは、俺ではなく髙橋だった。
「……何か聞こえてくる、何の音だろう」
「……確かになにか聞こえてくるな」
さっきまではお互いの足音くらいしか聞こえてこなかった空間。
しかし今は、硬質なものがぶつかり合うような音が響く。
そしてその音は、徐々に近づいてきていた。
歩みを止めて、その音に耳をそばだてる。
「……どうすっかね」
「どうするも何も、確認しないことにはどうしようもなくない?」
「ですよねー」
止めていた歩みを再開する。
ゆっくりとだが確実に、その音は近づいていた。
そしてそれから1分もしないうちに、その音は正体を現した。
その正体は、
「――歩く骨格標本?」
「いやまぁそうなんだけど、スケルトンとか他に言い方は無かったのか……」
カシャカシャと骨を打ち鳴らしながら、カツカツと足音を響かせながら、ゆっくりと歩みを進める骸骨だった。
腰には見覚えのある袋、そして両手には剣と盾。
それは上の階で見た白骨死体が意思を持って歩いているように見える。
ゲームになぞらえるならスケルトンと言うべきものが、そこにいた。
「武器持ってるね、あの骨格標本」
なぜそこまで骨格標本にこだわるのだろうか。
しかし髙橋の言うことは事実だった。
あまりにも緩慢な動作のせいかまるで恐怖は感じない、むしろ滑稽にしか感じないが、武器を手にしているのは事実だった。
今俺達がいるのは細長い通路。
そして彼我の距離はおおよそ20メートルといったところ。
あの緩慢な動作から見るに逃げるのは簡単そうだが、逆に前に進むというのなら接触は避けられない。
そして、どうしたものだろうかと思案する俺の視界にあるものが横切った。
それは上の階で回収した、短剣。
その短剣は俺が視認した時には、ものすごい速度でスケルトンへと向かっていた。
そのまま速度を落とすこと無く短剣はスケルトンに突き刺さる。
――と思われたがそんなことはなく、小気味のいい音を響かせながらスケルトンを構成する骨々を四散させた。
ついさっきまで、ゆっくりとではあるが確かに動いていたはずのそれは、数瞬の間に見るも無残な状態へと変貌していた。
視線をちらりと横に向けると、そこには軽く物を投げたと言わんばかりの体勢の髙橋。
ここに来てから一度もいつもと変わらぬ状態を崩していなかった彼女の表情は、微かに引きつっていた。
色々と思うことはあったが、その表情に俺は上の階で感じた謎の敗北感が払拭されていくのを感じた。