2.両親
それから3日後。
「キチ島だ!」
「久しぶりだなあ。」
マサキは大きな目をいっぱいに開いて緑に覆われた島を見つめた。
「あ!長だ!」
海岸に、いくつか人影がある。
そのうちのひとつは紛れもなく長だった。他にも部落の人間がちらほらと見える。
「あれ・・・?」
「もしかして、あれ、メシアとティラじゃないか?」
「俺もそう思う。」
アキラは目を凝らした。どう見てもメシアとティラだ。あれいらい音信不通だと思ってたらこんな所にいたのか。
「メーシーアーっ!ティラーっ!」
「マサキさーん!」
ティラはマサキに向かって思い切り手を振った。
ティラにしたら、10ヶ月ぶりのご対面だ。
「ティラ!久しぶり!」
「マサキさん、大丈夫ですか?お怪我の方は・・・。」
「大丈夫だよ。ティラも元気だった?」
「はい、おかげさまで。」
ティラが初めて出会った時と変わらない、屈託のない笑みを見せた。
「どこに雲隠れしたのかと思っていたら、こんな所にいたのか。」
「はい。私も一応この部落の長を継がなくてはいけませんからね。いまはまだ、妖力者としては半人前なので、一人前になれるよう修行中です。」
「がんばれよ、ティラ。」
「王子にそう言っていただけると幸いです。」
アキラは長に視線を移した。
相変わらずなにを考えているのか分からない表情でじっとマサキの顔を見ている。
「長。お久しぶりです。」
「アキリア王子。ご立派になられまして・・・。」
「まだあれから半年とちょっとしか経っていませんよ。」
「いや、あれからずいぶんと成長されたご様子なので。」
「あまりにもいろいろなことがあったからな。」
アキラは苦笑した。
「アキリア王子へ、心からの祝福を・・・。」
セバー=ロージスは両手を天に掲げた。
「!」
空から光の粒子がアキラに降り注いだ。
「すっげえ・・・!!」
マサキは言葉を失っている。
「さあ、私たちの部落へあんないいたします。」
光輝の欠片はきらきらと輝きながら、部落への道を示した。
部落は、どこも変わりない。
いや、ひとつだけ変わったことがある。
「クロークさん!」
「王子。ご無事で。」
クロークが部落に帰ってきた。
「戻ってこられたんですね。」
「ああ。少し思う所があってな。」
クロークは微笑んだ。
ここは、長の家・・・ティラの、メシアの家。クロークと、長、それにマサキとアキラがいる。ハールは入ることを拒否された。
「マサキ・・・ではない。もう・・・ヴェルナ王女か。」
「まだマサキだ。まだ戴冠式してないしな。」
「ダークネス・シールドはどうなった?」
「!」
ドッキーン
さすが、するどい・・・。
「実は・・・。」
マサキは長めの袖をまくり上げた。
「?!」
「ライラがあの時のままばっちり治してくれたもんだから・・・きっと消すの忘れたんだ。」
マサキは苦笑い。
闇の色濃く残るダークネスシールドは、いまだマサキの左腕にあった。
「ま、今の所害はないからいいけど。ビルラも消滅したし。」
「確かに、闇の力を集めたとしてもマサキには身体に保っておくほどの力はない。すぐに分散する。」
「なら、いいか。」
アキラも戻ってきたマサキの腕にダークネス・シールドを見つけた時は、心臓が止まるほど驚いた。またマサキが死にそうになるのは嫌だった。
そこへ長がやってきた。
「王子がなぜここへいらしたのかは分かっております。マサキの出生のことでございましょう?」
「ああ、そうだ。」
マサキは表情を引き締めた。
そのために、キチ島に来たんだ。
「あなた方はどこまで知っておられるのですか?GOLDEN EYESそして導きの龍よ・・・。」
「何も知らない。だからここに来たんだ。」
マサキの口調はいつになく厳しい。
どこか急いでいる感じだ。
「そう慌てるな、マサキ。」
アキラはマサキの頭に手を置いた。
「でもよお・・・。」
「静かに聞くんだ。」
「う・・・。」
マサキはしぶしぶ黙った。
長が話を続ける。
「お前が生まれるまでの物語は・・・まず今から19年前、ミラジアリナからの逃亡者がこの島に辿り着いたことから始まる。その者は、<クローク=マカルト>と名乗った。」
マサキは息を呑んだのが分かった。
「その者は他外者がこの部落に入る時に到達しなければいけない条件をいとも簡単にクリアし、この部落の一員となった。そして、この部落の娘と結ばれ、息子ができた。」
え?
