表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
続・EYES  作者: 早村友裕
20/21

20.結末

「ビルラ…突然出てきたりしないだろうな。」

「あと2時間は大丈夫だと思うが…」

アシュラは自信なさげにいった。

「大丈夫ですよ。ビルラっていってもジュニアなんだから。」

ギオンは相変わらずのにこにこ顔。

「…。」

でも、ギオンはあいつを知らないだろう?

シンジは危うくそう言いかけた。

そう。ビルラは、皆が思う以上に強く、残忍で、恐ろしい<闇龍>なのだ。

「あの…クレイド王。」

突然ユイランが口を開いた。

「何だね?」

クレイドは普通に受け止めた。

「こんな時に場違いなんですけど…私の父を知りませんか?この国の、どこかにいるはずなんです!」

「そなたの…父上?」

「はい。クローク王子の亡命に荷担した罪を問われ、ミラジアリナに拘束されました。」

「父上のお名前は?」

「イカル…イカル=ヤトゥーミアムと申します。」

その言葉で、サウィーがぱっと手を上げた。

「あーー、さうぃーのおとーさんもおんなじなまえだよお!」

「!!」

サウィーを抱いていたギオンも複雑な表情を浮かべた。

「ね、ね、おにぃーちゃん。そーだよねえ!!」

満面の笑みでギオンに笑いかけるサウィーに、ギオンは悲しげな微笑いをむけた。

「クレイド王。私からお話してもよろしいですか?」

「あ、ああ…」

クレイド王には何がなんだか分からない。もちろんそれは、アキラとマサキがシンジやギオンのことを紹介するのをすっかり忘れているせいでもあるが。

なぜマサキの付き人だったギオンと夢幻三夜星の一人ユイランとアキリア王子とマカルト家の宗主アシュラが一緒にいるのか。そしてなぜ突然やってきたのか。それにアキリア王子やマサキ王女と慣れなれしく口を利くこのデルタスの若者シンジは何者なのか。

「今サウィーが言ったとおり、イカル=ヤトゥーミアムはサウィーの父親です。そして…ユイランさんの父上でもあるでしょう。」

「…どういうこと?!」

ユイランが突っかかる。

「イカルさんは、僕の父…ダクト=リフェルが監獄から救い出してある村に逃がしたんです。それが、トラド村…。当時父は将軍の座にあり、クレイド王の父上でいらっしゃるゲルマン様にも進言できる権力ちからを持っていましたから。」

「ロード・リフェル…」

クレイドは記憶の片隅に残るその人の面影を必死に追い求めた。

「イカルさんはその後トラド村の女性と結婚し、子供が生まれました。それが、サウィーです。」

「えっ?じゃあ、サウィーって…」

「ユイランの…」

サウィーはよくわかんなーい、といった顔できょろきょろしている。

「妹…。」

ユイランがぽつんとつぶやいた。

「そして、結論を言います。サウィーの…ユイランさんのお父上はお亡くなりになりました。」

「!!」

「5年前のことです。ご病気になられて…それで…」

ユイランは目を伏せた。

「そう…そうなの…」

誰も、声をかけられなかった。余りに悲痛な声に。そして誰もが心中を分かりすぎるほど察したから。

マサキは、メシアが親だと知るまでを。シンジは、自分も母親を亡くしているから。ギオンも父はいない。クレイドは今や狂乱となった父を思って。そしてアキラも、<普通の>親子としては決して接することのなかった父、ウェスタ王と母、アークル皇后を思い出して…

「あ、ご、ごめんなさい。私ってば、今の状況も考えずに…何やってるのかしら……本当に…」

ユイランは強がって顔を上げた。

「無理すんな。」

意外にも声をかけたのはサイファだった。

「親が死んだことを聞かされて平気なわけないだろう。」

「だっ…て…今はまだ……・」

戦いの最中なのに…といおうとしたが、言葉が続かない。

「悲しい時には、時間も場所も関係ねえ…」

「…」

ぽろぽろ…

ユイランの瞳から涙があふれ、そのままユイランは床に崩れ落ちるように座り込んだ。

「ばかが…弱えやつが強がってんじゃねえ…」

その時、サウィーがギオンの腕を降りてユイランに近づいた。

「どーしたのお、おねーぇちゃん。どっかけがしていたいのお?だったらさうぃーがなおしてあげるよお!」

「…!」

小さな手。無垢な笑顔。その純真さがユイランを絶望のふちから立ち返らせた。

「さうぃー…ありがとう…」

「??」

ユイランはサウィーを強く抱きしめた。

「ありがとう……」

二回目の言葉は、その場にいる全員に向けられていた。

マサキは思わずサイファに目を移して、言った。

「お前…変な奴だな。」

「…。」

でも、サイファはすでにいつもの無口モードにもどってしまっている。

「いっつも何にもしゃべらねえくせにこんな時だけやさしいなんてよ…。よく考えたら、妖魚に襲われた時俺を助けてくれたのもサイファだしな。」

「ほっとけ」

照れたように言い返すサイファを、ギオンがにこにこしながら見ている。

サイファが闇から立ち直れるかもしれない。ギオンにはそんな予感がした。


「なあ、ギオン。これ、結んでくれよ。」

「あ、うん。いいよ。」

マサキは長い黒髪をもてあましている。

ギオンはそれを持っていた紐で結んだ。

「あーあー、さうぃーもやるう!!おねぇーちゃんとおんなじにしてえ!」

ばたばた足踏みしてせがむサウィー。

「しょうがないなあ。」

そういいつつもサウィーの髪をマサキと同じように後ろでひとつに束ねてやる。

「やった!やった!」

にこにこしながらぴょんぴょんはねるサウィー。

「あれ?」

シンジはさっきまで気付かなかったサウィーの腰にくくりつけられた小さな袋を発見した。サウィーだけではない。ギオンも、エルギールも…トラドシン出身の者のほとんどがつけているものだ。

