21.戴冠式
デルタスに戻ったアキラたちは、すぐにウェスタ王に報告に行った。
「ギィーー…」
王の間の扉が開かれる。
するとそこには…
「マサキ様ぁ!!」
「げっ、ハールっっ」
「あー、もう…こんなにもお美しくなられて…」
「あーもー、うっせえ!!」
ハールだけではない。ディオソニー、デモクラートをはじめとする隊長たち。セバー=ロージスらキチ島の面々。シンジの父親や、その他議会の議員とガーネット、ペリドット両書記官。
「まずは帰還を祝おう、デルタスの戦士たちよ。よくやってくれた。私は、心から誇りに思う。」
ウェスタ王の威厳ある声が響いた。
「報告は、後日提出してくれ。今日はただ、戦士たちの無事を祝う事とする!」
それから数日して、アキラ・マサキ・シンジの3人はウェスタ王に呼び出された。
「まず、シンジ=ヴァンドル。ガーネット書記官がそなたをペリドットの後任の書記官に推薦した。」
「はあ?」
唐突な話に、ついていけないシンジ。
「一応ペリドットの任期はあと半年残っている。半年間国の事を学び、その後書記官としてやっていく意志はあるか?」
「えっ?えっ?」
シンジは慌てている。
ウェスタ王は笑みをたたえて、言った。
「すぐにとは言わない。だが、なるだけ早く返事をくれ。私も、そなたに期待するものの一人だ。」
「あ…はい。」
ウェスタはアキラに向き直った。
「アキリア。実は、私は、帝位を退こうと思っている。マサキの戴冠とともにな。……アキリア、国を背負う自信はあるか?」
「え…?」
アキラも慌てた。
まったくこのお方は、とんでもない事をさらっと言ってくれるものだ。
「それも、考えておけ。これはまだ議員もしらない極秘事項だ。」
ウェスタ王は、本当に、こともなげに言った。
「さて、ここからは普通の用件だ。アキリア、マサキ。」
「はい。」
「戴冠式は、いつにするのだ?もうすでに2ヶ月以上も延びているのだ。いったい、いつになったら…」
「あ、ウェスタ王。そのことなら…」
アキラはちらっとマサキを見た。
「後で報告します。」
「悪い、俺、親父に会ってくる。この後どうするか…結論が出次第、帰ってくる。」
実は今、シンジは王宮に寝泊まりしていた。
なぜか…ときかれると分からない。ミラジアリナから帰ってきて、そのまま居着いてしまったのだ。おそらくシンジ自身にも別に理由などないのだろう。
「ああ。じゃあ、また…」
「…。」
慌てて出ていったシンジを見送って、アキラとマサキはいつもの裏庭に出た。
GOLDEN EYESと導きの龍が出会った場所。冒険の、始まりの場所。
「戴冠式、どうするんだ?」
マサキが先に聞いた。
「実は、そのことなんだけど…」
アキラは、ミラジアリナから帰る船の中でずっと考えていた事を言った。
「あと一年…待ってくれないか?」
「え?」
マサキがきょとん、とした顔をした。
「何で?」
「あのさ、俺…」
アキラはちょっと切ってから、続けた。
「ミラジアリナで、いろんな人に会っただろう?クレイドや、エルギール、サイファ、それに…ギオンや、アトラン将軍。」
「…!」
ギオンの名がでたことで、マサキの表情が強張ったのが分かった。
でも、それに気付かない振りをして進める。
「国を変えるために生きて、他人のために命を捧げたギオン…自分の信念で、ゲルマンに向かっていったアトラン…それに、闇と戦い、自分をとり戻したクレイド…みんな、強かった。自らの意志で、真っ直ぐに進んでいたんだ。それに、マサキも、自分の過去を知るために危険を覚悟でミラジアリナに向かっていっただろう?」
マサキは、アキラの金の瞳から目が離せなかった。
強い意志を持って輝く瞳。
「だから、俺はもっと強くならなくちゃいけない。マサキを、王女に迎えるためにも…」
「アキラ…」
「ウェスタ王の申し出、俺は受けようと思う。一年後、マサキを迎えて王になれるよう、俺もがんばるから。」
アキラは、深く息を吸い込んだ。
「待っていてくれるか?マサキ。」
しばらく、時が過ぎた。アキラにとっては永遠とも感じられる時間だった。
ふと、マサキの碧と黒の瞳が、にっこりと笑った。
「わかった。」
そして、どこかで聞いたことのあるような声音で、アキラに語り掛けた。
「がんばれよ、アキラ…」
どこで聞いたんだろう?
