1ー1 瓦礫と階段と
「……なんだか、夢でも見てるみたいだね」
「これが本当に夢だったら、それ以上に嬉しい事はないけどな」
俺と髙橋は行く宛もなくふらふらと歩きまわる。
ここがどこかもわからず、上に行けばいいのか下に行けばいいのかもわからず、そもそも脱出できるのかどうかもわからない。
とりあえず階段の一つでもないか、探しまわることくらいが今の俺達にできることだった。
「結構歩きまわってるけど、なにもないね」
「ああ、呆れるくらい何もないな」
視界に映るのは無機質な壁と朽ちかけの松明のみ。
松明の位置や状態でなるべく同じ場所をぐるぐる回ってないか気にしてはいるが、気を抜けば今すぐにでも迷いそうだった。
松明の炎が揺らめくばかりで、俺と髙橋の足音以外の音がまるで聞こえてこない。
時折話しかけてくる髙橋に相槌を打つだけで無為に時間が過ぎていく。
歩きまわりはじめて1時間程が過ぎた……気がする。
相変わらず何一つとして見つからず、進展のなさにイライラしてきそうなものではあるが、そうはならなかった。
原因というべきか何と言うべきか、その理由は髙橋にあった。
今俺達が置かれている状況は謎だらけだ。
寝ていたはずなのに目覚めたら制服姿になっていて、こんな場所にいて。
普通だったらパニックになっていてもおかしくない、でも俺がそうなっていないのは、どことなく日常を感じさせる髙橋のおかげと言える。
世間話をするかのようなテンションで、時折会話を投げかけてくる。
その様子はまるで教室で雑談に興じる様子と何ら変わりがなかった。
沈黙したかと思えばとりとめもない会話を投げかけてきて、そのフラットとも言うべき調子に、俺の中の緊張感や危機感はゴリゴリと削られていった。
大物なのか、単純に危機感に欠けているだけなのか、こんな状況で日常と変わらない髙橋に、俺の精神は多大な影響を受けていた。
もし髙橋がパニックになっていたらおたおたすることしかできなかっただろうし、放心状態になっていてもどうしようもなかっただろう。
考え過ぎかどうかは別として、少なからず髙橋の普段と変わらない様子に救われていた。
それが現状打破に繋がるかは、別として。
しかしそれでもなにも変わらない状況には辟易してきた。
髙橋は振ってくる話題の半分ほどが『何もない』なくらいには、何もない。
「……こんなに迷宮っぽいし、宝箱の一つや二つありそうなものだと思うんだけどなぁ」
そんなことをぼんやりと考えていると、また髙橋が話しかけてきた。
まぁ、今のは話しかけてきたというよりかは独り言に近いけど。
その声にまたもや俺の中の辟易とした気分が和らいでいく。
……学校ではほとんど関わりがなかったけど、意外と髙橋は癒し系だったりするのかもしれない。
「宝箱って、それはただのゲームだろ……。あって骨とか、そんなもんじゃないか」
「実際には、何も見つかってないけどね」
「それはそうなんだが……」
そんなことを話しつつも通路の角を曲がった時、俺達の視界に三つのものが映った。
まずひとつは、下へと降りる階段。
次に、おそらく上へ登る階段があったであろう場所を埋め尽くす瓦礫の山。
そして三つ目は、剣と盾や、杖とローブ、謎の袋などを身につけた白骨死体の数々だった。