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続・EYES  作者: 早村友裕
3/21

3.特訓

「アキラ、明日の朝帰るのか?」

「ああ。そんなにも長くここにいるわけにはいかないから。」

「シンジは?」

「俺はこの後アトリアに戻るよ。やっとアリアから戻ってきたばっかだからな。家に帰る前にこの島に寄ったんだ。」

「へーえ。」

3人は<あの時>歓迎パーティーが開かれた広場に寝転がって話していた。

なにしろ3人がそろうのは半年ぶり、元のマサキで考えると、もっと前から会っていない事になるのだから。

空はもう暗く、幾千幾万の星が輝いている。

「じゃあ、またバラバラだね。」

「そういう事だ。・・・でも、すぐに会えるさ。」

「そうだな。」

「あ、そうだ。シンジ、弓兵隊長のランダム=エリルが引退するんだ。」

「あのじいさんが?へえ。」

「もう歳なんだろ。」

「そうか。」

「おそらくマルクス=アントが後を継ぐだろうよ。」

「げっ。」

マサキはもろに嫌そうな声を出した。

「俺、あいつ嫌いだよ。何かいっつも俺の事睨むんだぜ。」

「それでお前はいっつもマルクスを睨んでるってわけか?」

「・・・。」

マサキがマルクスの事をよく思っていないのには、とっくに気がついていた。

この間なんか、廊下ですれ違おうとすると、あからさまにお互い相手を睨んでたから。

「何かあいつは好きになれねーんだよ、とにかく。」

マルクスは、ミトバ島生まれの25歳。若い割に明晰で腕も確かなので、弓兵隊の副隊長をつとめている。まあ、性格がいいと思えないのは確かだけど。

「ところでよ、マサキ。お前戴冠式はいつなんだ?」

「えーとね・・・アキラ、いつだ?」

「未だ正式には決まっていないが、おそらく1ヶ月もすれば・・・。」

「1ヶ月?!それじゃだめだ。」

「何でだよ。」

「俺、いったんアトリアに帰ったら、その後ユロマに行くつもりなんだ。1ヶ月後にはユロマにいるよ。きっと。」

「え、じゃ、戴冠式に来られないわけ?」

「そう・・・なるかな。」

「やだよ、シンジに来てくれなくちゃ。」

マサキは起き上がってシンジを見下ろした。

「わかってる。何としてでもいく。正式な日取りが決まったら教えてくれ。」

「うん。」

マサキはにっこりと笑った。

そこへ、ティラがやってきた。

「マサキ、そろそろ寝たほうがいい。もう遅いよ。」

「はーい。」

マサキは素直に返事をすると、ティラの後について家に入っていった。

「おやすみ、アキラ、シンジ。」

「おやすみ、マサキ。」

マサキの背中がドアの向こうに消えてから、シンジはアキラに言った。

「それにしてもアキラ。お前、マサキを王女にするのがどういう事なのか分かってるのか?」

「どういうことって?」

「あいつはミラジアリナの皇女だ。クロークさんは王位を継承しなかったとはいえ、王子だってことには変わりない。・・・へたするととんでもないことになるぞ。」

「とんでもない事・・・。」

アキラの頭の中には、何も浮かばない。

「だめな王子だなあ。」

シンジははあ・・・とため息をついた。

「国際問題とか、考えた事ないのか?」

「国際?ミラジアリナとの間にか?」

「そうだ。このままいくとミラジアリナとの国交は開けるだろうが、逆に国を乗っ取られるぞ。」

「・・・??」

間抜けな顔。あほだ、こいつ・・・。

まあ、このくらい抜けた奴でないと国の平和はたもたれねえか。

「いい。いまの、聞き流してくれ。」

「わかった。」

一瞬で記憶から消しやがった。ま、いいけど。

「シンジ。お前もここに残らないか?」

「は?」

「いや、一ヶ月くらいでいいんだ。妖力の使い方をコントロールできるくらいまでで。」

「俺が妖力を?何で?」

「いや、なんとなく・・・俺もここで妖力の使い方を学んでから城に戻ろうと思ってるし。どうせならシンジもいっしょにやらないかなあって。どうせ1ヶ月もすれば王宮に戻るつもりだしさ。」

