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紫羅義  作者: 海道 睦月
13/125

その13

 神羅威が旅立つのと時を同じくして、()(れん)という国で、もう一人の若者が生まれ育った家を後にした。

 彼の名は()()()、大富豪の家に長男として生まれ、何不自由のない生活をしていた。

 時の大臣や土地の有力者は食客の面倒をみた。食客とは簡単に言えば、無頼の者や、行くあてのない者たちで、役に立つ場合もあるが、ほとんどは食わせてもらうだけの居候だ。

 この食客の数は、その家の力や、主の人望を表す指標ともなる、食客二千人ともなれば、他の国にもその名は知れわたるのだ。

 羽宮亜の家も先々代が油の商いで大儲けし、彼の父親の代には巨万の富と地位を手に入れ、養う食客の数は千人を超えていたが、そのうちの五百人以上は羽宮亜の客であった。

 彼は小さいときから家にいた食客たちから色々な話を聞いていた。

 その話から、自分にとって将来何が必要になるかを分析し、一二歳になったとき、父に頼んで、貧しい家庭の子どもを自分の食客として集め始めたのだ。彼もまた天才的な頭脳の持ち主であり、情報が大きな武器となること、そして、その手段が人の数であることを、わずか一二歳で理解し、実践した。

 羽宮亜は政治や兵法を学びながら、同時に若い食客たちにもそれを教えた。そして彼が一六歳になったとき、五百人以上の食客たちを情報員として各地に送り込んだ。三人一組、一人は地域に根付き、草となって情報を収集し、後の二人は連絡員として、各地の情報を羽宮亜にもたらす要員であった。

「金は十分に払うし、支援もする、その地域に深く根付き仕事を全うして欲しい、君たちが草として生きている限り、君らの家族への支援も約束しよう」

 羽宮亜が天涯孤独の子を選ばずに、貧しく、両親が健在な子どもを選んだ理由は、ここにあった。まともに情報を収集しなければ、本人が放り出されるだけでなく家族への支援も打ち切られる、人質のようなものだ、彼は一二歳にして、すでにここまで読んでいた。

 情報員たちは数日で到着する隣国から半年以上かかる遠い国まで派遣された。

 志芭王朝の中心、朱浬の都にも何十人もの人間が旅立った。

 それから一年後、羽宮亜の元には各地から生きた情報が次々と届くようになっていた。

 その情報を分析し、さらにその一年後には、羽宮亜もまた胸に野望を秘めて生まれ育った家を後にした。


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