幸い今はメシアを待つだけの暇な時間。シンジは聞いてみることにした。

「おい、ギオン。」

「なあに?」

「その袋、何がはいってるんだ?」

「え?」

ギオンの表情が強張った。

それだけでシンジは、聞いてはいけないことだったのだと悟った。

「あ、悪い。やっぱ別に言わなくていい。」

「…。」

アシュラは厳しい表情でギオンたちを見た。

アンチ妖力か…」

「?!」

エルギールとギオンの表情が豹変った。ただ、サイファだけは壁にもたれてゆっくりと目を閉じた。

「なぜそのようなものを使う?それは言わば…反則技だぞ?!」

ギオンは悲しそうに微笑んだ。

「僕らが強くなるためには…こうするしかなかったんです。」

もしこういう事態に陥らなかったら。もしまともに王宮をせめていたら。王宮に仕える33人の妖力者達との戦いは避けられなかったろう。

だから、強い妖力ちからが必要だった。

「なんだ?何の話なんだ?」

マサキはアキラに疑問をぶつけた。

が、アキラにもさっぱり分からない。

「この戦いが終わったら、すぐに<戻す>んだ!」

アシュラの厳しい声。

「もちろんです。サウィーたちをこれ以上巻き込む気は有りません。」

ギオンの厳しい表情。真剣そのものだった。

「ならいい。」

どういう事だろう。<反妖力>とは、何なのか?それがギオンたちの強さの秘密なのか?

