その17
結局、羽宮亜と神羅威は紫羅義一行に同行することにした。
同行はしているが、紫羅義の配下になろうというわけではない、彼らもまた野心があり、人数が必要なのだ、最初から探すより、深い絆で結ばれている集団を貰い受けた方が手間はかからず早いのだ。二人はこの集団を自分の思い通りにする作戦を思い描いていた。
十日ほど経ったある日、一行は川のそばで野宿をするための準備をしていた。そろそろ日が沈むというときに、神羅威は一行から離れて、しばらく歩いた後に川岸に座り、顔をしかめて考え事をしていた。
神羅威が歩いていくのを見て羽宮亜も後をついてゆき、後ろに立ったとき、神羅威は小さく叫びながら川の中へ石を投げ込んだ。
「どうした、何をそんなに荒れているんだい?」
羽宮亜が後ろから尋ねると、神羅威は半分だけ顔を後ろに向けたが、ため息をつきながら、またすぐに正面を向き、川面に広がる波紋を目で追った。
「君ならわかるだろう、いや、君も、もうわかっているはずだ。俺は兵法を習得し、戦えば必ず軍を勝ちに導く、それに関して誰にも負けない自信があった。だが、策だけでは戦には勝てない、核となる者が必要なのだ、その者のために命を投げうって戦うという中心となる人間が。残念ながら俺では無理だ、紫羅義殿を見ていてそれがわかった、俺はその器ではないし、天が求めているのは俺などではない、それがわかってしまったんだよ」
神羅威は吐き捨てるように言った。
羽宮亜は隣に座ると静かな口調で話し始めた。
「わかっていたさ、俺も多くの食客と話をし、さらに各地に情報網を作りながら政治や兵法を勉強してきた。誰にも負けないと思っていたさ、だが、俺たちにはないんだ、あの、人を惹き付ける力は。ここ数日、自問自答してきたが、答えは君と同じだったよ。答えがでたのならこの一行から離れればいい、しかし、すでにそれもできなくなっているんだ、紫羅義殿に惹き付けられている自分がいる、それで頭の中が、いや、心の中が混乱してむしゃくしゃするんじゃないのかい」
そう言われて、神羅威は肩を大きく落とすように頷いた。
それを見て、羽宮亜は続けた。
「俺の中で答えは出た。いつまでも自分の気持ちを偽っていてもしょうがない、それなら俺が紫羅義殿の言った天意になってやろうと思う」
「天意になるだって?」
神羅威は目を細め、首を傾げながら羽宮亜を見た。
「そうさ、天が俺たちに与えた使命は、王となる者を補佐することだ。ただし、俺たちが補佐する者は王の中の王になる者、つまり、この大国の主、皇帝になる者さ。相手がどう思っていようが、有無を言わさず皇帝になっていただくんだ、どうだい?」
羽宮亜は神羅威を説得するように淡々と語った。
「わはははははは」
神羅威は大笑いし、そのまま後ろに倒れこんで、そのまま笑い続けた。
「面白い、相手の意思を無視して、相手がどう思っていようが皇帝の座につかせる、面白いぞ、それは。俺たちの補佐する者は皇帝にならなければいけないか、そりゃそうだ、そうでなければ納得できない」
神羅威はまるで憑き物が落ちたように晴れやかな顔になった。




