1-2 敗北感
「見た目は重そうだけど、持ってみると意外と軽いんだね……」
「ちょっと待て髙橋、何でお前そんなに普通なんだ」
「そんなこと言われても、なんかこれ骨格標本みたいであんまり怖くないよ。……これ何で出来てるんだろう、軽いけど硬そう」
そんなことを言いながら髙橋は白骨のひとつが握っていた剣を手にとって軽く振り回す。
……一応俺から距離をとってはいるが、すっぽ抜けでもしたら普通に危ないと思う。
閑話休題。
確かに白骨死体にしてはやけに清潔な様子で、変な匂いとかもなくまるで人工物のような雰囲気さえ醸し出していた。
髙橋の言葉を借りるなら、骨格標本にRPGに出てきそうな小道具を持たせたり着せたりしているように見えないこともない。
けどこれらが本当に骨格標本で剣とか杖とかその他諸々が偽物だというのは、希望的観測がすぎるだろう。
そもそも髙橋のせいかおかげか実感があまりないが、今俺達が陥っている状況はとても普通とはいえない。
それなのにいま眼の前にある白骨やその他諸々が偽物だと考えるほうが不自然だ。
これら全ては本物で、これから先は剣や盾で武装しないといけないような場所で、もっと言えば武装していても死んでしまうような何かがあるかもしれない。
……そんなことを俺が真面目に考えている最中、髙橋は白骨から色々と物色しては振り回していた。
女子高校生がごっつい剣や重そうなメイスを振り回してるの、すごくシュールだなぁ……。
いまいち緊張感が持てないが、瓦礫を取り除いて上に向かうにしろ、そのまま下に行くにしろ、手ぶらで行くというわけにも行かない。
仕方ないから髙橋に混じって白骨から使えそうなものを漁ることにした。
……食料はとても期待できそうにないが、どうしたものだろうか。
「腹が減ったわけじゃないが、いつまでも飲まず食わずというわけにもいかないし……っと、そういやこの袋は何なんだ?」
ほぼ全ての白骨死体が身につけている、謎の袋。
持ってみると不思議な手触りで、中に何が入ってるという感触も、重さもない。
中に何も入ってないのかと思ったが、開けないわけにも行かないのでとりあえず袋の口を開いてみる。
そして袋の中に入っていたのは、
「……何で、真っ黒?」
もはや物ですらなかった。
そこに空間があるのかさえ怪しい、全てを塗りつぶすような一面の漆黒。
と言うかこれは、袋の中身というかさえ怪しい。
ちなみに髙橋は未だに呑気に遊んでいる、お気に入りは無骨なメイスらしい、何でだ?
しかしこの謎の袋、何かが入ってるようには見えないがこれだけ多くの白骨が身につけていて何もないようには思えない。
仕方なしに手を突っ込む。
すると突っ込んだ手はするすると飲み込まれていき肘辺りまで綺麗に収まった。
明らかに袋の大きさは肘の長さに足りないのに、だ。
「……なるほど、なるほどなるほど、つまりこれはあれか。たくさん物が入る魔法の袋的な何かか」
目に見えるようなとんでも現象に放心しそうになるが、視線を髙橋の方に向けて気分を落ち着かせる。
今度は白骨からローブを剥いで身にまとっている、暖かかったりするのだろうか……。
何で髙橋はあんなに呑気というか危機感がないというかいつも通りなんだろう、とても不思議だ。
とりあえず、袋の中に何が入っているか探らねばなるまい。
そんなことを考えた瞬間、ぼんやりとだが脳内に何が入っているかが浮かび上がってくる。
魔法の袋なんだからこんなこともあるのだろう、多分……。
どうやら中に入っているのは、干し肉に水筒、あとは短剣と何かの本らしい。
食料もあるみたいだが……当然食べれるようなものじゃない可能性もある。
食料の確認が最優先だろうということで、まずは干し肉を袋の中から引っ張りだす。
意味もなく高々と掲げるように干し肉を取り出す。
そしてそんな俺に視線を向けるローブをまとい片手にメイスを握る髙橋。
「……いつから、湊君は手品師になったの?」
「何でそこで手品師をチョイスしたのか聞きたいし、もっと言えば何でローブ着てメイス手に持ってるのか聞きたいわけですが」
「使えるものは、持っていたほうがいいでしょ?」
「……いや、うん、まぁそうなんだけど」
髙橋はどうやら遊んでいたわけではなく、割と真剣に物色していたらしい。
そこはかとなく負けた気がするのは気のせいだろうか。
脱力感を感じつつもとりあえずこの袋について説明する。
「それで、そのお肉食べられるの?」
「流石にそこまではわからないけど、現状これ以外は食べるものがないわけだからな」
「まぁ食べ物に関しては湊君に先に食べてもらうとして」
「おい髙橋、それただの毒味だよな?」
「とりあえず使えそうなもの、集めよっか」
「……ああ、そうするか」
それから一時間ほどをかけてローブや魔法の袋、その他持っていけそうな武器の類を回収した。
その間、髙橋に対して感じていた謎の敗北感が払拭されることは、なかった。