「宗主。」

「ん?」

カンナがアシュラを呼んだ。

「メシアさんがいらっしゃいます。」

「わかった。」

「うっ…」

きっと一番に怒られるだろうことを見込んだマサキは思わずうめいた。

「でも、どうやら一人じゃないみたいなんです…」

「一人ではない?そうか、クロークか。」

「…と、マサキ王女のお兄様らしいです。」

「ぅぐっっ」

思わず息が詰まったマサキ。

「ははは、ティラとクロークさんも来るのか。」

シンジが意地悪そうな目つきでマサキを見る。

「…。」

3倍怒られるのは必至である。

マサキは逃げ出したいぐらいの気持ちで降りてくる銀の翼を待った。


「マサキ!!!」

メシアとクロークの怒号が重なる。

「ひぃぃ~~っっっ」

思わずマサキがアキラの後ろに隠れる。

「何してるの!勝手に行動しないって約束したでしょう?!」

「無茶はしないと言っただろう?!」

そろいもそろって同じよーなことで怒られても…

マサキの盾になっているアキラにいたっては、自分が非難されている気分である。

「と、父さん、母さん、やめないと…今、大変な時なんだし…」

ティラが慌てて止めに入る。

「そうだぞ、クローク。そんなことをしている暇があったら状況把握ぐらいして欲しいものだ。」

「ア、アシュラ?!」

「まあ、お前がそれだけ感情をあらわにするのも珍しいから、それはそれで面白いのだが…」

「なぜおまえがここにっっ」

普段なら絶対見られないようなクロークの慌てぶり。

メシアもきょとんとしてクローク・アシュラの両名を見た。

「協力を求められたから来たまでだ。…まさかお前に会うとは思わなかったがな。」

にやっと不敵な笑みを見せるアシュラ。

他のメンバーはさっきまでのマカルト家宗主のイメージと今のアシュラをどう結び付けてよいものか本気で悩みはじめた。

「何?父さんの知り合い?」

マサキがひょっこりアキラの背中から顔を出す。

「こいつ…アシュラ=マカルトは、私のいとこだっっ。」

「はあっ?!」

思わず素っ頓狂な声を上げるマサキ。

「あー、通りで似てるわけだ。」

納得するシンジ。

「話は後だっ。説明しろ、アシュラ!!」

クロークの叫び。


「私があの球を解除する。その瞬間に、発動させてくれ。」

アシュラはビルラを押し込めた球に向かった。

閉じ込めてから2時間弱。そろそろ破られてもおかしくない。

「よーし、やるぞっ。」

マサキはダークネス・シールドを押さえた。

ビルラが現れてからずっと<こいつ>が熱い。きっと闇の力に反応しているのだろう。

「大丈夫か?マサキ。」

アキラが心配して声をかける。

「大丈夫さ。父さんがサポートしてくれる。」

そう。アシュラは補助の役をクロークに譲った。

「死ぬなよ…マサキ!」

「わかってる。」

マサキは、にぃっと笑って返した。

アキラ・シンジ・マサキ・メシアの4人はそれぞれ漆黒の球を中心に4方に散る。

「妖力を集めはじめろ!」

アキラが、シンジが、メシアが巨大な妖力を集めはじめた。マサキも、慣れない闇の力を集めはじめる。それを、クロークがサポートする。

他のみんなは遠くに避難した。今この場にいるのは、6人だけ。

「く…」

マサキの顔が苦痛に歪んだ。

「がんばれ、マサキ。」

真後ろに立ったクロークの声が聞こえる。

アキラとシンジ、そしてメシアはまだ余裕だ。

「まずい…集めきるまで持たないかもしれない…」

アシュラが顔を歪めた。

アキラは闇の気配が広がっていくのを感じた。急がなくては…

「パリ…パリ…」

中心の球を黒い閃光が取り巻きはじめた。

「破られる!」

「ちっ」

まだ4人ともハイクラスの妖力を集めおわっていない。

「いったん食い止める!お前たちはそのまま準備を…」

アシュラの言葉が言いおわるか言いおわらないかのうちだった。

「カッッ!!」

一筋の黒い閃光。

「バリバリバリバリ……!!!」

『おかしなまねをしてくれる!』

漆黒の鱗。闇に沈んだ黒い瞳が今は怒りを帯びている。闇龍そのものの姿をしたジュニア・ビルラが漆黒の球を突き破った。

『きさまか にんげんごときが こざかしいまねを』

どうやらアシュラに閉じ込められたことが相当悔しかったらしい。

他の者には目もくれず、アシュラだけを見据えた。

「マサキ、一人で大丈夫か?」

「なんとでも…する!」

「がんばれよ…マサキ!」

クロークはアシュラのもとへ応援に向かった。

「クローク!」

「助太刀するよ。」

「余計なお世話だ…といいたい所だが、ありがたい。ひとりではおそらくこらえきれまい。」

「そういうことだ。」


「く…そ…」

アキラは限界近くまで妖力を集めた。

苦しい。気を抜くと、集めた妖力で身体が吹っ飛びそうだ。シンジとメシアも大体いいようだ。後は…

「ガクン」

マサキがかた膝をついた。やはり慣れない闇のちからを集めたのが悪かったのだろう。

アキラは駆け寄りたい衝動をかろうじて押え込んだ。

お互いこんなに妖力を集めた状態で近寄れば、どちらかが吹き飛んでしまうことは目にみえている。

「もうちょっとなのに…」

マサキはギリッと唇をかんだ。

と、その時右手薬指の火炎紅の指輪が目にとまった。

「エヴァ…」

絶対に、返しにここに戻ってきなさいよ!!

そうだ。負けるわけにはいかない。俺にはまだ<約束>が残っている。

「マ…サキ…」

アキラのか細い声に後押しされるように、マサキは立ち上がる。

これから、アキラとずっと一緒に暮すんだろう?

マサキは自分自身に言い聞かせる。

「がんばれ…マサキ…」

アキラは必死で声援を送った。

「俺は…負けねえ…!」

マサキは、立ち上がった。


地獄インフェルノ!!!」

クロークの鋭い声。

同時に左腕から無数の闇が飛ぶ。だが…

『こざかしい!』

ビルラの息、一吹きでかき消された。

『ん?』

ビルラは同時に、周囲の4人に気付いた。

そして、大きな力の訪れと、人間たちの目的も。

『びっぐばん…!』

気付かれた!

