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紫羅義  作者: 海道 睦月
14/125

その14

 神羅威と羽宮亜がそれぞれの地から旅立って一年が過ぎようとしていた。

 二人は(けい)という国の(そう)(りん)という町にいた。

 この町は東西に行き交う商人と、南北に行き交う商人が使う道の交点となっているために、物資も情報も豊富なのだ。大きな町になると、民にかけられる税も重くなり、官僚による搾取もひどくなったが、それでも蒼淋の町は人も多く、物も豊富で活気があった。

 二人ともここで物資の調達と情報収集を兼ねて旅の疲れを癒していたが、偶然に同じ宿に泊まっていたために、なんとなく顔を合わすうちに話すようになり、今では本音で天下国家を論ずる仲になっていた。

「なんか妙な一団がいるらしい」

 そろそろ旅立つか、というときに羽宮亜が話し出した。

「妙な一団とはどんな連中なんだい」

 神羅威が身を乗り出して聞いた。

「西から来た商人に聞いたんだが、三十人ほどで、野盗の類でもなければ、お上の御用を受けている役人とも思えない、よくわからん一団だそうだ。それがあっちこっちとフラフラしながら東へ向かっていて、おそらくこの町も、もうすぐ通過するんじゃないかと、そう言うんだ」

「へ~どんな連中かな、急ぐ旅でもないし、どうだい、どんな連中か確かめてから出発しないか」

 羽宮亜の話に、神羅威も興味をもった。

 次の日、二人は竹を拾ってきて、町外れの街道に沿って流れる川の前に座り込んだ。

 二人とも釣りには興味がないのでかっこだけである。川面に向かって、古い竹を伸ばして持っていれば釣りをしているようには見える、ただ座っているだけではなんともしまらないので、せめて釣りの真似事だけでも、というわけだ。川の向こうには川と平行に街道がはしっていて、西から町に入ろうとする者ならここは必ず通る場所なのだ。

 座りはじめてから二日ほどして、それらしい一団が来るのが見えた。羽宮亜と神羅威の顔は、伏せられるように竿の先に向けられていたが、視線は街道を進んでくる一団に向けられていた。

「人物だな、あれは」

 先頭にいる者を見て、羽宮亜が言葉を漏らした。

 彼は多くの食客たちと話し、彼らを自分なりに分析する目で見ていたので、人を見る目はある、しかし、口に出したものの、どんな人物という意味なのか、自分でも分かってはいなかった。

 しかし、神羅威も深く頷いた。

 一団の先頭にいたのは紫羅義であった。

「釣りか、あの二人は何を捕ろうとしているのかな、水面に来た魚を叩いて捕るつもりか、ははは」

 馬に揺られながら紫羅義は笑った。

「はぁ、叩くとは、どういう意味ですか?」

 趙士雲もその部下も、紫羅義の発した言葉に首を傾げた。

 一行は二人の前をのんびりと通過して行った。

「確かに風変わりな連中だな、だが、何かわからないが、縁のようなものを感じる。俺は彼らに付いていってみようと思う、東に向かうなら、一緒に行ってみるのも面白いか、宿屋に戻り、荷物を取ってから追いかけよう」


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