アキラの脳裏に一瞬だけ、ひとつの可能性が頭をよぎった。
「その5年後、王宮ではGOLDEN EYESが誕生し、大騒ぎとなった。その直後だ。お前が生まれたのは。」
まさか・・・。
「お前は導きの龍として王宮へと連れ去られ、お前の父親は部落を出て行き、母親はお前の後を追って王宮へ行った。お前の兄はわしが育てることとなった。」
まさか・・・そんなことが・・・。
「あ・・・ああ・・・。」
マサキは喉の奥からうめき声をもらした。
いっぱいに開かれた碧い瞳と漆黒の瞳から大粒の光の玉が零れ落ちる。
「お前の父親も母親も兄も今ここにいる。」
生まれる前から 仲間だったのだから ・・・
あれは自分自身の声だったのか。ほとんど消え失せた記憶のそこに残った家族を、それでも思いだそうとしていた自分自身の心の叫びだったのか。
「父・・・さん・・・?」
ずっとずっと昔から呼びたかったその人が、今目の前にいる!
「マサキ。すまなかったな。」
クロークの端正な顔が悲しげな色に染まる。
マサキの瞳から大粒の涙が溢れ出した。
「何でだよ?何で言ってくれなかったんだよ?俺、ずっとあいたくて・・・。」
もうそれ以上は言葉にならない。
黒い瞳が、どこから来たのか。水龍と闇龍を身体にとどめておく力はどこから来たのか。そして、マサキ自身が、どこからきたのか。
やっと全てがつながった。というより、マサキの瞳の色を見た時点でミラジアリナの血が入っていると気付くべきだった。
「・・・。」
アキラはあえてマサキに言葉をかけなかった。
静かに立ち上がると、その部屋を後にした。
「王子。」
「ティラ。マサキのこと・・・知っていたのか?」
「はい。戻ってきた時、母に聞いておりました。」
ティラは微笑んだ。
「マサキのとこ、行って来いよ。」
「はい。」
驚くほど素直に従ったティラの後ろ姿を見送った後、アキラは頭の中を整理しはじめた。
元凶はセバー=ロージスで、まず、その娘が二人。メシアとヘレネス(シンジの母)。メシアと結婚したのがクロークで、その子供がティラとマサキ。ヘレネスと結婚したのがバルト(シンジの父)で、その子供がシンジ。
本当に、世の中は狭いもんだなあ。
アキラはそう痛感してしまった。
「だ、誰ですか?!あなたは?!」
突然のハールの声で現実に引き戻された。
ハールは確かこの小屋の前で待っていたはずだ。
「うっせえな。こん中にクロークがいんだろ?」
え?この声は・・・。
どんっ、とハールが突き飛ばされた音がした。
「バタァーン!」
小屋の扉が乱暴に開く。
「アッ、アキラァ?!」
「シンジ!」
二人は鉢合わせして、固まった。
「何でここにお前が・・・。」
「いや、お前こそ・・・。」
アキラは目をぱちくりさせる。
と、そこへマサキ・ティラ・クローク・メシアの四人が姿をあらわした。
「え?マサキ?」
もちろんシンジの目には、たった一人しか写らない。
「シンジ!!」
マサキがシンジに駆け寄った。
「ただいま、シンジ。」
「・・・本物?」
「ああ。」
マサキはにーっと笑った。
「久しぶり。」
「お前どこ行ってたんだよ?すげー心配したんだぜ?アキラなんか死にそうな顔してよぉ・・・。」
「悪かったよ。回復に時間がかかったんだ。」
「ライラが治したのか?」
「そう。」
「さすがライラだな。」
シンジは素直に感心した。
にしても、何ヶ月も生死も分からないまま行方知れずだったマサキが帰ってきたってのに、なんか意外と普通だ・・・。
と、そこでやっとクロークたちの存在に気付いた。
「クロークさん!!」
「元気か、シンジ。」
「元気か、じゃねー!俺はアリアでお前の正体を聞いたぞ!」
「正体?」
マサキはきょとんとした顔をした。
クロークとメシアの顔が引きつる。
「そうだ。クロークさん、あんた実は、ミラジアリナ帝国第132代皇帝となるはずだった、131代皇帝ラガシュの第一子、クローク=ミラジアリナだろう?!」
「<みらじありな>の・・・」
「こうてい?」
「クロークさんが?」
マサキとティラとアキラは一瞬事態が飲み込めず、ぽかんとした。
皇帝・・・ミラジアリナ・・・王子・・・?
