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  作者: 湯城木肌
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 趣味と呼べるものは持ちあわせていない。

 それなりに好きなものはそれなりにある。音楽、絵画、物語、ゲーム。この世に蔓延しているものは面白みに溢れていて、軽く触れただけでも楽しめる。だけれど、熱中出来たことは今のところ一度もない。

 あたしに友達はいない。だから流行の情報源は大体家族やネットだ。親や兄が観ている映画やドラマを軽く流し見、時間を潰すために兄の部屋にある小説や漫画を借りて読む程度だ。

 兄の趣味のためだろうか知らないけれど、最近触れる物語は作者が異なっているはずなのに、同じ主人公が別々の物語に登場しているように感じることがある。

 平和が一番。

 戦争を経験したわけでもなく、伝聞で戦争の驚異を感じていない主人公がそう口にする。現状に満足して今の平穏さえ保たれていれば文句はない。そんな主張がお決まりのようにあたしの目の前に並べられるのだ。彼らに非日常がおとずれ、日常を取り戻そうと奮闘し、最初の主張を繰り返しながら駆けずり回る。

 兄の趣味にせよ、平穏を望む主人公に多く触れるようになったのは事実だ。物語にも中の人がいるのかもしれないと思わせる主人公が増えたのは、その思想に共感する人間が増えたからだとあたしは考えている。

その全ての人間が同じ境遇とは言えない。単純に満たすことの出来る欲とは違う自身もうまく捉えられていない欲のせいで無欲に見えて、現状に甘んじている人もなかには大多数いるだろうから。だけれども、あたしみたいな存在は違う。

 あたしは何にも挑戦したくない。より正確に言えば、挑戦した結果に傷つきたくないんだ。安全圏で縮こまることなく、ただただ無意味に成長して、生も負もどちらの遺産もなく世界にかすり傷すら残さずに死にたい。

 それがあたしの理想だ。

 挑戦。未知。非日常。

 そんなものはお断り。

 だからあたしも平和が一番だと、物語の量産型主人公のような思想を持っている。なにごとも挑戦せず、新しい非日常を望まない。

 兄の所有する物語の平穏主義の一般人はあたしと同じであるようなのに、最後には行動力を魅せる。皆物語を経ていう中で前を向き、未来を見つめる。未来なんて不確かなものをどうして前向きに受け止められるのかはなはだ疑問だ。平穏を望むことはあたしと同じであっても、挑戦して傷つくことが嫌だというあたしと同じ思考回路を辿ったわけではないのだろう。

 未来には希望が待っている。光に満ち溢れている。

 どうしてそう思うことが出来るのだろう。

 未来には絶望が待っている。暗闇で覆われている。

 そんな風に思考はいたらないのだろうか。

 ともかく。

 あたしは現在から不明瞭な未来を見たくはない。

 未来から現在を見下ろしたいのだ。

 全ては自分を傷つけずに死ぬために。

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