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モンスローダー

          1

「で、本当に君は何もしらないんだね?」

「はい、本当です」

 幸崎高校の空き教室にて、四十代半ばの刑事は机を挟み、反対側に座っている文太に詰め寄る。

 いかに命に別状はないと言われても、倒れている人達を放置しておくのはマズいと思い、職員室へと体育館に人が倒れているという旨を伝えに行った文太だったが、なにかの事件と判断されてしまったらしく、救急車だけでなく警察まで駆け付け、文太も第一発見者として事情聴取を受ける事になってしまった。

「……まあ、正直我々としても今回の事件は不明瞭な点が多過ぎる。被害者は皆意識を取り戻したと連絡があったが、全員化け物に襲われた言っていて何故倒れていたかは不明だし、今のところなにか薬物を投与されたような様子もないし、体育館から爆発音のような音が聴こえたと何人かの生徒が証言しているが、体育館には損壊は見受けられないし……強いて言うなら鉄棒が不自然に何本か転がっていたくらいだが、それもなにか事件と判断する証拠にはなりそうもないし……」

 刑事は顔をしかめて、手に持ったボールペンで自分の額を叩く。

「そうですか……」

 話を聞いている文太は、いつボロが出てしまうか、不安で仕方なかった。

 爆発音が聴こえたのに気にしなかった生徒の優しさには感謝しなければならないと思う。

「まあそういうわけで、現状ではこれ以上の聴取は難しいし、時間も遅いし、きょうのところはこれくらいで引き上げようかと思うんだが、大丈夫かな?」

「……はい、大丈夫です」

「こんな遅くまで拘束してすまないね。気を付けて家に帰ってくれ」


「疲れた……」

 自宅に帰り、部屋に戻った文太は、深い溜息を吐いてテーブルの前に座り込んだ。

 普段あまり遅く帰らないから、父親にも心配された。適当なことを言ってごまかしたが……。

「文太、すまないが、ここから出たいんだが……」

 バッグの中から、レイバーシスが文太に声を掛けた。

「ああ……ちょっと待って下さい……」

 文太はバッグに手を伸ばし、バッグのチャックを開けた。

「うむ……」

 開いたバッグの中から、レイバーシスが顔を出す。

 戦いを終えたレイバーシスは、二メートル程あった身長を二十センチ程まで縮めてみせ、またしても文太を驚かせたのだった。

「ここでなら落ち着いて話が出来るな……」

 レイバーシスはバッグから身を乗り出し、軽快な動きでテーブルの上に跳び乗った。

「……ホント凄いですね……」

 レイバーシスの常識を軽く覆すような能力の数々を前に、文太は呆然とした様子で呟いた。

「これくらいは造作もないことさ」

 素っ気なくそう言って、レイバーシスは文太の正面に立った。

「では文太、私の出自と、私が地球に来た理由について、改めて話させてもらおう」

「は、はい……」

 かしこまった様子で、文太は姿勢を正した。

「まず、宇宙にはこの星以外にも様々な惑星が存在し、多くの知的生命体が文明を創り上げているということを念頭に置いて話を聞いて欲しい。私はそんな惑星の一つである、ブレイシス星で産み出された、ソルノイドという人工生命体だ」

「ソルノイド?」

「ブレイシス星の人々は宇宙に進出するだけの技術力は持っているが、生命的にはこの星の人々ど同様、そこまで強くはない。そんな彼等が外の惑星に進出するにあたって産み出されたのが我々ソルノイドというわけだ。ソルノイドは決まった姿を持たない精神だけの存在で、それが無機物と融合することにより、このように惑星で活動出来る身体を手に入れられる。人間だけでは荷が重すぎる任務を、我々は共にこなして来たというわけだ」

へえ……」

 レイバーシスの言ってることは映画か漫画の中の設定としか思えないもので、文太もにわかに信じられないというのが本音だったが、レイバーシスの能力を見れば、そんな話でも信じざるを得なかった。

「……そんなレイバーシスさんが、どうして地球に?」

「うむ、それについても話させてもらおう」


「ブレイシス星の人々は、約二百年程の年月をかけて様々な惑星へ進出し、開拓を進めて来た。しかし、その過程で宇宙魔人という、宇宙のならず者たちと遭遇することとなってしまった」

「……宇宙魔人……学校で俺達を襲ったアイツのことですか?」

「察しがいいな。奴は宇宙魔人ゲスパーダ。有機生命体が持つ生命エネルギーを食らうのを好み、兄のゲスガ二ランと共に宇宙を荒らしまわっていた宇宙魔人だ」

 レイバーシスは険しい表情になる。

「奴だけではない。他にも多くの宇宙魔人によって、ブレイシスの人々は脅威にさらされて来た。否、ブレイシスだけではない。宇宙各地で、凶悪な宇宙魔人は猛威を振るっていた……その脅威に対抗する為、ブレイシス星を始めとした様々な惑星が協力し、宇宙の平和維持を目的とした組織が設立されたのだ」

