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  作者: 湯城木肌
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 職員室は第一校舎一階に位置している。三年二組教室は第二校舎の三階にあるので校舎を繋ぐ渡り廊下を渡る必要がある。渡り廊下は一、二階に備えられているが、二階の渡り廊下には不良もどきが邪魔になることが多いので、生徒の多くは一階で校舎を行き来していた。あたしも例に漏れず、階段で一階まで降りてから第一校舎の職員室へ足を運ぶ。

 職員室の扉には「職員室に用事があるときのマナー」と題されたイラスト付きの簡単な説明が書かれた紙が張られている。何度も見てきたのだが、やはり入室する際は毎回確認してしまう。時間はかけず、軽く上から下まで目を動かし、息を吐いた。扉を三回ノックし、横にスライドさせる。

「三年二組の鹿津芽衣です。放送で連絡があり、用事があるとのことで伺いました」

 視線を軽く動かし、職員室の様子を確認する。七つの教員の机が向かい合わせで一組となっており、その組が学年ごとにある。あたしの目の前にあるのは三年を担当する教員達の机だった。その中でも右手前、あたしに一番近い席に座っていた数学のおじいちゃん教師は落ち着かないように立ち上がって、こちらへ足を数歩歩み寄る。

「君はぁ、本当にやったのかあ?」

 間延びしたようで、どこか落ち着かない様子でおじいちゃん教師は口を動かした。数学以外の話では間が抜けているのは知っていたが、それとは違う様子があるように感じる。「やった」という単語から何をやったのかと思案してみるが、宿題以外特に思い至るものはなかった。だが宿題は常に期限内に提出しており、適当に紙面を埋めたこともない。仮に提出していないと認識されていてもわざわざ呼び出すことではないはずだ。

 首を捻り、訊ねる。

「やったって、何をですか」

「おおそうか、やはり心当たりはないのかあ。良かった良かった」

「いいえ。やったという言葉だけでは何をなのか、全く見当がつかないだけです」

「おお、そうだな」

 おじいちゃん教師は呼び出した理由をもごもごさせながら簡単に説明してくれた。

 今朝あたしに包丁で腕を切りつけられた人物が被害を訴えに来たのだそうだ。相手は高校生で、大事にする気はない代わりに一言謝罪して欲しいとこの学校に足を運んできたらしい。その相手は応接室で待ってもらっており、相手する前に事情を確認しようとあたしを職員室に呼んだということだった。

「身に覚えはありませんね」

「だろうなあ。良かった良かったあ。君みたいなマジメな生徒がそんなことをするわけがないからなあ」

「では、これで教室に戻ってよろしいでしょうか」

「いやあ待ってくれ。その被害者の高校生に一度会ってくれんか。彼も君の姿を見たら人違いだと分かってくれるだろうから」

 分かりましたと答えようとすると「ちょっと待ってください」とおじいちゃん教師の後ろからきた若い男の声が挟まれた。三年担当の国語教師だ。

「あの子は少し変でした。独特の雰囲気と言いますか、何かがズレている感じがしました。鹿津とあの子を会わせるのは危険では?」

「しかしなあ」

 心配の声をあげる国語教師にうなるおじいちゃん教師。

 だがあたしは別に悩む必要はない。ただ相手が会いたいと要求してきたからそれに応えるだけだ。

「大丈夫です、先生方」

 数歩退き、後ろ手で開いた扉の取っ手を掴む。

「失礼しました」

 礼をして、室内から出て、扉を閉めた。


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