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紫羅義  作者: 海道 睦月
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その6

「将軍、戻りましょう、都が落ちればここで戦う意味はありません」

 諸将たちは一斉に口を開いた。

 討伐軍が、前方の反乱軍を叩くべきか、すぐに引き返すか迷っていた頃、朱浬の都を攻撃した魏嵐軍はすでに城壁内になだれ込み、城内を守っていた留守部隊はもはやこれまでと次々に逃げだし、すでに勝負はついていた。

「ついに俺様が皇帝になる日が来たか」

 魏嵐がそう言いながら宮殿内に乗り込もうとしたとき、(よう)(しん)(らい)という参謀役の一人が進言した。

「お待ちください、将軍。ここまでくれば天子を斬り、その地位を奪うのは容易なことです。しかし、いくら地に落ちた王朝とその天子とはいえ、簒奪すれば天下はあからさまに反意を示すのは明白です。どうでしょう、ここは我らが天子を担ぎ上げ、国軍になるというのは」

「天子を担ぎ上げろと言うのか!」

 魏嵐は不満そうに楊薪雷を睨み付けた。

「はい、天下をこのように乱したのは、私腹を肥やし、利権を貪るために天子を意のままに操る重臣たち、その者たちを成敗するために将軍は立ち上がり、天子を助けに来たと。そのような名目を掲げれば万民は魏嵐将軍に喝采を送るでしょう。後は重臣たちを除き、実権を握れば皇帝の玉座を奪うのは遠いことではありません」

 楊薪雷は淡々と喋り、そして、頭を下げた。

「わかった、帝位簒奪までの道筋はお前が作れ」

 魏嵐はニヤリと笑った。

 魏嵐は冷徹で野心家だったが、頭は非常に切れる人間だったので楊薪雷の進言をすぐに理解し、取り入れることにした。

 宮殿内には兵士の姿はすでにほとんど見当たらず、いてもなだれ込んでくる魏嵐軍を見て逃げ出す始末だった。皇帝のいる広間に入ると、逃げ出す暇がなかった超月章皇帝と重臣たちがおり、そして、それを守る少数の兵が剣を手にして身構えていた。

 重臣たちは逃げ出さなかったのではなく、もはやこれまでと思い、相手に取り入り国政に参与し、再び利権を貪るつもりだったのだ、そのためには皇帝という餌があった方がいい、そう思い、天子を逃がさず自らもそこに留まっていたのだった。

 魏嵐は前に進み出ると床に剣をドカッっと突き立て、兵たちを見回しながら一喝した。

「我らは乱れた今の天下を憂い、それを正すため、超月章皇帝陛下を補佐しようと、ここにきた義勇軍である、我らはこの先、陛下の補佐役になる、つまり諸君らは今、皇帝直属の家臣となる我らに剣を向けているのだ」

 魏嵐の言葉に警備の兵たちは目だけ動かして周囲の動きを確かめた。どうするか、動くに動けず他の者の動きを確かめていたのだ。

 後ろから宰相である武元紀の声がした。

「皆の者、剣を納めよ。その将軍は天下を憂い、ここまで苦難を乗り越え馳せ参じた義の者である」

 兵たちの体の緊張は一気に解け、剣を納めると同時に左右に分かれ、道が開けた。開けた道の先には中央の玉座に皇帝が座っており、その両側には重臣たちが立っていた。魏嵐は進み出て、皇帝の前まで行くと軽く頭を下げ、自分の意思と、今までの経過を皇帝に告げた。

 天子の前では誰であろうと床に頭を付けるように平伏しなければならない、立ったまま挨拶するなど言語道断であり、それだけで投獄される罪だが、誰もそれを咎める者はなく、皇帝自身も、魏嵐の言上を震えながら黙って聞いていた。

「将軍、遠路ご苦労であった、そのほうの天下を思う意思と行動力、陛下もさぞお喜びだろう」

 武元紀が褒め称えたが、魏嵐は無表情のまま何も答えずに振りかえり、守備の兵たちに向かって、言葉を発した。

「お主たちの陛下への忠義の心、見せてもらいたい。私利私欲にはしり、財と利権を貪る奸臣共に囲まれ、陛下は天意を実行することができず、そのために天下は乱れてしまった。悪の根源はここにいる重臣共だ、即刻捕らえ投獄せよ、それがお主たちの忠義であろう」

 兵たちは互いに顔を見合せたが、ここまできたら逆らって斬られるか、従うかしかないのだ。数人の兵が宰相である武元紀に掴みかかると、他の兵たちも重臣たちに群がり押さえつけた。自分たちが生き残るには少しでも印象を良くしておかなければならない、先頭にたって動けば、新体制で良い位置につけてもらえるかもしれない、すでに兵たちの頭の中はそんな打算で占められており、押さえつける腕に容赦はなかった。


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