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小説作法の本について 3 上

     3


 今回はやや内容がハードになるかもです。はたして月見にこなせるかどうか、心もとない次第です。まずは本のタイトルを。


 「それでも作家になりたい人のためのブックガイド」渡部直己・絓秀実著 太田出版

 「本気で作家になりたければ漱石に学べ!」渡部直己著 太田出版


 いやあ、難しい本です。皮肉を込めて、小難しいといってやりたい。憎たらしいったらありゃしない。初読のときは、なにが書いてあるのかさっぱりでした。ハイハイ、私がバカで悪うございましたで敗退。その後二度三度と読み返しているうちに、いくぶんなりとも、たぶんこういう内容なのではないかに至り、それを述べてみたいと思っています。ですから、このあとに続くのは、月見が本から勝手に汲み取ったもので、実際の著者たちの意図や考えとは、まるっきりちがうものであるかもしれないことを、先に言い訳させてもらっときます。頭が悪いんで、咀嚼している自信がまるでないんです。恥を忍んで言いますが、いまだほんの一部しか理解できていないと思っています。

 なぜにそんな本を紹介したりするのかというと、これは月見の勘みたいなものですが、この本には、小説を書くうえで、かなり大事なことが含まれているような気がするからです。だから、ま、月見も幾度となく読み返しているのです。


 さて、「それでも」のほうですが、作家になりたい人のためのブッグガイドとなっていますが、こういう本を読んだらいいですよという親切な本ではありません。プロの作家さんたちの小説の一部を取り出して、バッサバッサ斬っていっては、小説家志望者たちに、これはしてはいけない、真似しちゃいけない、恥を知りましょう、教養のある人だけ、と、えらそうに指南してくれる本です。最初と最後に著者お二人の長―い対談もあり、それがまたえらそう。ハイハイ、私がバカで悪うござんした。しかし、そこがこの本の読み所です。これ読んだら、新井〇子さん、林〇理子さん、辻〇成さん、などを読もうという気持ちはさらさらなくなります。バカ扱い。プロの方でもそうなんだから、月見如きはなにをか言わんやです。一部分を抜粋しているだけなので、小説全体からの観点が抜け落ちているのではないかという疑問を持ちつつも、また全面正しいとは賛同しないまでも、切っ先の鋭い見地であるのは間違いないです。ただの悪口や罵詈雑言でなく、どうしてダメなのかを説明しているところがポイントです。いやあ、痛い痛い。月見としては、いままで考えたことも気づくこともなかったような、観点、論点、問題点、批評ばかりであります。ある意味でバトル。小説というのは、こうもすごいものなのかと認識させられました。

 本文からの批評の例をひとつだけ書き写します。


「これだけ紋切り型を並べて、終わりを締め括ればゴリッパである。(中略)つまり、作家になることに何の才能もいらないのである。」

「そこには何のパロディ意識や笑いの意識さえなく、おおまじめで、「文学」をやっているつもりなのである。(中略)そして、これだけヌケヌケと紋切り型を書けるのは、確かに一種の才能なのだろうが、「凡人」はくれぐれも真似しないように」


 「本気で」のほうは、「それでも」の姉妹編ないし続編みたいな本で、こちらは小説を書くうえでの、書き出し、人物造形法、衝突の技法といったテクニックを、夏目漱石を例にしながら解説してくれています。「それでも」より、一歩踏み込んだ内容となっています。毒は相変わらず健在で、漱石のよい例の比較として、現代作家の文を悪い見本として槍玉に挙げています。おいおい、みんなこんなことを自覚しながら書いているのかよというテクニックばかりで、それだけで月見はめまいがしてしまっている。どうしたらこんなテクニックを使えるのかと、いまだに暗中模索です。

 これもまた、一文を抜き出して写してみます。


「そうした作家の如上さまざまな書き出しから、今日の作家志望者が銘して学ぶべきはしたがってまず、小説は何をどう書いてもよいというもっとも根本的な自由の感触であると同時に、あらゆる文学ジャンルからの「捨て子」(マルト・ロベール)たるその場の自由を全うするにたる気概にほかならない。ただし、逆は必ずしも真ならず。ナンデモアリならお手の物だとはいえ、暴走族のアンちゃんたちが、そのまま作家になれるわけでは毛頭なく、大切なのはむろん、その自由ゆえにこそ闊達にかつ繊細に開拓されるもろもろの技法をいかに学ぶかにある」


 で、なんでこんな理解のおぼつかない本を読むのかといいますと、必要なことだと思っているからです。わからないんじゃ、小説書くのになんの役も立たないだろうと言われそうですが、わからないながらも、手探りで読んでいます。やはり、上には上がいます。それを少しでも吸収したいからです。