「うっ、うえええええ~~?!」
3秒の後、3人同時に奇声を上げた。
「とっ、父さん?!どういう事だ?!」
マサキの言葉に驚いたのはシンジだ。
「マサキ、お前、今何て・・・?」
「え?父さんて・・・」
「はああ????」
「マサキが俺のイトコだとお?!」
「そうよ。」
すべての事情を知っているメシアが説明役となった。
「しかも父親がクロークさん?」
「・・・。」
クロークはあまりしゃべらない。もともとだが。
「じゃあ、マサキとティラはミラジアリナの王家の血を引いてるわけか。」
アキラは納得した。ウェスタ王が言っていた<障害>とは、マサキの血筋のことだったのか。
「父さん、何でそのこと黙ってたの?」
「話がこじれるだけだと思ったからだ。」
クロークはティラの質問を軽く受け流した。
次にマサキが口を開く。
「・・・じゃあ、何でミラジアリナから逃げてきたんだ?」
「・・・それは・・・。」
マサキの質問は、この場にいる全員が聞きたいと思っていることだった。
「・・・いつかは話さなければならないと思っていたことだ。」
「クローク・・・。」
メシアが夫の肩に手を置いた。
「大丈夫。もう過去のことさ。」
クロークはそれでも小さくため息をついた。
隠してきたことを話す辛さはアキラもよく分かっている。それでも話してしまうと楽になるものだということも。
「ミラジアリナは恐ろしい国だ。私はあの国が、いや、むしろあの政治が恐ろしくなって逃げ出したのだ。・・・ミラジアリナの皇帝となるべき者、すなわち王家の血を引くものは皆強い妖力をもって生まれてくる。私もその一人だ。私は一族の中でも特に強い力を持つことができた。もって生まれた強さに加え、幼い頃からの訓練によって八星使にも優るとも劣らぬ妖力を身につけたのだ。」
「確かにクロークさんは強いもんな。」
シンジが頷く。
「ミラジアリナの力は闇から来ている。つまりビルラが使っていたのと同類の力だ。闇がもっとも強く働くのは、操作。」
「操作・・・?」
アキラははっとした。
「意識操作か?!」
「そうだ。」
ティラの表情が険しくなった。
冒険の中で見てきた、ビルラに操られた人々。何も映さない、濁った闇の瞳。ティラもその一人だった。
「ティラは珍しいパターンだった。生まれながらにビルラの支配下にあったのだ。ティラの瞳が闇の色に変わった時、お前はお前でなくなるのだ。普段は碧い瞳だがな。」
ティラは自分自身にぞっとした。確かに小さい頃から突然ふっと意識がなくなることがあった。それは、ビルラに操られていた時間だったのか?
「まあ、ティラの話はそのくらいにしておこう。・・・話を戻すと、ミラジアリナでは政治に妖力を使っていた。」
「?」
「どういうふうに?」
「操作するんだ、人心を。」
クロークの瞳が怒りと悲しみの混じった色になった。
その表情にアキラははっとなった。同じ、国を統べる者として、国を思っている気持ちがそうさせているのだと痛感した。
「決して規律を乱さぬように、決して皇帝には刃向かわぬように・・・。」
「何だって?!」
マサキは怒りに目を吊り上げた。
「ばかじゃねえのか?!なんで人を操らなくちゃならないんだよ?!」
「マサキ・・・。」
「国を治めるのにそんなもん使うなよ!」
「だから私は逃げた。あの恐ろしき闇の帝国から・・・。」
アキラは怒りを通り越して呆然となった。
国を治めるのに妖力を使う?そんな馬鹿なことが現実にありえるのか?
「どういう国なんだよ?!ミラジアリナは!!父さんの国はそんなにおかしな奴等の集まりだったのか?!」
「それでも、私の生まれた国だ。私はあの国が好きなんだ。」
「だからって・・・」
「マサキ。」
シンジはマサキを制した。
「やめろ。」
「でも、シンジ・・・。」
「やめるんだ。」
「・・・。」
マサキは口を閉じた。
このへんシンジにはかなわない。マサキをこれだけ制御できるのは、やっぱりシンジしかいないと思う。
「そういう事だ。私が逃げてきたのは。」
「おい、待てよ。ミラジアリナの王家の血は強い妖力を持つと言ったよな?」
「ああ。」
「まさか、ティラとマサキも強い力を持ってるのか?」
「・・・おそらく。マサキの力は今までウィオラとビルラに押え込まれていた。が、これからは少しづつ現れるだろう。ティラの場合、<強い力>を使うのは闇瞳に変化した時のみだ。」
「俺が・・・妖力者?」
マサキは自分を指差した。
「そう。そしてアキリア王子とシンジ・・・二人もそうだ。」
「えっ?俺も?」
アキラは素っ頓狂な声を上げた。
シンジが妖力者なのは知ってたけど、俺もなのか?
