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紫羅義  作者: 海道 睦月
63/125

その63

 そのお宝とは志芭王朝の創始者である(ちょう)(げっ)(たん)が所有していた(ほう)(ぎょく)(せき)というもので、それを持つ者が大基慈大陸を治めるに相応しいとの証になる物だと言う。

「この大陸の主の証だと!」

 魏劉輝の目が輝いた。

 魏嵐の血を色濃く受け継ぎ、野心とか支配に敏感な彼にとっては、黙って聞き流すことのできない話であり、早速、隗老山の場所を聞き出し、私設兵団二百騎を率いて出発し、五日後には、山に入る道の前に立っていた。

「ここか、この山の何処かに、皇帝となる者の証が隠されているのか」

 魏劉輝は目の前の緑に覆われた山々を見回した。

 魏劉輝と行動をともにする二百人の殆どは鳳玉石なるものの存在を信じているわけではなかった。彼らは千人を超える食客たちの一部であり、お付き合いをしているのだ。

「わしの孫は本来ならば皇帝になる立場だったのだ、その孫の護衛の任に就けることを光栄と思うことじゃ」

 主の命により、仕方なくその孫である魏劉輝の命に従っている。

「やれやれ、お孫様におかれましては、今度はありもしないお宝探しか、付き合うのも大変だ」

 彼らは陰でそんなことを言っていたが、今まで世話になっている恩があるし、魏劉輝の私設兵だと屋敷内での待遇が良いのだ。だから、彼らは文句を言わず、魏劉輝を、将軍、と呼んで従っていた。しかし、山の中に入って三日目、高くはないとはいえ、あちらの山、こちらの山を何度も登り降りして、さすがに彼らも、もうこれ以上のお付き合いは勘弁願いたいという気持ちを表に出してきた。

「将軍、もう帰りましょうや、何処にもお宝がありそうな祠も塚もありませんぜ」

 食客兵たちはあからさまに不快感を言葉に出した。

 魏劉輝もさすがに山中での野宿はもう嫌になってきていた。

「わかった、もうすぐここの山の頂のようだ。そこまで行って、周囲を見回し、それで何もなければ帰ろう」

 彼は山頂の方向を見てため息をついた。

 山の頂き近くまで来たとき、一人が声をあげた。

「あそこに何やら開けた平地があります」

 そこには確かに広くはないが開けた場所があり、端に何やら小さい祠の様な物もある。

「行ってみよう」

 魏劉輝は皆を先導し、急ぎ足でそこに向い、草の生えた平地を横切り、祠に辿り着いた。

 その祠には『()()一族の守護神』と書かれてあった。

「将軍、我らの探し求めていたのは超月誕の持っていたお宝です、これは違うようですね」祠を取り囲んだ中の一人が中を覗きながら言った。

「とにかく調べてみよ」

 魏劉輝は祠を嘗め回すように見ながら命じた。

 一人が祠の小さい扉を開けて「あっ」と叫んで中から何かを取り出した。それは鳳凰が彫ってある白く輝くような平たい石であった。

 両手で持ち、魏劉輝に手渡そうとしたとき、その者の額に何かが音をたてて刺さり、石を持ったまま、どっと倒れた。

「これは!」

 魏劉輝は自分の目を疑った。

 額に深く刺さっていたのは、どう見てもその辺りに生えている普通の草であり、それがまるで矢のように額に突き立っていた。

「盗人どもが!」

 その声に振り返えると、いつの間にそこに来たのか、一人の男が立っており、手には草の束を持っていた。

 食客兵は剣を抜いて男に詰め寄ったが、男が「むん」と気合いを込め、手に持った草の束を投げつけると、食客兵たちの体や顔には無数の草が突き刺さり、いくつもの悲鳴があがった。

「俺の名は司鬼一族の(げっ)()、草でも木の枝でも、俺が気を送り込めば鋭い剣のようになる、お前たちのような雑兵が何人かかってこようが相手にはならん」

 月伽と名乗った男がさらに草の剣を投げつけると、食客兵たちの間からは再び悲鳴があがり、それと同時に右手にいた者たちが騒ぎ出した。

 そこには大男が立っており、人の倍以上はあろうかと思われる長い竹を振り回し、一振りするだけで周りにいる四、五人がふっ飛ばされていた。

「俺の名は(げん)(らい)、ここは我らの神聖なる場所だ。貴様らごときが来る場所ではないわ」

 大男はそう叫ぶと、長い竹を大剣のように振り回した。

 その後ろから黒い影が走り出て飛び上がり、食客兵たちの中に躍り込んだ。その男は小柄であったが、二本の剣を目にも止まらぬ速さで使いこなし、瞬く間に周囲にいた者たちを倒していった。

「俺の名は(そう)(りゅう)、鳳玉石を狙う者は生かしてはおけん」

 双竜と名乗った男は、そう言うと同時に二本の剣を目にもとまらぬ速さで躍らせ、次々に食客兵たちを倒していった。

 皆が右往左往している間に、魏劉輝たちは数十人に取り囲まれていた。

 食客兵たちは来た道に向かい一目散に走り出し、手に鳳玉石を持った魏劉輝だけが取り残され、男たちに取り囲まれた。

「なんだ、まだ子どもではないか、小僧、その石はお前が持つような物ではない、命は取らないでやる、それを渡し、すぐに消えろ」

 月伽は手を差し出したが、魏劉輝は首をゆっくり横に振った。

「いや、この石が皇帝たる者の証ならば、俺が持つべき物だ。俺は前皇帝の嫡子だ」

 魏劉輝は石を持つ手に力を入れた。

「なんだと!」

 男たちの顔色が変わった。

「では、貴様は超太幻の血筋の者か、ならば生かしておくことはできん」

 双竜は剣を魏劉輝の首に当てた。

「違う、違う!」

 今度は思いっきり首を横に振りながら魏劉輝は叫んだ。

「俺は前皇帝であった魏嵐の息子だ、超太幻の血縁ではない」

 魏劉輝の言葉に男たちは互いに顔を見合わせた。

「お前は我らを騙そうとしているのか、もしそうなら即座に首と胴が離れるぞ」

 双竜にそう言われて、魏劉輝はもう一度大きく首を横に振り、父親から聞いていた朝廷簒奪の武勇伝と、自分が城から追われた経緯を話して聞かせた。

 男たちはその話しを、驚いたような顔をしながら聞いていた。

「我らは長い間この山から降りてはいないし、外の世界との縁も断っていた。その話、我らの長にも聞かせるのだ」

 彼らは魏劉輝を自分たちの村に連れて行った。

 祠の向こう側には細い道があり、そこを降りると、目の前がいきなり開け、一つの村が姿を現した。

 魏劉輝は城を思わせるような大きな屋敷に連れていかれ、そこで司鬼一族の長で、(げん)(しょう)と呼ばれる者に会った。

 玄祥も魏劉輝の話を聞き、驚きの表情を隠せなかった。

「そうか、そのようなことがあったのか、超太幻の天命も尽き、その次の代になっているであろうとは思っておったが」

 玄祥は複雑な表情で魏劉輝の顔を食い入るように見た。


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