クロークとアシュラは示し合わせたようにビルラの左右にまわった。幼い頃、共に学んだ者だからこそなせる技だった。

「「闇槍覇嵐スピア!!!」」

2人の両手から放たれた妖力が一本の槍となり、ビルラの翼を射抜いた。

『ぐあああ…!』

マサキの妖力が他の3人と同程度に集まった。

「いまだ!」

「放て!」

4方向から、迫り来る妖力の洪水。

光、闇、水、炎…

もちろん、ビルラの近くにいるアシュラとクロークも無事で済むはずがないが、4人にそんな事を判断する余裕はなかった。

「お前…死ぬ気か?」

「…お前もだろう?」

アシュラとクロークが最後に交わした言葉。そしてお互いの嘲笑。

力が、中心で交錯クロスした。

守人ガーディアン!」

遠くで、ギオンの叫びが聞こえた…気がした。

大宇宙創生ビッグバン!!」


アキラとシンジは眼をしっかりと開いていた。

この間見られなかった瞬間を見るために。真実を、心に焼き付けておくために。


そして、見た。

闇黒龍が、光の渦の中心で、少しずつ、少しずつ消えていくのを。

闇の力が、空中に発散し、散っていく姿を…



光と、土埃と、力の派生が消えて辺りを見回すと、そこにいたのは…7人だった。

「マサキ!メシアさん!」

「アシュラさん!クロークさん!」

そして…

「ギオン!!」

アキラとシンジが立ち、5人は倒れていた。

2人は順々に確かめた。

「マサキ!マサキ!」

アキラは必死でマサキを揺さぶった。

息があるのは分かったが、目を覚まさないのは不安でしょうがなかった。

「ん…」

そのかいあってか、マサキはすぐに眼を開けた。

「アキラ…」

額を押さえるように起き上がる。

「ビルラは…?」

「消えた。消滅したんだ。」

マサキの顔に笑みが広がる。

「よかった…」

マサキはアキラに手を取られ、立ち上がった。

「メシアさんもクロークさんも気絶してるだけだ。」

「よかった。」

シンジがアシュラを見に行っている間に、アキラとマサキはギオンの元へ向かった。

「何でギオンが…?」

「わからない。」

マサキはしゃがんで、うつぶせに倒れたギオンの肩を軽く叩いた。

「ギオン、ギオン!」

返事はない。

マサキは起こそうと肩に手をかけた。

「…?」

なぜかひんやりとした感触があった。

「どうした、マサキ?」

いつも腰につけていた袋の中身がなくなっている。

マサキの心臓がドキンと跳ね上がった。嫌な予感がする。

「ギオン…?」

ごろん、と仰向けにして、耳を胸にくっつけた。

アシュラの無事を確かめたシンジもやってきた。

「う…そだろ?」

「え?」

マサキの顔がさっと青ざめた。

シンジがギオンの顔に手をかざす。

「息…ない?!」

「えっっ?!」

「ギオン?!ちょっと待てよ、ギオン!?」

マサキはギオンの胸ぐらを掴んだ。

「目え覚ませよ!おい!何やってんだよ!何でここにいるんだよ!おい!ギオン!」

アキラも愕然となった。

シンジも呆然としている。

「ギオンーーー!!!」

マサキの絶叫が響き渡った。

アキラとシンジが、その様子を見守っていた。


アシュラとクロークが目を覚ます。

「…生きていたか…」

「お互い様だ。」

「だが、なぜ生きている?」

「わからない。」

と、アキラたちが集まっているのに気付いた。

「いったい、何が…」

「「!!」」

2人は、気付いた。

目を閉じて開かないギオンと、それに取り縋るマサキ、そして暗い顔をしているアキラとシンジ…そして何より、空っぽになった袋。

2人は同時にすべてを悟った。

「ギオン=リフェル…」

もうすでにこときれた戦士の名を呼び、自分たちの命を救ってくれたことを感謝した。

「ありがとう…」


エルギールとサイファが駆けつけたのは、それからすぐのことだった。

「リーダーは?!」

「それが…」

エルギールたちも、冷たくなった自分たちの長と対面した。

「遅かったか…」

エルギールががっくりと膝を突いた。

「諦めるな!まだ、サウィーがいる!」

サイファが叫んだ。

「あ!そうか!」

エルギールがはっとした顔になった。

マサキが涙に濡れた顔を上げる。

「サウィー…?」

「サウィーは死者蘇生リバイブが使えるんです。もしかしたら…」

少しだけ、希望の光が差し込んだ。…が、

「無理だ。」

アシュラの声が響いた。

「ギオン=リフェルは、私たちを助けるために、命の炎を費やしたのだ。もう今は相殺されて…消滅してしまっただろう…」

「こいつ…使ったのか?!反妖力を?!」

サイファが苦々しげにつぶやいた。

「…すみません、アンチ妖力って、何なんですか?」

シンジがおずおずと口を開いた。

「反妖力はおのれの魂…妖魔を作るのが<妖力>ならば人間の魂を形成するのは<反妖力>。二つは相反するもので、ぶつけ合えば相殺します。ただし、反妖力はおのれのうちから発する力、当然限りがあります。」