「うーん、一ヶ月か・・・。」

シンジは考え込んでしまった。が、すぐに顔を上げた。

「わかった。親父と交渉してみる。」

「やった!」

これでまたシンジといられる。

ずいぶん長い間離れ離れだった3人がようやく集まったんだから、もう少し一緒にいたい。

「じゃあ、すぐに使いをだそう。」

シンジは立ちあがった。

「使い?今、夜だから、明日になってからでも・・・。」

「いや、夜の方がいい。」

シンジは今も変わらず腰に差してある横笛・・・<炎の歌人>を取り出した。

「??」

「アリアにいた時に仲間になったんだ。」

シンジは笛を構え、澄んだ音色を響かせた。

今度の曲は<焔玉星のささやき(リェマ・フィルストゥー)>という、ラヴ・ソング。バラード調の美しいメロディーが幾万の星空に響き渡る。

アキラは妖力を感じて思わず空を見上げた。

「!」

「呼んだ?」

シンジが最後の音にディミネンドをかける。

いつの間にかまた、あたりに静寂が訪れていた。

「ああ。すまないな。」

「エ、エンジェル・・・。」

ミドルクラスの上位に位置する聖天使エンジェルは、妖力の強さから言うとペガサスと同じくらい。人間の少女に近い姿を持ち、背には翼を持っている。今アキラの目の前にいるエンジェルは翼が赤い。きっと炎の力を使うのだろう。

エンジェルはライラと同じように先見を得意とする。

「紹介するよ。いつも言ってる、<アキラ>だ。」

「あー!じゃ、この人、王子?すごーい!本物?あ、私、炎聖天使レッドエンジェルのキャラです。よろしくっ!」

「あ、どうも・・・。」

アキラはちょっと会釈した。

するとキャラは一瞬真剣な顔をして、アキラにこう告げた。

「すごい・・・感じきれないくらい強い・・・力。シンジ以外にもこんな人がいるなんて・・・。完全にハイエストクラスですよ。」

「はあ?」

アキラにはいまいち分からない。

「キャラには人の潜在能力をはかるちからがあるんだそうだ。」

「はあ・・・。」

「しかもその瞳。輝光瞳レイディアントですね。すごい。ライラ様に会った事、あるんですか?」

「いや、実際に会った事はないんだ。」

っていうか、中にいたからなんだけど・・・。

「そうなんですかぁ・・・。」

「キャラはフィルラの配下についてるくせにライラが好きなんだよ。」

「ああ、でも、すごいわ!今天使わたしたちの間じゃ、GOLDEN EYESって言ったらほとんど神様ですよ。何しろ、闇の世界から私たちを救ってくださったんですものね!」