 文学について少し話します。文学とかいうものを、イワシの頭のようにして信奉しているわけではありません。文学は文学、エンタメはエンタメと考えています。第一、文学とはなにかがよくわかっていない。それでも、やっぱ、文学作品に凄みのようなものはあります。

 芥川賞と直木賞はご存じでしょう。芥川賞が文学作品、直木賞が大衆小説の賞だということも説明の必要はないと思います。で、お聞きします。直木三十五の小説を読んだことがある人いますか? (月見は、短編を一篇だけ読んだことがあります)たぶん、ほとんどの方が読んだことがないでしょう。直木賞の命名のもとになった直木三十五の小説をですね。で、芥川龍之介の小説を読んだことのない方います? こちらはまずいないでしょう。教科書に載りますしね。つまり、文学とエンタメの差って、こんな感じだろうと月見は考えています。いま読まれていないからダメとかいう話ではないんです。そういうふうな差があるっていうことです。それは文部省の教育指導のせいだと言いたい人もいるかもしれませんが、それを言うのは、直木三十五の小説と芥川龍之介の小説を比較して読んでからのほうがいいと思いますよ。差があるのわかります。ただし、だから文学はえらいんだとは思っていません。芥川さんが、直木三十五のような剣豪小説書けたとは思えません。川端康成の少女小説より、吉屋信子のほうが面白いです。それに文学系の作家のなかで、書きたい気持ちはあっても、推理小説を実際に書けたのは数人です。吉行淳之介氏は、大岡昇平氏の日本推理作家協会賞の受賞を、羨ましいとエッセイでされていました。(そんな吉行氏が大好きです)ですから、文学のほうがエンタメより優秀とは思っていない。

 ではなぜ、直木三十五の小説はいま読まれず、芥川龍之介は読まれているのか。簡単です。直木三十五の小説は、時代の風雪に耐えることができなかったからです。龍之介の小説は、それにちゃんと耐えているからです。これが両者の差です。やはり、ものがちがうんですわ。文章と技巧と、扱っているテーマがですね。ここでは、芥川を例としていますが、文学小説全体の凄みというのがそれです。そしてそれを、少しなりとも見習いたい、学べるものならそうしたいと、みなさんは思われないでしょうか。


 前回で久美先生の「新人賞の獲り方教えます」シリーズの二冊を、月見はお勧めしました。それに間違いはないのですが、もっと小説を書くのがうまくなりたいと思われるなら、文章を上達させたいと思うならば、小説とはなにか、書くとはどういうことかという、大上段ふりかぶりを、避けて通ることはできません。エンタメ小説を書くことを主体とした小説作法の本だけで、確かに、まがりなりにも小説を書くことはできるようになります。ただしそこから先となると、文学あたりとのお付き合いも必要です。たとえ、エンタメを目指していてもですね。文学の、エンタメに使えるとこだけ盗めば、間違いなく作品は輝きを帯びます。カラーボックスさえできたら、それであなたは満足ですかという話です。

 説明書通りにやりさえすれば、まずカラーボックスは誰にでも組み立てることができます。では、椅子ならどうでしょう。完成品として市販されているような椅子。作るより、買ったほうが早いと思われるでしょうね。しかし、日曜大工の本を買い、ホームセンターで材料と道具を揃えれば、なんとか作ることができるかもです。では、英国製家具の椅子は? もう無理ね。説明書読んだぐらいではぜったいできない。長年の技術修練が必要なのはいやでもわかる。そこなんです。カラーボックス止まりでよしとするか、せめて椅子ぐらい、いや英国製家具まで作ってみたい。どこまで望むかです。そしてその上昇志向があるのなら、小説を書くにおいても、小説とはなにか、書くとはどういうことか、自分なりに学んでいかないとおっつかないわけです。説明書だけでは、小説書くの上達しないんです。そんなかったくるしいのイヤだ、面倒だしきついし、とする人はそこまでね。人それぞれだから、なにも言いません。ただね。これは物理的に考えてもらってもいいんですけど、苦労したりうざい思いしたりして、初めて到達できる場所というのがあるんですね。もう仕方ないの。そうなっているんだから。その人の才能によって、どれほど苦労するかは一概にいえませんけど、そういう人のイヤがることしないと、行きつくことのできない場所ってあるんです。ワープは使えないの。そこに行きたいかどうか、それだけです。英国製家具調のカラーボックス作ってみたいかどうかね。


 それで、「それでも作家になりたい人のブックガイド」と「本気で作家になりたいのなら漱石に学べ!」の二冊を、月見は勧めるわけです。これ読めさえすれば上達するという話ではありませんが、足がかりにはなります。足がかりあったほうが、先に進むの少しは楽になります。


3の段落は、上、中、下の三回に分かれます。

すみません。長いんです。

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