「つまり、ギオンは自分の魂でもってビッグバンを相殺したのか…」

アキラは胸が痛んだ。

「死者蘇生は、魂が分散しているときのみ使える力。消えてしまった今はもう…」

アシュラはその後を続けなかった。

マサキの瞳から、もう一度涙が滑り落ちた。

「ギオン…!ギオン…!」

「どこまでいっても…<黒い牙>ロード・リフェルの息子だよ…」

「ロード・リフェルの?!」

アシュラの言葉に、クロークは驚いた声を発した。

「そうか…」

クロークは目を閉じ、祈りを捧げた。



こうして、ミラジアリナの革命は、多くの犠牲の後、政府の全面降伏と言う形で幕を閉じた。



一週間ほどして、シャロンがマサキの所へやってきた。

「シャロン!」

「ヘキル!」

隣のクレイドと話していたことも忘れ、駆け寄るマサキ。

「大丈夫?ヘキル。」

「え?何で?」

「ギオンさんが亡くなったって聞いたから・・・沈んでるんじゃないかと思ったのよ。」

「・・・。」

マサキの表情が悲しげに微笑んだ。

「大丈夫。俺は。」

唇をぎゅっと結んで、にっとわらってみせる。

「よかったわ。」

ふわふわカールした茶髪を風に揺らす。

「あ、クレイド。この人は、シャロン=イミュイ。」

「分かっている。一度、お会いしている。」

クレイドがやんわりと言った。

「あら、<闇の支配>が解けてからは、初めてではないですか?」

くすっとわらって返すシャロン。

「・・・意地悪なお人だ。」

クレイドも笑いかえした。

「俺、もう行くよ。じゃあな、クレイド。シャロン。」

「あ、すみません、お話の最中だったのでしょう?」

「いや、いい。もう言う事は言った。」

マサキはシャロンとクレイドの間からするりと抜け出した。

「俺、明日みんなと一緒にデルタスに帰るよ。・・・待ってる人が、たくさんいるからな!」

「そうか・・・寂しくなる。」

「代わりに、いろんな奴がいるだろう?」

マサキはにっと笑う。

クレイドは悲しみをかくして微笑んだ。

「マサキ・・・」

クレイドは、マサキを抱き寄せた。

「ク、クレイド・・・?!」

「ありがとう、マサキ。そなたのおかげだ。これでミラジアリナも変わることができる・・・。」

「がんばれよ、クレイド。応援してるからな。」

クレイドはそっとマサキを離した。

「さようなら、マサキ。おそらく次に会うときは・・・ヴェルナになっているだろうから。」

「・・・だといいけどな。」

マサキは苦笑すると、駆け出した。

おそらく、出発前にクレイドに会うことはないだろう。

「元気でな!」


「・・・と、いったところですな。」

「ありがとうございます、参考になりました。」

すでに国の中心として動かなくてはならないエルギールとサイファは、参考までにとテミストクレスからデルタスの国政のしくみを聞いていた。

「いや、私などよりガーネット書記官のようなお方のほうがずっとうまく説明してくださるのですが・・・」

「いえ、十分すぎるくらいですよ。」

エルギールは立ち上がった。

「サイファ、有力な人材をリストアップして報告してくれないか?」

「・・・。」

返事もせずに、部屋を出ていくサイファ。

「ふう・・・」

エルギールは小さくため息をついた。

「こんな時・・・アトラン将軍やリーダーがいらしてくれたら・・・と思いますよ。」

「アトラン将軍・・・惜しい方をなくしました。」

アトラン将軍は、おそらくビルラをかくまっていたであろう部屋の中から、すでにこときれているのが見つかった。クフトもだ。おそらく、ゲルマンによってビルラの餌食となったのだろうと思われる。

