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紫羅義  作者: 海道 睦月
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その8

 魏嵐が宰相になって一年、もはや逆らう者は誰もいなかった。

「宰相に逆らう者はもうおりません、そろそろ最後の詰めとまいりましょう」

「詰めか」

 楊薪雷が進言すると、魏嵐は目を輝かせ体を揺すった。

 詰めとはつまり帝位を奪いとることなのだ。副宰相になっていた墨幻蒋が天子の前に進み出て平伏し、言上した。

「皇帝陛下、魏嵐宰相は玉座の椅子を求めておられます、いかがなされますか」

 皇帝はこの日が来ることを予測していた、断れば命はないのもわかっていた。皇帝の味方をする者はもう誰もいない。

「わかった」

 虚ろな目で、皇帝は力なく答えた。

「では、明日、文武百官の前でお話をお願い致します」

 墨幻蒋は冷ややかに皇帝を見上げた。

 次の日、皇帝は皆が参列する前で魏嵐宰相に帝位を譲る旨を公言し、禅譲の儀式が行われ、楊薪雷が進言した計画に沿って、魏嵐は志芭王朝の第一三代の皇帝となった。

 王朝の名を変えずにそのままにするのは墨幻蒋が進言したことで、二百年続いた王朝の名を使えば天下の反意を和らげることができると考えたのだ。だが、それでもいくつかの反乱は起こった。

 挙兵の名目は乗っ取られた王朝を復興させるというものだったが、本音は自分が帝位を簒奪してやろうというものがほとんどだった。

 魏嵐皇帝は朱浬の都に進軍した反乱軍当時の兵を集めた。

「待たせたな、諸君の思い通りにお宝も女も奪えるときがきた、近隣の国から侵攻してくる反乱軍を叩き潰し、そのままその国に突入せよ、奪ったものは全てお前たちのものだ」

 大声で激を飛ばすと同時に、元々の国軍の将兵に対しては近隣の属国に侵攻し、反乱を未然に防げと命じた。

 魏嵐皇帝軍は強かった。

 (えい)の国は最初に魏嵐の王朝を倒すべし、と反乱を起こしたが、ほとんどの兵たちは、簒奪が真実なのかもはっきりわからず、王の号令だから行くという意識が強かった。相手は皇帝軍なのだ、しかし、戦えと言われれば、戦うしかない、士気は上がらず、自分たちの進軍が正しいのかどうかもわからない。

 だが、魏嵐に従って都に乱入した者たちは違う、都に入ったときは我慢せよと言われたが、今度は、皇帝の後ろ楯があり、奪えば、お宝も土地も地位も、全て自分のものと公言されたのだ。

 出遅れれば取り分がなくなる、軍隊蟻の群れのような皇帝軍はただちに反乱軍鎮圧に向かい、両軍は正面から対峙したが、戦う前から勝敗は見えていた。戦う意義もなく、信念もない栄国軍と、泥沼のような生活から這い上がり、奪って地位と財を得ようとする者たち、しかも後ろには皇帝がついている、司令官も隊長もない、各自の心の中に「奪え!」とだけ号令をかける司令官がいる略奪集団。この二者が戦ったのだ。

 皇帝軍とは名ばかりの、鬼気迫る元略奪軍の迫力に栄国軍は太刀打ちできなかった。すぐに総崩れとなり、そのまま逃げ、その栄国軍を追い、皇帝軍は栄国に入り込み略奪の限りを尽くし、国王やその一族を惨殺した。

 魏嵐は、同じく反旗を立ち上げた(かい)の国にも凶悪な鎮圧軍を差し向け、全てを奪い、隗国の王族をことごとく粛清した。

皇 帝軍は栄国と隗国を蹂躙し、王とその一族を全て処刑してしまったのだ。

 これを聞いて、反乱を企てた国々は、魏嵐皇帝に使者を送り、服従の意を示し、自国に兵を向けないように懇願した。様子見を決め込んでいた他の国も次々と王朝に服従する旨の使者を送り、魏嵐は名実ともに志芭王朝の皇帝となり、逆らう者はいなくなった。

 それから数ヶ月後、幽閉されていた前皇帝の超月章は世を去った。病死とされたが、魏嵐の命により毒殺されたことは誰もが知っていた。魏嵐は憂いとなるものを全て取り除いたが、ただ一つだけ取り除けないものがあった。 その憂いは毎夜のごとく枕元に現れ、彼を悩ませていた。

 超月章皇帝は酒と女に溺れ、政治に携わらなかったために世の中が乱れたが、魏嵐が皇帝になってからはさらにひどくなった。 

 彼は冷徹な上に、本質は「奪え」なのだ、皇帝になった今、その権力にものを言わせ、世の中の宝物と言われるものを全て手に入れようとした。そればかりでなく、己が贅を尽くすために農民からの搾取は過酷になり、また、美女がいると聞けば兵を差し向け奪い取った。

 人々は前の王朝の方がまだましだったと魏嵐皇帝に対して怨嗟の声をあげたが、王朝の兵力にはとても太刀打ちできず泣き寝入りするしかなかった。


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