キャラは感情の起伏が激しい。

笑っていたかと思えばがっかりし、そう思っていると今度は目をきらきらさせてアキラを見上げている。

「はは・・・。」

こういう人間(?)は苦手だ・・・。

アキラはたじたじとなった。

「そう言えば、何で呼んだの?」

「あ、忘れてた。親父に伝言して欲しいんだ。」

「えー、私シンジのおとーさまなんて知らない。」

探索サーチ使えばいいだろ。」

「えー。疲れるもん。」

「ご主人様の言う事を聞け。」

「ぶー。こんな時ばっかり使い魔扱いして・・・。」

キャラはほっぺたをぷーっと膨らませた。

「え?キャラって、シンジの使い魔?」

「ま、そうとも言うな。」

クラスの高い炎聖天使レッドエンジェルを使い魔にするなんて初めて聞いた・・・。もっとも、メシアの使い魔はもっとすごいけど。

「とにかく伝えろ。<俺はキチ島にいる。しばらく帰らないからそのつもりで。>以上だ。」

「たったそれだけ?」

「そうだ。」

シンジはあっさり言い放った。

変わってないなあ。こういうとこ。

「はーい、じゃ、いってきまーす。」

「気をつけろよ。」

「はーい。」

キャラはまた夜の空に消えていった。

「と、いうわけで俺もここに残る。」

シンジはにぃっと笑った。アキラも思わず笑いかえす。

また楽しくなりそうだ。

アキラはいつだったかのように期待で鼓動が早くなっていくのを感じた。



特訓1日目。

「うえ?!勉強すんのか?!」

マサキの嫌そーな声が響いた。

「当たり前だ。使うからには妖力について知ってもらわなくてはならない。」

「うう・・・。」

勉強嫌いのマサキにとっては相当な不意打ちを食らった気分だった。

もちろんアキラもシンジも勉強が好きなわけがない。

「げげげ・・・帰ろっかな・・・。」

「待て、シンジ。お前だけ逃げようったてそうはさせねえぞ。」

逃げようとしたシンジをマサキが片手でがっしと捕まえた。

「不幸は皆でわかつもの。」

アキラの脳裏にいつだったか誰かが言ったそんな言葉が浮かんだ。

「不幸・・・?勉強はお前たちにとって不幸なのか?」

クロークがあきれたように言い放った。

「当たり前だ。」

マサキは当然のように言い放つ。

「あきれた奴等だ。」

クロークはそう言いつつも古い本を取り出してきた。

「それはなんですか?」

「昔、私が使っていた本だ。妖力について、一から学べるようになっている。」

「はは・・・。」

もう笑うしかない。

クロークはちょっと3人を見やると、小さくため息をついた。


「そもそも妖力とは何か。妖力というのは、自然界に普通に存在するものだ。分散していれば目には見えないし、使う事もできない。だから、自分のもとに<集める>んだ。」

クロークはその右手を前に出した。

黒い炎のような、オーラのようなものがうっすらと手を包んでいるのが見えた。

「これは闇の力。私が集められるのは闇の力だ。他の力・・・例えば水の力なんかも集められないこともないが、それは難しい。」

「何で?」

「それぞれ特性があるからだ。これはもって生まれたセンスに他ならない。自分と相性のいい力があり、それは集めやすいものなのだ。そして、自然界に存在する力の種類は4つ。」

「あ、それは分かる。」

シンジが手を上げた。

「光と、闇と、水と、それから炎。」

「そうだ。・・・それでは、妖力を集めるとはどういうことか。それは、妖魔と妖力者では、根本的に違う。」

「何で?」

マサキは、最初はいやいや聞いてたくせに、すっかり話にのめり込んでいる。

アキラも意外と面白そうな話なので、真剣に聞くことにした。

「例えば人間の身体を入れ物としよう。その入れ物をミラジアリナではプレオリーと呼ぶ。プレオリーの大きさは人によって異なるが、そこに入っている人間の魂の大きさは、その大きさとは関係なく万人ほとんど変わらない。すると、プレオリーの大きい人は、自然と容積に余裕ができるわけだ。」

