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  作者: 湯城木肌
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「それは、嫌ですね。ヒトゴロシなんて気持ちの悪いもの進んでしたくないですよ。ヒトがヒトをコロしてはいけない理由の一つに、気持ちが悪いからって入ると思いません?」

「人を殺したことがないから、わからないわ。想像するつもりもないわね」

 兄の持っていたミステリー小説の殺人犯が自供する場面を思い出した。

 犯人が殺したのは自分の愛した教え子だった。巧妙な時間差トリックで自分にアリバイを作り、間接的に教え子を殺した。間接的に殺したのにはアリバイのためと、直接手を下さないことで罪の意識を減らすためだった。だがそれは裏目に出てしまい、間接的であるがゆえに教え子がどのような顔をしながら、最後に何と言って、自分のことをどう思いながら死んだのかという想像が膨らみ、罪の意識が増した。結局殺人犯は逮捕される前に耐えられず自殺を図るのだった。

 あたしの目の前にいる男は、その惨めな殺人教師と違って間接的であれば罪の意識を感じない、そう考えているようだ。自分の手は汚さない、けれどあたしには死んで欲しい。勝手がよすぎるだろう。

「そうですか。僕にはヒトをコロす度胸もありませんが、仮にあったとしても、あなただけはどうしてもコロせません。あなたは僕の祖先なので」

「そう」

 返事をしてみせたが、これは嘘だな、と思った。あたしが人並みに恋愛をして子供を産むなんて想像できない。他人と他人が確実な繋がりを持てる、家族なんてものをあたしが新たに創るということが考えられなかった。

「信じていませんね?」

「ええ。パラドックスが起きるから殺せない、と言いたいのよね。あたしが子供を残さずに死んだらあなたは生まれてこない。だからあなたはあたしを殺せない」

「そうですその通りです。分かっているじゃないですか」

「でもね、あなたはあたしに死を勧めた。もしこれであたしが死んだら間接的であろうとあなたはあたしを殺したことになる。そうするとあなたは存在しない。ゆえにあなたはあたしに死を勧めることが出来ない」

 つまり、と結論付ける。

この男はただの妄想が過ぎた可哀想な男なのだろう。過去に遡るだけでタイムパラドックスが生じるため、誰も行うことは出来ない。それは二十二世紀の科学でほぼ証明されたことだ。

「あなたから見た過去は変えられない。諦めることね」

 説得するために妄想男に合わせて話す。

 普段人と言葉を交わす場合は相手の挨拶や質問に同意や返答を端的に返すだけだ。そのため単純な返事で済まなかった、男との会話は久々に「会話」をしたような気分になる。

 男はため息をつき、足を組んだ。まだ諦めず話を続けるつもりらしい。

「説明が面倒なので省いておきたかったんですが、そうでもしないとあなたは納得されないようですし。あなたに死んでもらわないとここまで来た理由がないですからね」

「ご苦労なことね」

「全くです」

 やれやれ、といった調子で彼は口を開く。

「もう世界は既に狂ってしまってるんです。境目がずれてしまったんですよ」

 何を言っているのだ、とあたしは眉間に皺を寄せた。


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