「それがレイバーシスさんの言う……」

「そう、宇宙警察機構・ブレイズガードの誕生だ」


            2

「結成されてから約二十年、ブレイズガードは平和維持の為の戦いを続けて来た。しかし、約二年前、宇宙船団ゴルドガイストと名乗る勢力が姿を現したことで、状況は大きく悪化することとなった……」

「ゴルドガイスト……そんなに恐ろしい敵なんですか?」

「ああ……奴等がいつから現れて活動していたのかは判らない。だが、ブレイズガードの力が及ばないいくつもの星々を侵略し、勢力を拡大していたらしい。当然、我々も奴等を野放しにしておくワケには行かず、討伐隊を何度も向かわせたが……ゴルドガイストの侵攻を完全に食い止めることは出来なかった」

「そんな……それで、ゴルドガイストが地球に……?」

「そうだ……」

 苦しそうな表情で、レイバーシスは答える。

「で、でもなんでわざわざ地球に……?」

 文太には何故地球が侵攻のターゲットにされたかが理解出来なかった。

「ブレイズガードとの戦いで大きな傷を受けたゴルドガイストの首領、ゴルドカイザーは、地球に眠っているとされる、ゾードというエネルギーに目を付けたのだ」

「ゾード……?」

「宇宙の特定の星々に存在すると言われているエネルギーのことだ。手に入れて行使することが出来れば、恐るべき力を手に入れることが可能と言われている。ブレイシス星の人々も一部ではあるがその力の解析に成功し、そこで得た技術は我々ソルノイドにもフィードバックされているのだ」

「恐るべき力……地球にそんなものが眠っているなんて……」

 あまりにも現実離れしている話に、文太も付いて行けなくなりつつあった。

「つまり、ゴルドガイストは地球に眠るゾードを手に入れて、更に強大な力を手に入れるつもりってことですか?」

「その可能性は高い。それに、地球ほど多くの生命が共存し、豊富な資源を内包している星は宇宙を見渡してもあまり無い。奴等からすれば、侵略の拠点の一つとして制圧しておく価値は十分あるだろう……もしもゴルドガイストに地球が制圧されてしまえば、これまで制圧されて来た星々がそうだったように、地球は奴等によって食い尽くされてしまう……」


「……私が何故貴様を呼び出したか、判っているかゲスパーダよ」

 横逗駅近くの雑居ビル屋上にて、シラービスは駅前の人混みを見下ろしながら呟く。

「も、勿論ですよ! へへへ……」

 その後ろで、ゲスパーダは正座しながら、顔を強張らせていた。

「……私は気を抜くなと事前に釘を刺していただろう。その時お前は自慢げに楽勝だと言っていただろう……なんだあのザマは! 言わんこっちゃないだろうが!」

「ひいい! すいません!」

 振り向いて激昂するシラービスに、ゲスパーダは地面に頭をこすり付けて土下座する。

 相変わらずフードのせいで表情は読めないが、殺気立ったオーラが放たれているのは目に見えた。

「まあまあ、そうあまり怒らないで下さいよシラービス様」

 ゲスパーダの後方で様子を見ていたゲスガニランが、シラービスをなだめた。

「……宇宙警察の連中が想像以上の速さで介入して来たというのに、よくそんな呑気な態度でいられるな」

 ゲスガ二ランに向かって、苛立たしそうにシラービスは吐き捨てる。

「そう心配なさらないで下さいよ。その為にこっちは色々準備を整えて来たんですから……ヒヒヒ……」

 妙に自信あり気な声でゲスガ二ランは笑う。

「そ、そうですよ! 俺達兄弟が揃えば百人力! レイバーシスなんてケチョンケチョンにしてやりますよ!」

 ゲスガ二ランに便乗するように、ゲスパーダは顔を上げて宣言した。

「……大層な自信だな。まあいい、好きにやってみろ」

 そう言ってシラービスは踵を返す。

「だが、私はあまり寛大ではないということを肝に銘じておくんだな……」

 そして自らの眼前にブラックホールのような空間を作り出し、その中へ姿を消した。

「……ったく、一回の失敗でそこまで目くじら立ててんじゃねえよ……」

 シラービスがいなくなった途端、ゲスパーダは不機嫌そうに毒づいた。

「仕方ねェだろ。あの人が俺等の雇い主サマなんだからよォ」

 一方のゲスガ二ランはかったるそうにぼやく。

「けどよォ、ゴルドカイザー様の側近だかなんだかしらねえが、ちょっと調子乗ってんじゃねえのあのオッサン。ちょっと黙らせてやる方法ねェかな」

「止めとけ止めとけ。あの人は自分の住んでいた星をゴルドカイザー様に征服された時に、その強さにやられて自分の身内を皆殺しにしてまでゴルドカイザー様に取り入ったって話だぜ。俺等みたいなのがそんな狂ったの相手に勝てるかよ」