「はあ。」

マサキは考え考え話を聞いている。

アキラにはよく分かった。前にウィオラが話してくれた交魂の話と少しかぶった所もある。

「その容積の余りに妖力を集めるのが人間のやり方だ。」

えーっと、話をまとめると、プレオリーの大きさがそのまんまその人の強さになるって事・・・だと思う。

「次に妖魔のやり方だが・・・それを理解するには、妖魔の本質を先に知ってもらわなくてはいけない。」

「それウィオラに聞いたよ。妖魔は魂だけしかない。だから人間に比べて不安定だって。」

「魂だけ・・・か。ちょっと説明不十分だな。」

クロークは苦笑した。

「妖魔というのはもともと妖力の塊なんだ。」

「妖力の?」

「塊?」

「???」

アキラとマサキとシンジは同時にハテナマークを飛ばした。

「妖力は、集めて凝縮すると物質として形を成す。ほら、妖石なんかもそうだ。あれは妖力を固めて作ったものだろう?」

「あ、そうだ。」

「それをさらにもっと大規模にやったものが、妖魔なんだ。つまり・・・。」

「つまり?」

「妖魔は妖力が固まってできた物質って事だ。根本的に人間や、交魂、妖獣なんかとは違う。まったく別の生き物だ。」

「別の生き物ぉ・・・?」

ちょっと理不尽だ。あのウィオラがもとは妖力の塊だとは考えにくい。

マサキが明らかにふに落ちないという表情をしたのを見て、クロークは苦笑した。

「まあいい。実践していく中で少しずつ分かるようになる。」

「じゃあ、俺たちでも妖石を作ることができるようになるのか?」

「まあ、理論的には可能だ。」

「ほんと?じゃ、がんばろーっと。」

マサキは小さくガッツポーズ。

「クロークさんはやったことないんですか?」

「人間の場合相当な量の妖力と、相当な集中力と時間が必要だ。私は途中で諦めてしまった。メシアは何度か作ったことがあるそうだ。」

「あ、それってまさか、マサキが最初に持ってた石もそうなんじゃ・・・?」

アキラは初めて会った時に腕輪にしていた碧漆の石のことを思い出した。

「え?」

「でもあれ、割れちまったよな。」

そう。ウルクで妖烏に追われて崖から転落。その時いっしょに石も割れてしまったのだ。

「きっとそうだろう。マサキとティラに一つずつ持たせていたはずだ。」

「・・・。」

マサキは口をつぐんだ。

やっぱりあれは大事な石だったんだ。

「ティラも失くした、といっていたな。もしかすると、ダークネスシールドに使ってあった碧漆の石はティラのだったのかもしれない。」

そうか。それでティラが碧漆の石を持っていたわけが分かる。

「それはそうと、妖魔ってのはどうやって妖力を集めるんだ?」

シンジが聞いた。

「そうだったな。・・・妖魔は元となる妖力・・・つまり自分の身体に妖力を呼び寄せるんだ。つまり・・・そうだな・・・磁石に磁石がくっつくような感じだ。」

「へえ。」

「だから、その磁石ともいうべき自分の身体そのものが強さの目安になる。」

クロークは本の間から一枚の紙を取り出した。

ポスターくらいの大きさの紙を無理矢理たたんで本に挟んだ、という感じ。端っこがぼろぼろになり、古ぼけて茶色っぽくなっている。

「妖魔の強さ・・・これはカレオリーと呼ぶ。普通の妖力者のレベルをノーマルクラスの中心と基準してカレオリーとプレオリーをランク付けしたものがこれだ。」

「すげえ!」

実際はポスターなんかよりずっと大きく、机いっぱいに広げられたその大きな紙には、ハイエストクラスからロークラスまで、様々な種の妖魔・妖獣がランクづけされていた。


今までに出てきた妖魔・妖獣を抜き出すと、こうなる。

左上に行くほど強い。固有名詞はカタカナ、種は漢字。妖魔、妖獣、(妖力者、その他)。


ハイエストクラス: ライラ (マサキのからだを乗っ取ったビルラ) ビルラ ウィオラ フィルラ

ハイクラス : シャラメイ デーモン (メシア) レヴィ イーグル (クローク) フェニックス

ウォール オルカ (マサキの中のウィオラ) ビャクヤ (セバー)

ミドルクラス : 妖飛馬 キャラ (トゥージ) 聖天使 アキラ 妖熊 (ヘレネス)

ノーマルクラス : (トゥーギ) 妖鷲 <普通の妖力者> 雷神 妖馬 妖烏

ロークラス : 妖兎 妖雀



「クロークさんはどの辺?」

「私はおそらく・・・この辺りだな。」

クロークは人差し指でイーグルとフェニックスの間辺りを指した(ハイクラス中位)。

「すげえ!!フェニックスより上?!」

「推測だがな。ちなみにメシアはここだ。」

クロークはさらに上、デーモンとレヴィの間に指を移動させた(ハイクラス上位)。

「おばさんの方が強いのか・・・。」

「今までの歴史の中でも、3本の指に入るだろう。だが、シンジ。お前の潜在能力はそれより上かもしれん。」

「え?なんで?」

シンジはきょとんとした顔をした。

あ、でもキャラも同じよーなこと言ってたような・・・。

「<炎の歌人>は別としても、お前は一度水を呼んだことがあるだろう?妖力の集めかたも知らない奴がいきなり4元象(光・影・水・炎)を呼んだなど・・・しかも自分の系統以外の力を使ったなどということは、聞いたことがない。」