「王子は金色の瞳の意味を考えたことがありますか?」
「え?GOLDEN EYESの印じゃ・・・?」
「それだけではありません。あなたがGOLDEN EYESになるために必要な力を集めるもの。いわばダークネスシールドの光輝バージョン・・・といった所でしょうか。それはライラがつけたものです。そして十数年間ライラの魂を保管することのできるあなたの身体には、とんでもない量の妖力が集められることでしょう。」
「俺にも妖力が使えるのか?」
「訓練次第ではかなりの力を持てると思います。おそらく王子は光輝の力の使い手でしょう。」
「俺は?」
マサキが聞いた。
「マサキはメシアの血を強く引いていれば水の力を使うが、私の血を強く引いているとしたら・・・闇の力だ。」
「げっ。ビルラと同じかよ。」
マサキがもろに嫌な顔をした。
「今はまだ力を使っていないから分からない。あと、シンジは炎の力だな。」
「やっぱり。フィルラもそんなようなこと言ってたしな。」
シンジは納得した。
「<炎の歌人>のこと?」
「それもあるな。」
<お前の力に聞け>フィルラは確かにそう言った。その言葉はシンジの頭の中にこびりついて離れない。
「ティラの力は水だ。メシアの血を濃く受け継いでいる。」
クロークはティラの金色の髪と青い瞳を見て言った。
「闇の力は恐ろしいものだ。光以外の何者も恐れない。だから、闇を使うのは私だけで十分だ。ミラジアリナという国も、あれはあれでうまくいっているのだから、無理にあのやり方を止めさせることもない。」
「違う!」
マサキは思わず叫んだ。
「父さんは、逃げただけだ!できないからって逃げたままだ。人が操られてる国なんて、いいわけない!!」
「マサキ。」
「一度逃げたら、またその場所に戻ってこなくちゃいけねえんだぞ!逃げっぱなしってのは、絶対にだめだ!!」
クロークは、強い意志を持って輝く黒と青の瞳を見つめかえした。
自分の血を引く者。生まれた瞬間からの仲間・・・。
「・・・お前のその性格は、誰に似たんだろうな。」
「誰に似てるとかじゃねえ、俺は俺だ。」
「そうだな。マサキはマサキでしかない。」
クロークはかすかに微笑した。
「逃げたらまた戻らなくちゃならない・・・か。そのとおりだな。」
「そうだ。アキラも、ちゃんと助けてくれただろ?」
「そうだったな・・・。」
クロークは少しだけ後悔した顔になった。
それが国を逃げ出したことに対するものなのか、その後戻ろうとしなかったことに対するものなのか、はたまた全員にミラジアリナの実状を話してしまったことへのものなのか・・・。
「あ、そうだ。あと、クロークさんに言わなくちゃいけないと思ってたことが・・・。」
「何だ?」
「第133代の皇帝が即位したそうだ。」
「ゲルマンの息子か?」
「ああ。確か、名前は<クレイド=ミラジアリナ>といったはずだ。しかも、何が大変かって皇帝にはなったものの皇后がいないんだ。」
「皇后がいない?!」
クロークは一瞬でシンジの言わんとしている事に気付いた。
「どういうことだ?何か問題でもあるのか?」
アキラには全くわからない。
「あいっかわらず鈍いなあ、お前。皇后っていうのは、皇帝に次ぐ権力の持ち主。って事は、相当な身分のものじゃないとつとまらないだろう?それに、妖力を使うって言うんなら、それなりの力も要るわけだ。」
「ああ。」
「そんな条件にぴったりの奴が、お前の近くにいるだろう?」
「え?」
「え?」
アキラとティラの視線がマサキに集まった。
「え???」
マサキの顔が引きつった。
「俺か?!」
「ピンポーン。大正解。」
「えええええええええ???!!?!」
マサキとアキラは大絶叫した。
「それはおかしい!だってマサキはこの国の人間だぞ?!しかも、もうすぐ王女に・・・。」
アキラの問いにシンジに変わってクロークが答えた。
「マサキはデルタス王家の人間じゃないだろう?それどころかミラジアリナの王家の正当な血筋だ。それにまだ正式に王女になったわけじゃ・・・」
「マサキが王女?!聞いてねえぞ、そんな事?!」
クロークの言葉をシンジの大声がかき消した。
「そう、俺、今度王女になるの。」
マサキはにかっと笑った。
「は、はは・・・そりゃ、驚いた。マサキが帰ってきたことよりも驚いた。」
「そう?」