「げえ……マジかよそれ……」

 ゲスガ二ランの話を聞いげ、ゲスパーダは引いていた。

「ま、実際知ったこっちゃねェけどな。俺等はこの星で腹一杯食ってさっさとヅラかるまでよ」

「それもそうだな。それより兄貴よ、ゾードとかいうモンの目星はついたのか?」

「心配すんな。明日の朝にははっきりするだろうよ。陽が明けたら行動開始だ」

「へへへ……ワクワクするぜ……」

 夜の横逗市に、二人組の不気味な笑い声が響いていた。


           3

「そんな……」

 レイバーシスの話を一通り聞き、文太の頭は大分錯乱していた。

 今のレイバーシスの話は嘘ではないだろうし、現状では信じざるを得ない内容だったが、それでも宇宙戦団だの、地球に眠る大いなる力だの、地球が食い尽くされるだの、どれも空想の中の話としか思えないものばかりで、とても自分が今生きている現実の話とは受け入れられない。

「私達がゴルドガイストの侵攻を食い止められていられれば、こんな事にはならなかっただろう……本当にすまない」

 レイバーシスは文太に向かって頭を下げた。

「え? あ、いや、それを言っても仕方ないですよ……過ぎた事だし……そんな謝らないで下さい」

「……ありがとう、文太」

「いえいえ……レイバーシスさんがいなかったら俺どうなってたか解らないし……助けてもらったんだからむしろこっちが感謝しないといけないくらいで……」

 礼を言うレイバーシスに、文太は謙遜した表情をする。

「あの、レイバーシスさん、俺はこの先どうすれば……」

 文太としてはそれは気になる点の一つだった。

 正真正銘の一般人である自分は化け物と戦える力なんて持っていない。かと言ってレイバーシスから話を聞いた以上、何もしない訳にはいかないと感じている。

「何をすればいいか……か。今は、この星で活動する為に、この身体を貸して欲しい。一度融合を行うと、しばらくは分離は出来なくなってしまうんでね……それと……」

「それと?」

「……もしもゴルドガイストの攻撃が本格化しても、恐怖に完全に屈しない強い意志を忘れないでくれないか?」

「強い意志……ですか?」

「ああ。たとえ強大な敵に立ち向かう力は無くとも、恐怖に負けない心があれば、辛く苦しい思いをしたとしても、それを乗り越えるチャンスを作ることも出来る。だから、この先心に強い意志を持ち続けて欲しいのだ」

