その34
「婿殿に同行する者たちだ、どれも、この村において術と技を極めた者たちだ、もちろん波流伽もこの村では五指に入る力を持つ、そこらの男が束になっても勝てんじゃろう。真沙旗は村を守るために残さねばならんが、その替わり、悸翠、炎頼、前へ」
波邪斗は二人の名を呼んだ。
眼光鋭く一部の隙もない二人の男が波邪斗の隣に並んだ。
「この二人が同行する者たちのまとめ役だ、連れて行けばきっと婿殿の大きな力となる。我らも何かあれば全員で駆けつける。志が成就することを祈っているぞ、達者でな」
そう言うと波邪斗は背を向けて歩いていったが、その背中はどこか寂しそうだった。
村の外れまで来ると、叙崇国が走ってきた。
「ご無事でしたか」
彼は満面の笑みで紫羅義を迎えた。
「すまなかった、状況がひっ迫していて、使いの者を出して知らせる暇もなかった、ここで二日間も。すまないことをした」
紫羅義はうなだれながら、叙崇国に詫びた。
山を降りながら今までの経過を話すと叙崇国は目を丸くして驚いた。
林の中から紫羅義たちが姿を現すと、待っていた者たちは一斉に駆け寄り、彼が無事に戻ったことを喜んだ。
「いやいや~、那岐一族の力を借りるだけでなく、嫁まで連れてきましたか、こりゃめでたい、さすが我らの頭だけのことはある」
話を聞き、趙子雲は大喜びだった。
「こう申してはなんですが、男の中に女人が一人、あまり……せめて身なりを男のようにした方が」
羽宮亜は言葉を濁して進言した。
「わかっている、身なりはそれなりにしよう。しかし、波流伽は那岐一族の中でも五指に入る使い手だそうだ、へたにちょっかいを出さない方が身のためだぞ」
紫羅義がそう言うと波流伽は隣でケラケラと笑った。
「波流伽よ、そういうことだ、すまないが汚い身なりにしてくれ、その替わり」
そこまで言うと紫羅義は言葉を止めた。
その後に続くであろう言葉を波流伽は察知し、黙って頷いた。
柚羅の地がある範国は小国であり、国王の評判は良くもなく悪くもなくというところであった。軍勢を繰り出してくる気配もなく、紫羅義一行はそのまま通過し、東へと向かった。




