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彼が座っていた場所を見つめた。目の前のソファの中央には軽く皺が出来ており、光が反射をしてあたしに伝えてくる。
あたしの妄想にすぎないのではないか。ふとそんな考えが過ぎる。
今朝未来から来たという少年に出会い、その妄想を膨らませてこのような事態になったのではないか。自分と会話しているような感覚、というのも妄想では納得がいくのだ。宇賀さんのような妄想癖をあたしも持っているとは思わないが、自覚していないだけというのも考えられる。
いや、きっとそうであろう。
足に力を入れて立ち上がり、体の向きを変える。彼が開けたままにしていた扉から出て、ゆっくりと扉を閉める。それが先程の出来事を夢の中に閉じ込めたような気がした。
「大丈夫だったかい」
横から聞こえた声に顔を向けると、国語教師がこちらへ歩いてきていた。
「はい。大丈夫でした」
それから二、三言言葉を交わし、一緒に三年生の教室へ向かう。国語教師は三年一組の担任であるため、二組教室へ向かうあたしと同じ方向へ進むのだ。急がないと給食が始まるよ、と彼は笑った。
国語教師の言葉にはいつものあたしどおり端的に返す。だけれどあたしの心らしきものは揺れていた。やはり先程の男は現実に存在していたのだ。
渡り廊下を渡り、三階まで上がって、二組教室前で国語教師と別れる。手洗いを済ませ、席に着いた。教室内はまだざわついていて、配膳が終わる所だった。
あたしが席に戻ると宇賀さんが目を輝かせて尋ねてきた。億万長者のおじいさんが来たの、イケメンお兄さんが告白しに来たの、等と突飛なことを次々に言ってくる。全てに、違うよと律儀に返すと、「もうこうなったら、意地でも当ててやるんだから!」と指を指された。
給食時間中、思いついたことを何度もぶつけられたが、全て外れた。未来から来た男から死を望まれたなどと当たるはずがない。給食時間も終わり、彼女は「負けたー」と呻いた。正解を求められたが、「自分で考えてみて」とだけ返す。
宇賀さんの口が止んだと思ったら、今度は真知子さんに声をかけられた。国語教師と何を話していたのかと訊ねられたので、話した内容をそのまま話す。挨拶程度の話しかしていないということが分かると、彼女は安心したように息を吐いた。
次から次へと人から話しかけられる。これはそのストレスで死ぬように彼が仕組んだ罠なのだろうかと勘ぐった。