「えーと……」

 強い意志と言われても、文太には壮大過ぎる内容に思えてしまい、どこかピンと来ない。が、

「……解りました。やってみます」

 はっきりとした根拠はないが、レイバーシスの言葉を聞くと、自分でも強い意志というものを持ってみようとという気持ちが、少しばかりだがわいて来た気がする。

「……そうか……ありがとう、文太」

 文太のその言葉を聞いて、レイバーシスは安堵した表情を見せた。


「さて……これからどうなるか……」

 午前二時頃、文太の部屋の窓辺で月を眺めながら、レイバーシスは呟いた。

「……そもそも、私がもっと早く地球に到達し、別の身体を用意出来ていれば、彼をこうして巻き込むこともなかったか……」

 そう言ってレイバーシスはベッドで寝息を立てている文太を見た。

 余程疲れていたのか、レイバーシスの話を聞き終えた後、文太はすぐに眠り込んでいた。

「……どうなるもこうなるもないか……」

 決意を込めたように呟き、レイバーシスは再び窓の外を見た。

「……必ず、守ってみせるからな……」


「うああ……もう朝か……」

 ベッドから起き上がり、文太は思いきり背を伸ばした。

 昨日と違い、今朝は寝過ごすこともなく、余裕を持って起きることが出来た。

 と言っても、それが普通なのだが……。

「おはよう文太。よく眠れたみたいだな」

「ああ……おはようございます……おかげさまで……」

 あくびをしながら、文太はレイバーシスに挨拶を返す。

「レイバーシスさんは寝られましたか?」

「いや、寝ていない。ソルノイドは基本的に寝なくても活動出来るのでね」

「……そうなんですか」

 昨日出会ったばかりなのに、もう何度レイバーシスに驚かされたか、文太は解らない。

「俺は今から学校行きますけど、レイバーシスさんはどうするんですか?」

「……この近辺でゾードの探索を行う」

「……ゾードってそんな近場にあるんですか?」

「ゴルドガイストはゾードを探し出す為に、宇宙魔人をこのエリアに送り込んで来たのだろうと、私は考えている」

「てことは、やっぱりアイツ等はまたこの辺に現れるかもしれないってことですか?」

「恐らくな……だが」

 そう言いかけたレイバーシスの表情が、急に険しくなった。

「ど、どうしたんですか?」

「宇宙魔人のエネルギー反応を感知した……」


                 4

「ええっ!?」

 急なレイバーシスの言葉に、目を丸くする文太。

「行かねば……そこの窓を開けてくれ文太!」

 レイバーシスは閉ざされた窓を指差した。

「わ、分かりました……」

 その声に気圧され、文太は部屋の窓を開けた。

「ありがとう……では、行ってくる!」

「あ、あの、俺はどうすれば……」

 窓から跳び出そうとするレイバーシスに、文太は恐る恐る尋ねる。

「私だけで片付けて来る。君は心配せず、いつも通り過ごしていてくれ」

「……は、はい……」

「うむ……とうっ!」

 言い終えて、レイバーシスは窓から跳躍した。

 そして瞬時に身体各部を変形させ、シボレー・コルベットへと姿を変え、道路へと着地した。

 更に着地した直後、レイバーシスの身体が光に包まれ、瞬時に実車代の大きさまで巨大化した。

「……あんな大きさにまでなれるなんて……」

 巨大化した光景は一度見ていることもあってか、文太のリアクションはそこまで大きくはない。

「行くぞ!」

 タイヤの摩擦音を響かせ、レイバーシスは走り出した


 横逗市のとある工事現場。

 八時からの始業を前に、現場監理者達は事務所での打ち合わせに、作業員達は朝食のカップ麺を忙しくすすり、タバコをくわえて一服を楽しみ、片手に持った週刊誌を読み漁り、と、それぞれ思い思いの時間を過ごしていた。

「あーだる……今日も残業コースかよ」

 気だるそうな顔で、若手の作業員が倉庫へと歩いて行く。

 ここ数日の仕事での疲れが取れていない様子だった。

「ってえと……村山さんはここら辺にあるって……」

 倉庫の中に入り、青年がお目当ての資材を探そうとした、その時だった。

「見ぃつけた」

「えっ? ごっ!?」

 後ろから誰かに声を掛けられて振り向いた青年は、驚く間も無く首を掴まれた。

「ヒヒヒ……昨日は食いそびれちまったからなァ……早速一匹いただくぜ!」

 倉庫の闇の中から現れた声の主、ゲスパーダが歓喜の声を上げた。


「ハハハ! 昨日から飛ばしていたこのエネルギー判定装置の結果が出たから来てみたが、中々良さげな餌場じゃねえか!」

 右手の平にエネルギー判定装置なる、鉄で造られた蛾のような機械を乗せたゲスガ二ランが、工事現場を見渡しながら高笑いする。

 左手は既にエネルギーを吸い取られて死人のような有様となった作業員を鷲掴みにしていた。

「な、なんだありゃ!?」

「石田さんが顔掴まれて気ぃ失ってんぞ!?」

「な、なにが始まるってんだ!?」

 その様子を見た作業員達がざわつきだす。

「ハハハ! 知る必要はねえよ! お前等は今から食われんだからよォ!」

 ゲスガ二ランは作業員を放り投げると懐に手を突っ込み、モンスローダー製造キットなる光球を取り出した。

「出て来い! モンスローダー!」

 それを頭上に掲げ、ゲスガ二ランは叫んだ。

 叫び声に反応するように、光球がゲスガ二ランの腕を離れ、宙に浮かび上がって行く。

 そして光球は一定の高さまで浮かび上がって静止し、工事の為に現場内に置かれていたショベルカーに向けて電流のような光を放つ、

 それを浴びたショベルカーは、相当な重量にも関わらず宙へ浮かび上がり、磁石に吸い寄せられるかのように光球へ吸い寄せられて行く。

「……親方、俺残業続きで幻覚見えてるみたいなんですけど……」

「なんだよお前もか。俺もなんか目がショボショボするんだよ。やっぱり年には勝てねえもんだな」

 作業員達は現実離れし過ぎている目の前の光景について行けず、幻覚か何かだと考えようとしていた。

 そんな人達を尻目に、光球に吸い寄せられたショベルカーは、質量保存の法則を無視したかのような変化を始めた。

 キャタピラが本体から見て垂直に伸び、肥大化して二本の脚に、巨大なアームの先端が二つに裂けて鋏のような形状に、運転席周辺も粘土をこねたように形を変えて行き、かにの甲羅のような歪な形状へ変貌する。