確か、あれはビルラと戦う前…
「あっ…」
ああ、そうだ…
アキラは気付いた。
ウィオラの声にそっくりだ…
シンジは、王宮に住み込みで、勉強をはじめた。
アキラも、王になるべく奮闘している。
マサキは、一人で旅をはじめた。今まで会った人たちにもう一度会いに行くため――
シンジの船と、ミーアと、アイコット、ジャフティをひきつれて。もちろん、リングも乗り込んでいる。
誰にも知られず密かに出港した。
「マサキが王女…なんだかそんな気がしないわぁ。」
ミーアがのんびりと言う。
「そうかぁ?」
マサキは今やどうしようもないくらいのびきった黒髪を簡単に束ねながら返事をした。
「でも、数ヶ月前のマサキ様からは見る影もないくらいだよな、ジャフティ。」
「ああ。」
半年前には、ミラジアリナからの使いに腹を立てて、王宮の柱を蹴飛ばしていたのに。
いまでは誰もが認める絶世の美女である(もちろん、口をひらかなければ)。
絹のような黒髪。今では落ち着きを得た漆黒と碧の瞳。首の碧漆の石は、ウィオラにもらったものだと聞いた。左腕には漆黒の龍の刺青。
「ずいぶんとおとなしくなった事は確かね。」
ミーアはくすっと笑った。
… 本当の事だと思うぞ
「うっせえなあ。」
リングまで肯定したので、むすっとした口調で返すマサキ。右手の指には、火炎紅の石の指輪。
ジャフティは少しずつ、このヴェルナ王女ならアキリア王子にふさわしいのではないか、と思いはじめていた。
マサキのこの航海また波瀾万丈だったが、それを語るのはまた今度の機会にしよう…
半年ほどして、ミラジアリナから近況報告があった。
といってもマサキは航海の真っ最中。アキラだけがウェスタ王に呼び出された。
「ミラジアリナから書簡が届いている。内容は、近況の報告だ。読むといい。」
「はい、ありがとうございます。」
アキラはその場で書簡を開いた。
そこには、エルギールやリキュア、サイファ、ヒバリ、フェザンなど若い世代を中心とした国造りが始まっていること、王宮の修復はだいたいカタがついたこと、ツイン・ハレーがミラジアリナ居住を決めた事などが記されていた。
そして、最後にはデルタスと友好関係を結びたいため、近くクレイドがデルタスを訪れようとしていることが書かれていた。
「クレイドが、来るんだ…!」
「アキリア、ミラジアリナと国交が開けるのは、そなたのおかげだ。礼を言う。」
「え、いや、そんな、お礼なんて…むしろ…マサキに言って下さいよ。」
珍しく誉められて、照れるアキラ。
「もちろん、マサキの功績でもある。」
ウェスタ王は満足げに頷いた。
「そして、シンジ=ヴァンドル…彼の働きもすばらしかった。」
「そうですね。」
アークルもにっこりと笑った。
「お前たち3人が、この国の中心となっていくだろう。…楽しみだ。」
アキラの顔が輝いた。
ずっと、それが夢だったのだから…
「……完、と。」
シンジはたった今書きおわったばかりの原稿をとんとん、とそろえた。
「よかった、今日にまにあって。」
今日は、約束の日。
アキラが王子となり、マサキが皇后になる日。同時にシンジは書記官に就任する。
「シンジー!」
いつもと変わらない声。
シンジは原稿をそのままにして部屋を出た。
「アキラ。いいのかよ、こんな所にいて。」
「いや、マサキ見なかったか?いねーんだよ、どこにも…」
「はあ?!こんな時まで世話かける気かよ?!」
「まったくだ。」
そう。出会った時から、何も変わっていない。
「先に渡したいもんがあったのに…」
「?何?」
アキラは思わず聞いた。
シンジは、一降りの剣を取りだす。
「あ、これ…」
ミラジアリナで、マサキがシンジに渡した剣。アキラの命を救うために、シンジが振るった剣。
柄に巻きついたライラの紋章。
「ずっと渡しそびれてて…今日こそ返さねえと…」