そして当のゲルマンは、キャトー=ミリオンとともにすべての権利を剥奪された上で、もとトラドシンがあったカルタリカ湖中心の島に流された。

「困ったらいつでも相談に乗りますよ。」

「はい、ありがとうございます。」

確実に、ミラジアリナは新しい一歩を踏み出そうとしていた。


「そして、GOLDEN EYESは次の島へ向かった・・・と。」

シンジはそこまで書いてペンを休めた。

やっとコロウ島(ミーアたちと出会った島)を出発した。まだまだ先は長い。それに、今回のことも記そうと思っているし・・・

「シンジ?」

「ああ、アキラか。」

「何やってるんだ?」

「いや、書き物さ。」

「何の?」

アキラはたった今までシンジが書いていた紙を取り上げた。

「・・・!これって・・・!」

「書けたら最初に読んでくれるか?」

「もちろん!」

アキラは楽しみがまた一つ増えた。



そして、一行がミラジアリナを去る日。

特に見送りはいらない、といったので、一般の人たち以外は来ていない。

「アキリア王子~ぃ。またきてくださいよー!」

フェザンが軽い調子でいった。

どうやら彼もギオンの死を乗り越えたようだ。

「マサキ・・・いや、ヴェルナ王女の戴冠式までには帰る。日取りが決まったら教えてくれ。」

「わかってますよ。」


クロークはいったんミラジアリナ王宮に残る。ごちゃごちゃと込み入った事情があるようだ。

「イカル=ヤトゥーミアムの墓も参ってこなくてはならないしな。」

そう言って苦笑したクロークだったが、その表情には悲しみがあふれていた。ユイランにもすまないという気持ちは尽きないだろう。


「それでは、行きましょう。」

テミストクレスにせかされ、一行は馬を進めた。

マサキはもちろん、リングに乗っている。

・・・ あいつ・・・死んだんだってな

「・・・うん。」

・・・ いいやつだったな

「・・・うん。」

マサキはリングにそう答えると、真っ白なたてがみに顔を埋めた。

アキラはその様子を見ながら、ビルラを倒してからのまさに怒涛の一週間を振り返っていた。



「おおおーー…!」

ギオンの遺体を前に静まり返っていたアキラたちのもとに、人々の、怒号のようなうなり声が届いた。

「あっ!しまった!革命軍!」

シンジがはっとする。

「早く止めないと、前面衝突に…!」

エルギールが慌ててケプラーを飛ばそうとした。

と、そこへ、凛とした良く通る声が響いた。

「その必要はない。」

「クレイド王!」

クレイドがアキラたちの前に姿を現した。

「国王軍は全面降伏する。…私も、眼を覚まさせてもらった。」

若干16歳の若き王、クレイドはエルギールに向かっていった。

「わたしを国王軍の所まで連れていってくれぬか?」

「あ、はいっ。」

エルギールはサイファとクレイドを乗せて飛び立った。

「私たちも行こう。・・・みんなが、待っている。」

アシュラが言った。

サイファは黙ってギオンの遺体を抱え上げた。


「みんな!!」

建物の外で待っていたユイランが真っ先に叫んだ。

「勝ったの?」

「・・・ああ。」

「・・・?どうしたの・・・?」

勝ったにもかかわらずどん底のみんなの表情を見て、ユイランは声を潜めた。

「おにー、ちゃん?」

サウィーが、サイファの腕の中のギオンに気付いた。

「え?」

ユイランの顔から表情が消えた。

「まさか・・・」

サイファは何も答えなかった。

呆然となるユイラン。

「おにーちゃん?」

サウィーがもう一度、呼んだ。

サイファは、柔らかい草の上を選んでゆっくりとギオンを横たえた。

「・・・」

見ていたアキラは居たたまれない気持ちになった。

さっきまでと、何も違わないのに・・・

「私のせいだわ…」

カンナが震える声を絞り出すように言った。

顔が真っ青で、がたがた震えている。

「私が…アシュラ様が死ぬのを<見た>から…」

私は思わず叫んでしまった。アシュラ様が危ない、と。

すると、あの人は優しく笑って駆け出していってしまったのだ。仲間たちの制止も聞かずに。

「どうしよう…私…この人は…私のせいで死んだんだわ…」

カンナは顔を覆った。

「あの後、この人が死んでしまうのはすぐに見えたのに…なんで…止められなかったのかしら…」

「カンナ…。」

アシュラがゆっくりと歩み出てカンナの黒髪にそっと手を置いた。

「ありがとう、カンナ。私は、お前のおかげで助かった。…ギオン=リフェルは自身の意志で私を助けてくれたのだ。お前が悪いわけがない。誰も、悪くはない。少なくとも私とクロークはお前のおかげで救われているのだから…」

「でも…私の能力が人の不幸に繋がるのだとしたら、私、こんな能力はいらな…」

「カンナ。」

アシュラはさとすように言った。

「お前は、マカルト家の娘だ。そのことを誇りに思いなさい。能力がある事を、厭ってはいけない。その能力でこれから先幾人の命が救えるか知れないのだから…」

カンナは手を下ろした。

アシュラは微笑んだ。

「さあ、ギオンにさよならを言いなさい。そして、もっと強くなりなさい。多くの人を救うためにも…」

カンナは顔を上げた。いつもの毅然とした風格が戻ってきた。

「さようなら、ギオンさん。私、あなたの事忘れないわ。そして、もっと強くなって見せるから…」

クロークはそっとアシュラにつぶやいた。

「あの娘、もしや時期の…」

「そう。マカルト家を継ぐ者は、強くあらねばならない。カンナには、たくさんの試練があるだろうが、きっと乗り越えられるだろう…」

そこへ、32人の妖力者たちがやってきた。もう抜け殻のようになったゲルマンを連れて。

「アトラン将軍をご存じないでしょうか。」

黒いローブの、年老いた妖力者が聞いた。

「いや、知らねえけど・・・」

シンジが答えた。

「では、クレイド王は?」

「国王軍を止めに行った。政府は全面降伏するらしい。」

「・・・そうですか。」

妖力者たちは安堵のため息を漏らした。

「これで・・・何もかもが終わりですね。」

「一つだけ聞かせてくれ・・・」

ゲルマンがかぼそい声を出した。

「なんだよ。」

マサキが反抗的な態度でのぞむ。

「ドルイは・・・死んだのか?」

「ああ。俺たちの手で、葬ってやったよ。」

「そうか・・・」

がっくりと肩を落としたゲルマン。そこに、王の威厳はなかった。

「ゲルマン=ミラジアリナ・・・」

「え?」

鋭い殺気を感じて、アキラは思わず振り返った。

「サイファ・・・?」

集中する闇の力。

いつものサイファの瞳ではない。完全に生気が失われている。

「お前だけは・・・死ね!」

「?!」

サイファの手から黒い閃光が放たれた。

まっすぐにゲルマンに向かっていく。

「Ψαδδηζ!!」

間一髪、妖力者の一人がそれを跳ね返した。

が、サイファはひるむ様子もない。

「貴様のせいでどれだけの人が犠牲になったと思ってやがる・・・!」

はじめてみるサイファの怒りに満ちた表情。

アキラも、マサキも、シンジもうごけなかった。

「どれだけ好き勝手したらすむんだ!」

二回目のレーザーが放たれる前に、ユイランが間に割って入った。

「あなた何やってるの?!人を殺すつもり?!」

「どけ!邪魔だ!殺されたいのか!」

ユイランの瞳がつりあがった。

「パーン!」

「!!」

ユイランの手のひらが、サイファの頬を叩いた。

「バカ!何があったか知らないけど、誰にも人を殺す権利なんてないわよ!ギオンさんも、私の父だって・・・人が死んだら誰か悲しむ人がいるの!あなただって言ってたじゃない!」