「グォォォォ!」

 全ての変化を終え誕生した、モンスローダー・ボルガニラスが土煙を巻き上げ地面に着地し、雄叫びを上げた。

 シオマネキガ二のように左腕が肥大化した上半身からキャタピラが変化した二本の脚が生えているという独特なシルエットをしており、変化前のパワーショベルの面影はあまり残っていない。せいぜい黄色のボディカラーくらいだろうか。

「……夢じゃねえ! こりゃ現実だ!」

 その一部始終を見て我に返った人達が、大慌てでその場から逃げ出す。

 それに吊られるように、現場にいた人達は皆逃げ出そうとした。が、

「ハッ! 逃がしゃしねえよ!」

 ゲスガ二ランはボルガニラス目掛けて跳躍し、胴体の上へと飛び乗った。

 同時に、ボルガニラスの胴体に設けられていた四角形のハッチのような物が開き、中から操縦席のような空間が露出した。

「モンスローダーの恐ろしさを見せてやるぜ!」

 そう言ってゲスガ二ランは、ボルガニラスの操縦席へと乗り込んだ。


            5

「ハハハ!こいつで逝っちまいなァ!」

 ボルガニラスの腕が、逃げようとしている人達へと向けられる。

 直後、腕の先端の鋏から、鎖で繋がれた無数の針が放たれた。

「ぐえっ」

 放たれた針が、逃げ惑う作業員達に次々と突き刺さった。

 針が突き刺さった直後、作業員達は苦しむ間も無く顔色が黄土色に変わり、バタバタと地面に倒れて行く。

「ハハハ! こいつァいい! 直接エネルギーを吸うよりも早ェし味も量も上だ!」

 ゲスガ二ランは満足そうに高笑いする。

 ゲスパーダの同じ攻撃よりも、更に能力が上がっているようだった。

「おーい! アニキ!」

 ボルガニラスの元に、もう一体のモンスローダー・ボルスパーダが寄って来る。

 八本の脚と前面に巨大な牙を備えた、蜘蛛のような姿をしており、所々に素体となったと思われるブルドーザーの面影が見て取れる。

「凄ェぜこのモンスローダー! 直接獲物を食らうよりも段違いだぜ!」

 操縦席のゲスパーダが嬉々とした声で喋る。

「もうここにいる奴等はみんな食っちまったんだろ? さっさと別の獲物を食らいに行こうぜ!」

「まあそう急かすなよ。それに……」

 いきり立つゲスパーダを、ゲスガ二ランが制止し、視線を移した。

「警察の犬のお出ましだ」

 その視線の先には、土煙を巻き上げて疾走するシボレー・コルベットの姿があった。


「ライドアップ!」

 掛け声と共に、コルベットは瞬時に人型へと姿を変えた。

「チェンジ! レイバーシス!」

 変形を完了したレイバーシスが名乗りを上げた。

 二メートル代の身長だった昨日とは異なり、今回は七メートル代の大きさまで巨大化している。しかし、眼前に立つ二体のモンスローダーの十メートル以上の巨体に比べると、それでも小さいくらいなのだが。