「そういえばシンジは、妖力使ったことあったんだっけ。」

「・・・実は、あれから何度か試したんだけど水はうまく扱えねーんだ。炎はだいたい<呼べる>けどな。それでもだいぶ集中しねえと。」

「炎を呼べる?!」

「ああ。」

シンジがあっさりと答えるのを聞いてクロークは大きくため息をついた。

「まったくお前という奴は・・・。炎を呼べるだと・・・?普通の妖力者が何年もかかって会得することを・・・。」

クロークはもう一度深い深いため息をついた。

「お前と話してると疲れてくるよ、シンジ。」

「そうか?でも・・・。」

「ねえ、父さん。」

そんな二人のやり取りがまるで耳の片隅にすら入っていないかのようにマサキはクロークに声をかけた。

「ん?何だ、マサキ。」

おじいさんは?どの辺?強い?」

「長か・・・この辺りかな?」

ミドルクラスとハイクラスの隙間ぐらい。

「俺は?」

マサキが興味津々で聞いた。が、

「まだ見たことがないから分からない。」

クロークはちょっと投げやり気味に言った。

マサキはぷーっと頬を膨らませて父親クロークに抗議した。

「じゃあ、見てよ。俺も早く妖力使いたいよ。」

「・・・わかった。すぐ実践にするよ。お前たちに、常識は通じないようだ・・・。」

クロークは今までの人生の中で一番深かったであろうため息をついた。


特訓3日目。

マサキとアキラは簡単に妖力の集めかたをマスターした。シンジは以前から自己流でやっていたらしいので、何の苦労もなくクリア。

クロークはまたもや<これは普通だったら一年近くかかる事なのに・・・。>と嘆いていた。

今日も林の中で練習。部落内でやると他の人に迷惑かかるから。

「王子はやはり光輝ひかりの力ですね。マサキは・・・よかった。水のようだ。」

「水?よかった。ウィオラとおんなじだ。」

マサキは満面に笑みを浮かべた。

手のひらに集まった碧い光をぽんっと球にして手のひらの上に置いた。

「?!マサキ?!それをどこで?!」

「え?ウィオラはよくやってたぞ。」

うう・・・本当に常識破りだ・・・。

クロークは頭が痛くなってきた。

この3人ならほっといても自分たちで強くなるんじゃないのか?私の力なんか簡単に抜いていくだろう。

「俺はお前たちに教えるのが怖い。」

「そう?」

おそらくウィオラがマサキの体を使って妖力を使っていた事で体が覚えているせいもあるのだろう。

今の力こそアキラとマサキならロークラス上位、シンジならノーマルクラス上位にも満たないだろうが、使いはじめてわずか3日でこれでは、それこそ本当に末恐ろしい。

「マサキ。その球、投げてみろ。」

「え?これ?」

マサキが自分の手のひらにある碧い球とクロークの顔を見比べながら言った。

「そうだ。」

「わかった。」

マサキは腕をぐるんぐるん回すと碧い球を近くの木に向かって投げた。

碧い光はまっすぐに木に向かって飛ぶと、木にあたって碧い光を発散し、一瞬で砕け散ってしまった。

「消えちゃった。」

「水は増幅。」

「ゾーフク?」

ドクン

「?!」

大きな鼓動を感じて木を振り替えると、木がざわめき、葉を揺らし、新たな枝を伸ばしはじめていた。

「木の生命力を増幅させたんだ。」

「・・・!」

「ちなみに光は治癒。壊れたものを元に戻し、傷ついたものを癒す力。炎は破壊。あらゆる物を破壊する。影・・・闇は、吸収。全てを吸い込み、無に返してしまう力だ。」

「すっげ・・・え・・・。」

自分の力でこんな事ができるとは!

