その28
「やや、これは?」
隊長が声を出したとき、左右の林から騎馬の群れが飛び出し、兵たちに向かってまっしぐらに進み、それと同時に女の着物が頭上を舞った。そして、着物を脱ぎ捨てた屈強な男たちが剣を抜き、そこに現れた。
「しまった、罠だ!」
隊長が叫んだときにはもう遅かった。
囲んだつもりが、内側から剣を突きつけられ、周囲は騎馬の部隊によって包囲されてしまった。
「戦うだけ無駄だ、全員ここで死にたいか」
馬上から趙子雲が大声で怒鳴った。
太守の兵は今まで女しか見ていない、走るのに邪魔だと剣さえ置いてきた者もいる、まさしく兵たちは「虚」の状態であり、それがいきなり剣を抜いた男たちに内と外から挟まれたのだ、この状態で戦えば全員が間違いなく斬られるであろうことはすぐに理解できた。
「我らは戦うつもりはない、農民の食料を返してもらいに来ただけだ。お前たちが抵抗しないのなら、命を奪うつもりはない、あれを見よ」
趙子雲が城の方を指差すと、紫羅義が率いる百騎ほどが、今まさに城門から中に飛び込むところであった。
神羅威は村の女たちを借り、城側に立たせ、なるべく顔を見せるように歩かせ、義勇軍の男たちには女物の着物を頭から被るようにし、逆に顔を見せないようにと指示していた。
「兵たちは必ず城から追ってきます、追いついたら、女たちを内側に集め、着物を派手に投げ上げて、姿を見せ、剣を抜いて威嚇してください。同時に左右の林に隠れている一隊が敵を囲み、別の一隊は城内に突っ込みます」
神羅威は道々において、この作戦を皆に伝えていた。
女たちに目がいっている隙に何人かが城内に忍び込み、門を開け放つ考えであったが、ありがたいことに敵がわざわざ門を開けておいてくれたのだ。
太守の兵たちは、これはもはや勝負にはならないと、戦いの意志がないことを表わすために全員がそこに座り込んだ。
外の状況に唖然とし、さらに、城内に飛び込んできた騎馬隊を見て、中に残っていた兵たちもすぐに事を理解し、抵抗の意志がないことを示したが、殷朱烈だけは引きずり出されてその場で斬られた。
「太守である殷朱烈だけは斬らねばなりません」
羽宮亜が強く進言していたのだ。
開け放たれた城門の中に今度は農民の一団が入り込み、食料と囚われていた妻や娘を取り戻し、そして去っていった。戦いらしい戦いにもならず、殷朱烈だけが斬られ、ここでも作戦は成功した。だが、早くこの世を平定しなければ農民たちは謀反の罪でひどい目に合わされるだろう。彼らに目がいかないようになるべくあちこちで騒ぎを大きくし、志芭の国の都、朱浬を目指さなければならない、まだ先は長い、紫羅義は去り行く農民の後姿を複雑な表情で見ていた。
「よお、羽宮亜と神羅威よ、次はどこに行くんだ」
いつも豪気な馬元譚が大声で二人に尋ねた。
今日はここで野宿と、早めに設営を終わり、周囲では皆が修練をしていた。
彼らは暇があればいつでもどこでも修練を怠らない、戦いに負けることは即座に死を意味することは誰もがわかっている、生き残るためには己の力を高めなければならない。
馬元譚は皆が修練している横でドカッと座ってそれを見ながらあれこれと指示し、部下の指導をしていた。
「この次は少しやっかいかもしれません、このまま進むと、大厳という地に出ます。そこには今までの太守の城とは比べ物にならないくらいの大きな城があり、周囲のいくつかの地方を統括する長官がいるはずです。情報によるとその長官の名は陶堅徳と言い、かなりの切れ者で、しかも、剛の者という評判らしいのです。要している兵力は二千ほどです。我らは朱浬の都までの直線上にある全ての障害を叩き潰して進まねば、天下万民の指示は得られず、意味はありません、迂回するわけにはいかないのです。策は考えますが、それでも今までのようなわけにはいきません」
神羅威はそう説明すると、最後にため息をついた。
「大きな戦いは避けらないでしょう」
そう言って周囲を見廻した羽宮亜は、「うっ!」と驚きの声を出した。