「あ、いた!シンジさん、アキラさん、ちょっと来てください!」
ミーアがにこにこしながら駆けてきた。
「あ、そうだ、マサキ知らねえ?」
「こっちにいますよ!」
「…?」
不思議そうな顔をしながらも、2人はミーアについていった。
「すみません、私、マサキの飾付けをしていたんです。」
「ああ、そうだったのか。」
納得するアキラ。
「こちらです。」
ミーアは一つの部屋のドアを開けた。
2人が足を踏み入れる。
「あ、アキラ。シンジ。」
「……!!」
言葉もない。
今まで見たことのないようなマサキの姿があった。
碧い碧い宝石。まさにイメージはそう。
「どうしたんだよ、ふたりとも。俺、そんなに変か?」
「変じゃねえって。」
シンジは苦笑した。
誰が見ても文句は言えないだろう。美の女神、ヴェルナ。まさにその姿を写し取っていた。
「ちょっと驚いただけさ。」
ま、<だいぶ>驚いたけどな。
心の中でそう付け加えて、シンジはライラの剣を差出した。
「これ、ずっと返そうと思ってたんだけど…」
「…あ!」
マサキは細い腕で剣を受け取った。
「ライラの剣…」
「実は壊しちまって、返すのが嫌だったんだ。」
「…壊れたの?」
マサキは剣を抜いた。
焼けこげた跡。剣の切っ先が二つに割れていた。
「…。」
「<鉄砲>を避けようと思って…とっさに…」
マサキは目を丸くした。
「シンジ、お前…よく生きてたな。こんなもん、あたってたら即死だろう?」
「…かもな。」
マサキは剣をしまった。
そして、シンジの左手をとった。
「この傷…一年前の…」
「あ、ああ。でも、誓いは果たしたぜ。」
シンジの左手のこうに刻まれた十字架。マサキを必ず助け出そうと誓った心の証。
「ごめんね…いっつも迷惑かけてばっかりだ…」
「気にすんな、迷惑かけなかったら、お前じゃねーよ。」
シンジがからかうように言った。
「じゃ、俺は退散する。あとはアキラとゆっくりとしゃべりな。」
そう言ってシンジはミーアとともにそそくさとでていった。
しばらく沈黙が流れた。
「アキラ。」
マサキが先に声をかけた。
「何?」
「強くなったみたいだな。」
「え?」
「いろんな人から聞く。アキラの噂。…アキラは、この一年で本当に強くなったみたいだ。」
マサキはにこっと笑った。
「…だって、約束しただろう?つよくなるから待っててくれって…」
「ああ。」
「俺さ、昔クロークさんに言われたんだ。本当に大切な者なら、ちゃんと守って見せろって…だから、俺は強くなりたかった。」
マサキはにぃっと笑った。
「すごいよ、アキラ。お前、本当にすげえ。」
マサキに誉められるのが、何より嬉しかった。
「行こうか。そろそろ戴冠式が始まる。」
「ああ。」
アキラはマサキの手をとって歩きはじめた。
シンジは、心に決めていたことがあった。
アキラの事を、もう<アキラ>とは呼ばない事。マサキの事を、もう<マサキ>とは呼ばない事。
「アキリア、ヴェルナ。もう皆待ってんだから早くしろ。」
「シンジ…?」
アキラ…アキリアとマサキ…ヴェルナは友人がいつもと違う呼び方をしたのに、少しだけ眉を寄せた。が、すぐにシンジが扉を開けたので、2人は王の間に足を踏み入れる。
シンジもその後について入った。
アキリアの王位継承の儀式と、ヴェルナの戴冠式と、2人の婚礼の儀。
「わーーっ」
歓喜にわく人々。
クレイドやユイラン、アシュラたちもミラジアリナから祝福に駆けつけた。もちろん、アリアからもエデン王、エヴァ王女を筆頭にカイティ、ヒカル、イェリー、ソアカも。そして王国全土から、セバー=ロージス、ミーアの親父さんとカルミアさんなども来ている。
もちろん、隊長たちも来ているし、シンジの父たち議員、ガーネット、ペリドット両書記官、マサキの親であるメシア、クローク、そして両親とセバー=ロージスから承諾を得て、シンジの代わりに貿易相を継ごうとしているティラ。