マサキは背筋がぞくぞくした。

もっといろんな力を使いたい。

「何の意志もかけられていない妖力は、そのものの性質をずばりあらわす。妖力は意識的に使う事で様々な<能力>となるのだ。呪文というのは、その意識を高める役割をする。だから、本来呪文というものは妖力を使う事においては必要ない。」

「へえ。」

そういえばウィオラが水を操る時に呪文を言っているのを一回も聞いたことがない。

「技に名前をつけるのも呪文の一種だな。例えば私の場合、ミラジアリナにいた頃の師匠から呪文をもらっている。」

「どんなの?」

霄峻覇莞稀シーサハイキ

「どういう意味?」

「シーサ=世界、ハイキ=覇者。ミラジアリナの古い言葉で<世界の覇者>という意味だ。」

「ふーん。」

マサキはもう一度左手のひらに妖力を集めた。

「今度は、考えてみる。」

マサキは今葉を茂らせている木に向かって左手を投げ出した。

「ヒュンッ」

空を切る音がした。明らかにさっきとは違う形状。だが、その形には見覚えがある。

「投擲!」

「御名答。」

マサキがにっと笑った。

ところが・・・。

「パーン!」

「?!」

その<投擲に似た形をした碧い妖力の塊>は、木の幹にあたって砕け散った。

「何で?」

「お前の力が妖力を物質として形作るにはまだ未熟だという事だ。妖力を物質化させたかったらもっと力をつけろ。もっとたくさんの妖力を集められるようになって、それを凝縮させる方法を覚えてからだ。」

「うう。」

マサキはがっくりとうなだれた。


その日の夕方の事。

練習を終え、部落へ戻ろうとしていた時、マサキが突然叫んだ。

「アキラだ!アキラが来た!」

「え?俺はさっきからずっとここにいるけど・・・。」

「違う!妖鷲のアキラだよ!」

「本当だ。<何か>の気配が近づいている。」

クロークも辺りを見回した。

アキラにも感じ取れた。懐かしい気配。確かに<アキラ>の気配だ。

「妖鷲?アキラ?どういう事だ?」

シンジは分からない。

そういえばシンジは<アキラ>に会ったことなかったっけ。

「バサッ、バサッ・・・。」

上から大きな羽音で<アキラ>が舞い下りてきた。

アキラはウェスタ王の使い獣。ミドルクラスの妖鷲で、炎の力を使う。普段から書簡の運搬などに使われている。

・・・ 王子 大変です すぐに王宮に 戻ってください

「大変?何が?」

アキラは目線より数十センチほど上に浮かぶ<アキラ>を見上げて言った。

・・・ ミラジアリナから 使者がやってきたんですよ!

「ミラジアリナから?!」

「本当か?!」

アキラとクロークはほぼ同じに叫んだ。

「何のために?」

… ヴェルナ王女を・・・いや マサキ=ミラジアリナを受け取りに

「!!」

「まさか・・・。」

4人とも愕然となった。

考えていたとはいえ、こんなにも早く?!

「わかった。できるだけすぐに戻る。シンジ、お前の船、あるか?」

「港にとめてある。すぐこい。」

「マサキ!お前もだ!」

「ああ。」

「私も行く。連れていってくれ。」

「…<3人とも>急げよ。」

シンジはそう言い残すと一人港へ向かった。

「俺、先に行ってる。」

「分かった。俺は一度部落に戻るよ。」

「私もとってこなくてはいけないものがある。」

「ああ、分かった。」

マサキも港へ向かった。

「王子。すみません。」

「?何が?」

アキラはきょとんとした顔をクロークに向けた。

そうか。この方はこういうお人なのだ。

「いえ…なんでもありません。」


「シャラメイ?!」

港にはシャラメイがいた。

「何で?!」

アキラはシャラメイの金色の身体に駆け寄った。

「俺が呼んだの。」

マサキが自分を指差していった。

… 姫君が 助けてくれと おっしゃるもので

「…。」

まったく抜け目のない…。

… 王子と姫君は 私にお乗りください アキラ お前はお前の主を呼んで 船を先導してもらえ

… はい

<アキラ>は自らの身体に妖力を集めた。

それを嘴の先に集めると、空中に紅い炎の文様を描いた。

「イーグル…!」

シンジは直感した。八星使、イーグルを呼ぶ気だ!

… 王子 急いでください

シャラメイの声に振り替えると、マサキはすでにシャラメイの背にまたがっていた。

アキラがマサキの後ろに乗ると、シャラメイは急上昇した。

「あーあ。イーグルが見られると思ったのに。」

マサキは残念そう。

… しっかり捕まっていてください

「う…わっ。」

シャラメイは金の翼をはためかせ、金色のからだをしなやかに躍動させて最高速度で王宮へと向かった。



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