「ゲスガ二ランとゲスパーダ! 貴様らの非道な振る舞い、断じて許さん!」

 ボルガニラスとボルスパーダに対し、レイバーシスは指を差して叫んだ。

「へっ! 手前なんかに許してもらう必要はねェ! 昨日の借りを百倍にして返してやるぜ!」

 売り言葉に買い言葉と言わんばかりのばかりの暴言をゲスパーダは返す。

「ゲスパーダ、お前はレイバーシスの相手をしていろや。俺はここら辺に埋まっているっていうゾードを探してくるからよォ」

「なんだ、兄貴は一緒にアイツをぶち殺さねえのか。残念だな」

「そう言うな。一番のお楽しみはお前にくれてやるから思う存分レイバーシスをボコってこいや」

 そう言ってゲスガ二ランは、ボルガニラスの腕の鋏を高速で回転させ始めた。

「ハハハ! 待ってろやゾード!」

 そしてその腕で地面の土を掘り、数秒で土の中に潜って行ってしまった。

「やはり狙いはゾードか! だが貴様等の好きにはさせんぞ!」

「へっ! ゾードなんて知るかよ! 俺は手前をぶっ殺すのが先決よォ!」

 ゲスパーダが叫ぶと、ボルスパーダの前面の牙が左右に開き、口に相当する部位から四十本程の針がせり出した。

「手始めはこいつだ! 串刺しになっちまいな!」

 レイバーシス目掛けて、一斉に針が放たれる。

「お決まりの攻撃だな!」

 レイバーシスは動じる様子もなく、コルベットに姿を変え、攻撃を回避する。

「うおぉぉっ!」

 針の数も放たれる速度も、等身大のゲスパーダの時よりも遥かに上だが、レイバーシスは高速で走りながら針を回避し、ボルスパーダへの距離を詰める。

「レイバーソードではモンスローダーの装甲を両断するのは困難、ならば、装甲で覆われていない箇所を突破するしかない!」

 再び人型へ変形し、レイバーソードを構えるレイバーシス。

「ぬんっ!」

 そして、レイバーシスは装甲で覆われていない箇所である、先程針を放ったボルスパーダの前面部目掛けて、投擲の如くレイバーソードを投げ付けた。が、

「甘ェよ!」

 レイバーソードが接触する直前、ボルスパーダを守るように、半透明のドームのようなものが展開される。

「なにっ!?」

 それにより、レイバーソードはボルスパーダに接触することなく弾かれて宙を舞い、地面に突き刺さった。

「へへへ! 手前がモンスローダーの隙を突いて来ることは予想済みよォ! その為に特注で取り付けたのがこのバリア機能よ! こいつがある限り手前は俺に触れる事も出来ないってワケだ!」

「くっ……あんな機能を加えて来るとは……」

「へへへ……まだまだこっちの攻撃は終わらねえぞ!」

 バリアを一旦解除し、ボルスパーダがレイバーシス目掛けて跳び掛かった。

                              