「なあ、アキラ…」
「なんだ?マサキ。」
「俺、すげー嬉しい。こんなにたくさんの人に出会えて。」
マサキが今まで見たことのないような嬉しそうな笑顔を見せる。
「全部、アキラのおかげだ。」
マサキの微笑みが、アキラにむけられた。
「ありがとう。」
「…。」
アキラも笑いかえした。
幸せだった。
「なあ、マサキ。」
「なんだ?」
「俺も…お前の事<ヴェルナ>って呼んでいいか?」
マサキは一瞬はっとなった。
まるで、忘れていた何かを思い出したように。
「ああ。いいよ…」
その声の響きは、あの時と同じ。
長い冒険の後戻ってきたマサキが、<王女になる>決心をしたあの言葉と…
この後お披露目のあるアトリアの港は、今までにないくらい人であふれかえっていた。
「本当にアキラくんとマサキくんなんでしょうね?!」
「私の仕入れた情報にケチつける気?!」
「そういうわけじゃないけどお…」
コロウ島(ミーアのいた島)のおばちゃん軍団。かつてアキラ目当てにミーアとおやじさんの店に通ったつわものたちである。
と、その横にたたずむのはトラほどの大きさもある妖猫をつれた老人。
「久しぶりじゃのう。早く恩人に会いたいじゃろう?マーナ。」
「グルグル…」
老人に喉をなでてもらって満足げに喉を鳴らす妖猫。
そして、ふと目線を空に移すと…
「まったくあん時は死ぬかと思ったぜ。」
「本当にあなたたちシンジの知り合いなんでしょうね?!」
「あっ、当たり前だろうが!」
キャラをはさんで器用にも空中で話しているのは、あの交魂兄弟のトゥーギとトゥージ。
「なんか信用できないのよねえ。その顔。」
「あっ!ひでえ!」
もっぱら話しているのはトゥーギ(兄)とキャラで、トゥージ(弟)はじっと空虚を見ている。
すべては、3人の旅の軌跡。
冒険の証。
アキリア王とヴェルナ女王の乗る馬車が到着した。
「わああああ…!!」
わきあがる会場。
アキリア・ヴェルナ・シンジがそろって登場した。
歓声と拍手に包まれて、新しい国の中枢となる人物たちは明るい笑みを浮かべていた。
「あのキャラと一緒にいる奴等、コロウの時の交魂じゃねえ?」
「あっ!本当だ!」
「ウルクのおじーさんもいるよ!」
懐かしい思い出たち。
と、その気分をぶち壊すようなのんきな声が…
「あっきらくぅーーん!!」
「きゃー、本当だったのね!!」
「!!!」
アキラはその声の主を目にして、思わず逃げ出したくなった。
「おー、おー、アキリア。おめーのファンがきてるぞ!」
「…見なかった事にする…」
アキリアは頭を押さえた。
「すごいね。」
マサキはひとわたし会場を見まわしてため息をついた。
「こんなにたくさんのひとがいるなんて…!」
「ああ。そうだな…」
アキラも遠くを見つめた。
「がんばろうぜ。<アキリア>、<ヴェルナ>!!」
「おう!」
「もちろんさ!」
アキリアの金色の瞳、シンジの青い瞳。そしてマサキの碧と漆黒の瞳。それぞれが、強い意志を持って光り輝いた。
そして、歓喜の声がやむことは…ない。
アキリアは王に、ヴェルナは皇后に、シンジは書記官に。
今、デルタスは3人の若者を中心に回転しはじめる。
こうして、<アキラ>と<マサキ>の長い長い冒険は幕を下ろした。
だが、物語はこれで終わらない。
そう、世界が広く光輝で満たされている限り……
アキラという名を
マサキという名を
この書物に封印しよう
おそらく使われる事はないだろうから
なぜならこの名は
大いなる思い出のために
黄金に光り輝く思い出のために
創られたものだから
我がデルタスに幸あれ
太陽神と月神を名にもつ
王 皇后の名の下に
永遠に栄えんことを
願はんと
完
(『新GOLDEN MEMORY』 終章より)