ユイランは一気に捲し立てた。

サイファは、呆然となっている。

「分かってるの?!」

「・・・」

サイファの心の闇。

両親を殺されてから、ゲルマンに対して異常なまでの憎悪を抱くようになった。普段無口なのは、その情熱を心の奥深くにしまい込んでしまっていたから。

「しっかりしなさいよ!あなたを必要としている人は、大勢いるんだから!」

アキラは、こんな状況なのに思わず微笑んでしまった。

ユイランの瞳に、強い意志の力を見たから。

「・・・わるかった」

サイファはユイランにだけ聞こえるような小さな声で謝ると、ゲルマンに背を向けて駆け出してしまった。

すると、ユイランはくるっとゲルマンを振り返った。

「ちょっとあなた!前の王様だかなんだか知らないけど!あいつ(サイファ)にだって怒る理由、あるんだろうから・・・反省ぐらいしなさいよ?!」

「・・・。」

ゲルマンは、何も言わなかった。

ただ、自分のこれまでの行いを振り返るように、静かに目を閉じただけだった。


革命軍のうち、幹部組(ヒバリやアゲハ、テミストクレスなど)が王宮へたどり着き、ギオンの死を知らされた。

「え・・・?」

「嘘でしょう・・・?」

全員、動きが停止した。それほど、ギオンの死はショックなことだった。

キャラも、神妙な面持ちでギオンを見つめていた。

「ギオンさん・・・」

テミストクレスは、すっとかぶとを外し、剣を置いて胸に手を当てた。

「ご冥福を・・・お祈りいたします。」


その後程なく、エルギールを代表とする革命軍とクレイドを代表とする政府軍とで今後のことが話し合われた。

王族はそのまま王として残留。それとは別に、国民代表が政治を担当する、というものになった。また、マリオネット刑となっている者は直ちに開放。ゲルマンやキャトーなど政府側の数名を処罰。国王軍は即刻解散ということなども決議された。

その結果は、その日のうちにミラジアリナ全土に伝えられ、国民は歓喜にわいた。

これまでは、クレイドが王を名乗ってはいたものの、実質ミラジアリナはゲルマンの支配下にあった。自分の子を操ってまで国の支配欲におぼれたゲルマン…彼は、ダークポイントに送られ――実質、島流しのようなものであるが――生涯そこから出られない事となった。

その日は、闇の帝国から開放された記念すべき時であった。

と同時にギオンの死は全土に伝えられ、国民は革命軍総司令官<ギオン=リフェル>の死に、涙を惜しまなかったという。


「アトラン将軍が発見されました!」

「何?!」

クレイドのもとに、一人の衛兵が駆け込んできた。

駆けつけると、すでにアキラやマサキは来ていた。

「ビルラに・・・やられたんだな。」

「・・・。」

アトランは、王宮の一番奥の部屋で、クフトと共に永久の眠りについていた。

その顔に、苦しみはない。

「ゲルマンの奴か・・・。」

マサキはギリッと唇をかみ締めた。

「ギオンと一緒に埋葬しよう。彼も・・・この戦いの戦死者だ。」

クレイドは静かに言った。


それから5日間は、ずっとマリオネットをとくことに従事していた。もちろん、すでにハイクラスとなっていたシンジも駆り出されたからだ。

そして5日目の夜、やっとゆっくりとアシュラと話す機会ができた。

どうしても、<反妖力>のことを、あの村のことを聞いておきたかった。

「すみません、呼び出してしまって。」

「いや、かまわないさ。…それで、デルタスの若者が、ミラジアリナの妖力者に何か御用でしょうか?」

「あの、実は<反妖力>のことが知りたくて…」

シンジは、隠すこともなく単刀直入に言った。

「知っておきたいんです。ギオンたちがどうしてあんなに強かったのか。そして、ギオンの最期に何が起きたのか…」

シンジの碧い瞳に、強い意志が宿った。

アシュラは、小さく息をはいた。

「これから話すことは…他言無用だ。<反妖力>とは、本来、人間がどうこうしていい能力ちからではないのだから。」

「わかりました。」

シンジはこっくりと頷いた。

アンチ妖力とは、あの場でも言ったように、人間の魂そのもののことだ。この力は光とも、闇とも、水とも、炎とも違う特性を持っている。…妖力とぶつかる事で、互いを相殺するのだ。」

「だから、<反妖力>なんですね?」

「ああ。その上、この力だけは周囲から集めるという事は不可能だ。それはすなわち、他人の魂を吸い取る事になるからな。」

「?普通に存在しないんですか?」

「しないわけではないが、ほとんどない。…だが、唯一操れる反妖力がある。それが、自分の魂だ。」

「どうやって操るんですか?」

「私にも分からない。だが、ギオン=リフェルはその方法を知っていたのだろう。トラドシンの村人たちが持つ袋には、<偽魂石>が入っていた。」

「ギコンセキ?」

聞いた事のない名前に、シンジは思わず聞き返した。

「偽魂石とは、反妖力を固めて創った、妖石…というのだろうか。とにかく、あの村の者たちは、<自分の魂を腰に下げて>歩いていたのだ。」

「??!!」

シンジは耳を疑った。

あの袋の中身。あれは、個々の魂だったのか?!

「魂を抜けば、その分プレオリーの空きは広がる。そして…強くなれる。」

「え、ちょ、ちょっと待って下さい。つよくなるのは分かったんですけど、そんな事をして、死なないんですか?!魂を抜いたら、死ぬんじゃないんですか?!」

「…そこがギオン=リフェルのすごい所だ。身体に、ほんの少しだけ魂を残すんだ。そうすれば、身体は死なない。ただし、本体である偽魂石が壊れれば、身体に保っていられないほど微量だが。」

「……!!」

シンジは呆気に取られた。

「そして、ギオン=リフェルの最期……おそらく、私とクロークに偽魂石を半分ずつ投げたのだろう。そして、偽魂石は私たちを守って消滅し、体に残っていた魂も、発散した。そして……」

