その23
その話を横で聞いていた羽宮亜と神羅威は顔を見合わせ、手を取り合った。
人数を維持するのには金、食料、物資がいる、それを今後、どこでどう調達するかが二人にとって一番の悩みだったのだ、羽宮亜の家も豪商だが、遠すぎてその支援は得られない、伯淳桂の力により、これから先、道々において支援を得ることができそうなのだ、二人が手を取り合って喜ぶのも当然のことであった。
数日間、伯淳桂の元に滞在し、疲れを癒した一行は屋敷を後にし、屋敷に滞在している間に神羅威は伯淳桂老人に必要となる物資をあれこれと調達してもらっていた。
大きな太鼓や数百に及ぶ白装束やきらびやかな女物の着物など、皆は何に使うのかと首を傾げていた。
「後でわかります、それに借りるものは他にもあるんですよ、道々お話します」
神羅威は満足そうに笑っていた。
道を行く一行の後には、食料を満載した荷車と、それを牽く屋敷の下働きの者たちが続いた。定海の地に入ると、一行は最初に見かけた村に立ち寄ったが、あちこちに餓死者が放置してあり、その惨状は思っていた以上であった。警戒して見ていた村人も、荷車に積んだ食料を見せると、集まってきた、どの顔もまるで生きる屍のようであり、痩せ衰え、窪んだ目だけがギョロギョロと目立ち、食料に群がるその姿はまるで餓鬼のようであった。
「慌てることはない、食べるものは十分にある」
神羅威の言葉に村人たちは何の反応もみせず、ただ両手で食料を漁り、口に運んでいた。
食べるだけ食べて落ち着いた村人たちに向かって神羅威は尋ねた。
「お前たちには明日は来ないかもしれない。それは自分たちでもわかっているであろう、もし、明日も生きながらえたいと思うなら協力してほしい、我らは太守である宇文奸の城を落とし、全ての食料を奪い、村人に分配しようと思っている、自分たちの生きる糧を自分たちで取り戻す気はあるか」
村人たちは無言であったが、そのうち村長らしき男が進み出てきた。
「太守には全て奪われた、畑の物はもちろん娘さえも。野や林の獣さえも太守の所有物として狩ることは禁じられてしまった。もう我らには生きる術はない、明日は来ない。一揆を起こした村もあったが全て鎮圧され、みな死罪になった。あなた方が食料を奪うと言うなら協力しましょう、どうせ餓死するのはわかっている、それなら少しでも生きられる可能性に賭けたい、それに奴らに恨みを晴らしたい」
そう言うと、村人たちは皆、泣きながら拳を握り締めた。
「わかった。追って連絡するから、これでしばらく食いつないでおいてくれ」
神羅威は食料を置き、一行は次の村に向かったが、どの村も惨状は同じであった。いくつかの村を巡った後、神羅威は今後やるべきことを皆に話した。
「村人たちに話したように、彼らを集め、宇文奸のいる城を落とし食料を全て奪い、さらに、囚われている人々を解放します。策を弄すれば我らだけでも城を制圧することはできますが、それでは意味がないのです。村人たちの力によって太守側に圧倒的な恐怖を植え付け、二度と強引な搾取をしないようにしなければなりません。これにより、さらに役人の追撃は厳しいものとなるでしょうが、この評判を聞いて、我らの元に馳せ参じようと思う者も必ず現れます。我らにとっては諸刃の剣ですが、やる価値はあります」
「よし、やろう」
馬元譚と黒雲臥の両名が身を乗り出し、他の者も腕が鳴ると言わんばかりに大きく体を揺すった。
「で、村人を集め、準備が整い次第、宇文奸宛てにいつ城を攻撃するのか、その旨を知らせます」
神羅威はあっさりと言い放った。
「なんだって!」
さすがに皆は驚きの表情を見せた。




