Prologue
目が覚めた時に感じたのは、いつもの生ぬるい空気と慣れ親しんだベッドの感覚。
……ではなく、やけにひんやりした空気と冷たく硬い床の感覚だった。
そして不意に聞こえてくる俺の名を呼ぶ声。
「あ、湊君、起きたんだ」
「……は? 何で髙橋?」
「確かにそう言ってしまうのも仕方ない状況だと思うけど、女の子に向かっての第一声がそれってどうかと思うよ?」
「いや、そういうことが言いたいわけじゃなくてだな……」
そこにいたのは同じクラスの髙橋柚月。
全く関わりがないかといえばそうでもなく、かと言って親しいわけでもない、そんな関係だ。
クラスの雰囲気を良くするわけでもなければ悪くするわけでもない、顔立ちは整っている方なのになぜか男子の間では話題にならない。
毒にも薬にもならない人物、それが俺の知る髙橋柚月だ。
「まぁ、それは置いといて」
「置いとくのかよ……」
「ここ、どこかわかる?」
「……如何にもRPGに出てきそうな迷宮の中、かな……」
それは妄言でもなく、場を和ますための冗談でもなく。
ただ視界を覆い尽くす逃避したくなるような現実を口にしただけだった。
「別に私、見ればわかるようなことを聞いた覚えはないんだけど……」
とりあえずそんな髙橋の言葉は気にしないことにして、俺はため息を付いた。
全く、いったいどうしてこんな状況に陥ってるのやら……。
仄暗く、光源は今にも朽ち果てそうな所々に設置してある松明のみ。
そんな場所で、俺と髙橋は二人、制服姿で鎮座していた。