              6

「ヒャッハァァッ!」

 巨体からは想像出来ない軽快さで跳躍したボルスパーダが、レイバーシスのほぼ真ん前に着地する。

「なにっ!?」

 レイバーシスにもその動きの軽さは予想外で、一瞬動きに遅れが生じた。

「喰らえよォ!」

 ボルスパーダの左右四本の脚の内、左前脚がレイバーシスを突き刺さんとばかりに襲い掛かった。

「くっ!」

 その攻撃をレイバーシスは素早く横に動き、回避する。

「おらよっ!」

 続け様に、右前脚が襲い掛かる。

「なんのっ!」

 今度は後方へジャンプし、攻撃を退けるレイバーシス。

「レイバーソードは……あそこか!」

 地面に着地し、数十メートル先に突き刺さった自身の剣を発見する。が、

「そうはさせねェよ!」

 ボルスパーダの口から、今度は蜘蛛の糸が放たれる。

「なにっ!?」

 レイバーソードの方に気を取られたレイバーシスは反応出来ず、糸が身体に巻き付いた。

「おらよっと!」

 ボルスパーダは頭部を動かし、糸を引っ張った。

「ぬあっ!?」

 それに吊られ、レイバーシスの身体も糸に巻かれたまま宙に投げ出された。

「あらよっ!」

 更に頭部を動かすボルスパーダ。

「うああぁっ!」

 糸に縛られ身動きのとれないレイバーシスは、頭から地面に向かって落下して行く。

 しかし、それを回避することは今のレイバーシスには不可能だった。、

「ぐああぁっ!」

 そのまま地面に思いきり叩き付けられ、レイバーシスは悲鳴を上げた。

「これで終わりじゃねえぞ!」

 ボルスパーダは更に糸を引っ張り、再びレイバーシスは空中へと投げ出された。


「ぐああぁっ!」

 レイバーシスを三回地面に叩き付けた末、終いとばかりに現場に建てられていたプレハブの事務所へ叩き付けて、ボルスパーダの攻撃は一旦終了した。

「へへへ! どうよ! 抵抗出来ないままボコボコニされる気分はよォ!」

 楽しくて堪らないという様子で、ゲスパーダが叫ぶ。

「ぐっ……最初に糸をかわせていれば……」

 流石に何度もダメージを受けて苦しいのか、レイバーシスは立ち上がるのも辛いという様子だった。

「まだまだ終わらねえぞ!」

 ボルスパーダは更に、四方へ糸を放つ。

 それ等はそれぞれ、現場内に停車していたトラックやワゴン車等、いずれも大型の車に巻き付く。

「こいつでペチャンコになっちまいなァ!」

 そしてそれ等の車両も糸に引っ張られて一斉に宙に舞い、レイバーシス目掛けて落下して来る。

「しまっ……」

 動けないレイバーシスがかわせるハズも無く、わずか数秒の短いスパンで車が次々と激突する。

「最後はこれだぜ!」

 更に、ボルスパーダの口部から、火炎放射器の如く炎が放たれた。

 炎はすぐに糸に燃え移り、あっという間にその上を走って行く。

 その先には、叩き付けられてスクラップと化した車の山々と、その車から漏れ出た燃料が小さな池を作っていた……。 


            7 

 漏れ出た燃料に炎が引火し、アクション映画ばりの激しい大爆発が起こる。

「ヒャハハハハ! こんだけ派手に爆発すりゃあひとたまりもねえだろ!」

 燃え盛る炎を見て、ゲスパーダは腹を抱えて笑っていた。

 車が叩き付けられた衝撃も、爆発の勢いも相当なものだ。いかにレイバーシスと言えど、この攻撃を受ければ無事ではすまないだろう。

 爆発が起こった直後、レイバーソードが突き刺さった地点目掛けて、小さな破片が不自然な勢いで飛んで行ったが、既に祝勝ムードになっていたゲスパーダはまるで気にも留めていなかった。