アシュラはそこでいったん切った。

シンジはじっと口をつぐんでいた。

「私は…そろそろ戻る。お前も早めに休むといい。」

「あ、ありがとうございました。」

シンジは慌てて頭を下げ、アシュラの後ろ姿を見送った。

「ははは…あいつにゃ…勝てねえな…」

もちろん、あいつ。国のために命をかけ、他人のために命を落とした大馬鹿野郎。<革命>というシンジの意図を一瞬で見抜いた、才能あふれる若者。本当ならこれから、国の中心になっていくはずだったのに…

「ギオン……!!」

シンジはギオンが死んでから初めて涙を流した。


6日目は、ギオンやアトラン将軍をはじめとするこの戦いでの戦死者の追悼式が行われた。



そして今日。アキラたちはユロマ方面でデルタスへと帰ることになっている。一日目は途中の街で宿が手配してあった。

「何日でデルタスに着くかな?」

マサキは髪をメシアに梳いてもらいながら尋ねた。

「そうねえ。一週間もあればつけるんじゃない?」

メシアものんびりと答える。

実の母娘おやこだと知ってから初めてだった。こんなのんびりとした時を過ごすのは。

「本当に奇麗な黒髪ね…うらやましいぐらいだわ。」

「でも俺はアキラとかシンジとかの髪の色の方が好きだなあ。」

「金髪?私の血を濃く受け継げばよかったのに。」

「ティラはいいよなあ。俺も母さんみたいな髪がよかった。」

「あら、これだってあなたが父さん(クローク)の血を受け継いでいる証拠よ。大切になさい。」

「もちろん、嫌いじゃないさ。」

「母さん。」

「どうしたの?ティラ。」

「テミストクレスさんが呼んでるよ。」

「分かったわ。すぐ行く。…ティラ、あとお願いね。」

メシアはティラにブラシを渡すと、テミストクレスたちの部屋へ向かった。

ティラは今までメシアが腰掛けていた椅子に座ってマサキの髪を梳かしはじめた。

「ねえティラ…これで…よかったのかな?」

「何が?」

「ミラジアリナの事…俺は、これでよかったのか?勝手に国を引っ掻き回して、革命も起って、たくさんの犠牲者もだして…」

もしかして、余計な事をしたんじゃないのか?

「俺はこの国に来ない方が…よかったんじゃ…ないか…て……」

マサキの声が消え入りそうになっていく。

「大丈夫だよ。」

ティラの優しい声。

「これでよかったんだよ。マサキは、すごくがんばってた。十分だよ、それで。」

ティラは後ろからマサキを抱きしめた。

「お疲れ様、マサキ。よくがんばったね…」

「ティラ…」

マサキは泣いた。ティラはマサキを優しく包み込んでいた。

マサキは思った。

やっと、自分の居場所が見付かった気がする、と。


そして、その晩。

アキラ・マサキ・シンジは夢を見た。


「あ、アキラ。」

「あれ?マサキ?」

「おーい。」

「シンジもいる。」

どこか見覚えのある場所。

ああ、そうだ。初めてシャラメイと会った、ウルクの森の中だ。3人は、なぜかそこにいた。

「アキラ、マサキ、シンジ。」

「あ、ライラ…ウィオラも…」

碧い翼。金に光り輝く翼。

驚いていいはずなのに、まったく驚かなかった。というのは、なぜかこれが夢の中だと分かったからだ。

「ありがとう。どうやらビルラは消滅したようだ…」

「よくやったな。」

碧と金の人は微笑んだ。

「俺たちは、もうすぐ<眠り>に入る。」

「もうすぐって?どのくらい?」

マサキが聞いた。

「もうあと2・3日ってとこだ。」

「そう…」

マサキは悲しそうな顔をした。

「もう会えないのか?」

シンジが聞く。

「…普通ならな。」

「?」

ウィオラが意味ありげに笑う。

「俺は、おまえたちが気に入っているんだ。だから、目覚めた後、また会いたい。そこで、だ。」

ウィオラはぐるっと3人を見渡した。

「おまえたちが死んだ時、魂が勝手にこの空間に来るようセットしておきたいんだ。ここなら、魂のままで生きられる…。」

「!!」

アキラの、マサキの、シンジの顔が輝いた。

「いいか?そうしておいても…」

「もちろん!!」

3人は、1も2もなくそう答えた。

ライラとウィオラが、本当に嬉しそうに、微笑んだ。

「ありがとう。」

「ありがとな。」

やっぱり、夢だったらしい。どんどん視界が薄れていく。

「またね、ウィオラ、ライラ…」

「じゃあな…」

「ああ…」

いろいろと別れの言葉が飛び交う中、3人の意識は、また身体の方へと戻っていった。


「アキラっ、シンジっっ」

マサキが寝室に飛び込んできた。

「見たか?!夢!!!ウィオラとライラが…!!」

「ああ、見た。」

「やっぱり…本当なのかも…」

アキラはぼーっとする頭でもう一度思い返してみた。

やっぱり、本当だ!

「やったあ!!ずっとウィオラたちといられるんだ!」

「でも、寝てるけどな。」

さらっと言うシンジ。

アキラは、心の中でライラにメッセージを送った。

今まで、ありがとう。これからは、自分の力で生きてみるよ……



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