「へへへ……早速アイツの死に面を拝ませてもらうとするぜえ……」

 ゲスパーダの口部から、今度は消火器のごとく白い粉が噴出し、炎を消してゆく。

 破壊活動がメインのモンスローダーにとっては正直不要な機能としか思えないが、すぐにでもレイバーシスの死亡を確かめたいゲスパーダにとってはうってつけの機能だった。

「さあて、どんな酷ェ死に様を晒してやがんだ?」

 炎が消え、ゲスパーダはその光景に期待を膨らませる。が、

「ああ? なんもねえじゃねェか」

 そこには元は車だった鉄屑が大量に転がってるばかりで、レイバーシスの姿はどこにも見えない。

「ってえことは、アイツは残骸も残らないくらい完全に消し飛んじまったってことか! ヒャハハハハ! ざまあみやがれってんだ!」

 姿が見えない=レイバーシスは今の攻撃で完全に消滅したと考え、ゲスパーダは再び笑い転げた。

 名実共に、自分の完全勝利ということではないか。

「しかしいざ戦ってみたら本当に呆気なかったな! こんな簡単に潰せるんならマジで余裕」

「なにがそんなにおかしいんだ?」

 誰かの声が、ゲスパーダの笑い声を遮った。

「……あ?」

 操縦席に設置されたモニターに目を移すゲスパーダ。

 そこには、レイバーソードを構え、今まさにボルスパーダの背後からに斬り掛かろうとしているレイバーシスの姿があった。


「うおぉぉっ!」

 レイバーシスはボルスパーダの背中に勢いよく着地し、間髪入れず首と胴体の合間に、レイバーソードを突き立てた。

「なっ!? ああぁぁぁ!?」

 直後、操縦席に機器がショートして小さな爆発を起こし、ゲスパーダは悲鳴を上げる。

 完全にレイバーシスを倒したと思っていた為に、バリアを発動させるのが完全に遅れていた。

「て、手前! なんで生き延びれたってんだあ!?」

「貴様があの乗り物を地面に叩き付ける直前に小型化して攻撃をかわし、爆発の衝撃に乗じて脱出したのだ。貴様は完全に油断していて気付かなかったようだがな!」

「そ、そんなのありかよぉぉ!?」

 爆発の時に不自然な跳ね方をした残骸は、ミニカーまで小型化したレイバーシスだったことに、ゲスパーダはようやく気付いた。

「この! 離れろってんだよォ!」

 ボルスパーダが激しく身体を揺さぶる。

「離れてやるさ」

 レイバーシスがそう言うと、脚の装甲が展開し、ジェット機の噴射口のような形状の小型のブースターが出現する。

「こうやってな!」

 直後、ブースターが火を噴き、レイバーソードを持ったレイバーシスは、一気に空中へと飛び上がった。

「な、なにしやがる気だ! へ、へっ! だがこっちにはバリアが……」

 ゲスパーダはバリアを作動させようと操縦席の機器を弄る。が、

「あれ? ちょ、なんで反応しねえんだよ!?」

 機器を弄ってもバリアは全く作動せず、ゲスパーダは大いに焦る。

 レイバーシスの今の攻撃で、バリアを発生させるシステムが破壊されたようだ。

「これで決める!」

 一定の高さまで上昇し、レイバーシスは再びレイバーソードを構えて叫んだ。

「覚悟しろ! ゲスパーダ!」

 そして再びブースターが火を噴き、レイバーシスが高速で降下・ボルスパーダ目掛けて斬り掛かった。

「ひぃっ!」

 情けない悲鳴を上げるゲスパーダだが、既に逃げ道は無かった。

「うおぉぉっ!」

 レイバーシスの斬撃が、ボルスパーダの頭部を真っ二つに叩き割った。


         8

「ぎぃえぇぇっ!?」

 操縦席のあちこちがショートし、火花が飛び散り、ゲスパーダが絶叫する。

「うおぉっ!」

 地面を削り、土煙を噴き上げながら、レイバーシスが着地する。

 同時に、ボルスパーダの頭が爆発し、完全に無力化されたボルスパーダがだらしなく地面に崩れ落ちた。

「ち、ちくしょぉぉ! こんな展開ありえねえだろ!」

 背中のハッチを強引にこじ開け、ゲスパーダが這い出て来る。

「邪魔な玩具は壊させて貰った。今度こそ貴様の最期だ!」

「ひいぃ!」

 いよいよもって身の危険を感じ、ゲスパーダは転がるように逃げ出す。

「逃がすか!」

 逃げるゲスパーダに、容赦はしないとばかりにレイバーシスが斬り掛かろうとした。が、

「ところがチョッキン!」

「なにっ!?」

 突如、レイバーシスの眼前の地面が大きく隆起し、攻撃を妨害する。

「こっからは俺が相手になってやるよ!」

 隆起した地面を突き破り、モンスローダー・ボルガニラスがその巨体を現した。

「あ、兄貴! 助かったぜ!」

 その姿を見たゲスパーダが九死に一生を得たような声になる。

「ったく、また余裕こいてレイバーシスにボコられたのか……まあいい、こっからはお前の分も暴れさせてもらうぜ」

 弟の様子に呆れながらも、ゲスガ二ランは嬉しそうに言った。

「ゲスガ二ランよ、いかにモンスローダーが強力な兵器だとしても、私は負けはしない!」

「大層な自信だなァレイバーシスさんよォ。だが、コイツを見てもそんな余裕がかませるか?」

 ゲスガ二ランがそう言うと、ボルガニラスが左腕を前に突き出した。

 そして左腕の鋏から、人間の手よりも二回りほど大きなマジックハンドのような形状の機械がせり出す。

「なにっ……がっ!?」

 その機械が握っていた、岩石とも宝石ともつかぬ、黒い光沢を放つ石のような物体を見たレイバーシスが、急に苦悶の表情となった。

「……い、今の痛みは……まさか」

 石を見た途端、レイバーシスは身体を強力な電撃が走ったような一瞬の痛みと、ボルスパーダの戦いで受けたダメージが少しばかりではあるが癒されていく感覚を同時に体感した

 人間で言うなら、極めて効力が高い代わりに味の癖が非常に強い滋養強壮剤を口にしたような感覚だった。

「ハハハ! そうよ! こいつが噂のゾードって凄ェエネルギーの集合体のカケラよォ!」

 声高々に、ゲスガ二ランが叫ぶ。

「なに……これが……」

 自身の出で立ちに大きく関わるものでありながら、今まで資料でしかその姿を見たことが無かった未知のエネルギー・ゾード。

 初めてそれの実体を目の当たりにし、レイバーシスは驚嘆と困惑が混じった表情を浮かべた。

 レイバーシスが感じた痛みを伴う癒しの効果も、自身がゾードの技術を用いて産み出されたことによる副産物だったのだろう。

「最初はシラービス様にさっさとコレを渡しておこうかと思ったが、折角こんな凄ェエネルギーを手に入れたんだ! ちょっと遊ばせてもらうぜ!」

 ゲスガ二ランがそう言うと、マジックハンドが鋏の中に引っ込み、左腕を通じて操縦席内へと送られる。

「なにをする気だ!?」

「こうするのよ!」

 目の前に送られたゾードのカケラを掴むと、ゲスガ二ランはそれを自分の胸へと押し当てた。

「おおお……力がみなぎって来るぜ! ヒャハハハハハ!」

 その途端、ゲスガ二ランは小刻みに身体を振るわせ、狂ったように笑い始めた。

 ボルガニラスにも変化が起こる。

 金属が軋むような嫌な音とともに両脚、左腕、胴体が更に肥大化して一回り以上巨大化し、装甲のいたる所が棘のように隆起してより禍々しいシルエットとなり、黄色かったボディカラーも真っ赤に変色して行く。

「そんな……これがゾードの力か……!?」

 目の前で進行するボルガニラスの変貌に、レイバーシスはただ驚愕するばかりだ。

「ヒャハハハハ! さあ、第二ラウンド開始と行かせてもらうぜェ!」

 より凶悪な姿へと変貌を遂げたボルガニラスが、レイバーシスの前に立ちはだかった。

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