マサキはシンジに向かって不思議そうな顔をした。
「て事は、やっとアキラは気付いたわけか。」
「ん?何に?」
「・・・。」
だめだ。
シンジは頭を抱えた。
「まあ、いい。それはそうと、俺思うんだけど・・・。ティラのほうがやばいんじゃねえ?」
「え?私が?」
シンジの言葉にティラは意外そうな顔をした。
「だって、お前はラガシュ王の長男の子だぜ。そして向こうは次男・・・。普通に考えて王位を継承するのはお前じゃないか?」
「そんな、私なんか・・・。」
「でも、現実にそうだ。そうなったら、お前は今の皇帝にとっては邪魔な存在だ。・・・消されるかもよ。」
シンジは読みが深すぎる・・・
そう思ったのはアキラとマサキの二人。とてもじゃないが話についていけそうにない。
しかもシンジがあまりにもあっさり言うからたいしたことないように聞こえるが、これは大変な問題だ。
「実は俺、アリアでクロークさんに息子がいるってしゃべっちまったんだよ。ティラの父親がクロークさんだって親父に聞いてたから。まさかミラジアリナでこんな事態になってるとは思わなかったもんだから。ま、今更悔やんでも遅い。そこからミラジアリナに伝わるのは時間の問題だから。」
「はい。質問です。」
「なんですか、マサキくん。」
「つまり今の話を要約すると、俺とティラが危険だという事ですか?」
「あー、そうだ。そういうことだ。」
これ以上説明しても無駄。クローク・メシア・ティラの三人はともかく、アキラとマサキに理解させるのは大変難しい。
「とにかく大変なんだよ。わかったか?アキラ。」
「わかった。」
ほんとに分かってんのかよ。
のんきな顔のアキラを見て、シンジは心の中で叫ぶ。
「無鉄砲な行動は慎むこと。分かったな、マサキ?」
シンジはさっきから黙っているマサキに声をかけた。
こんな時マサキが何を考えているかなんて、考えなくても分かる。
「・・・はは。」
「お前絶対ミラジアリナに行きたいと思ってただろ。」
「・・・。」
図星。
マサキの考えることは、筒抜けだ。
「マサキ、そんな事考えてる暇があったら妖力の使い方でも覚えろ。お前はもう一人でも自分の身を守れなくちゃならない。・・・アキリア王子。しばらくマサキをお借りしてよろしいですか?少し学ばせたいことがあるので。」
「ああ。存分に教えてやってくれ。」
アキラはにっと笑った。
クロークといっしょならマサキは無鉄砲なことをしないだろう。というかできるはずがない。
「妖力の使い方教えてくれるのか?」
「そうだ。」
「やった!」
マサキは飛び上がって喜んだ。
「嬉しいのか?」
「ああ。すっげえ嬉しい。・・・強くなれるから!」
強く?マサキがこれ以上強かったら俺の立場はどうなるんだ?
アキラは声にこそ出さなかったが本気でそう思った。
「そう言えばお前、ジュノソードの使い方も習ってたろ。」
シンジが言った。
しかしマサキはきょとんとして、いや、むしろ眉をひそめて、
「じゅのそおど?何だそれ?」
と聞き返した。
「あ、そーか。お前じゃなかった。」
もう一人のマサキの方だ。記憶を無くしてる間の。
「じゃ、投擲なら使えるだろ?」
「あ、それなら使える。」
マサキはにっと笑う。
投擲はティラの得意技で、遠距離・近距離の両方において効果的な小型ナイフのような武器である。その威力はアキラが身をもって立証済みだ。まったく、とんでもない代物をマサキに持たせてくれたものだ。
「ちょっとだけどな。俺はそれより剣をやりたい。まだ途中だろ、アキラ。」
「ん?・・・ああ。そうだったな。」
「今度は攻撃を教えてくれる約束だったろ。あ、そうだ!今からやらないか?まだもうちょっとこの島にいるだろう?」
「ああ。」
マサキはにっと笑って、アキラの手を引き外へと連れ出した。
「アキラの事だから剣ぐらい持ってきてるだろ?」
「そりゃ、持ってきてるけど・・・。」
「貸せ。」
「あっ・・・。」
嫌というまもないこの素早さ。
マサキはすでにアキラの手から剣を奪い取っていた。
「ちょっと待て。」
クロークが出てきて、二人の間に割ってはいる。
「木刀でやれ、木刀で。」
「カランカラン」
二人の剣を取り上げる代わりに木刀を二本放り出していった。
「ちぇっ。」
しぶしぶマサキは木刀を拾い上げた。
ひゅん、ひゅんっとかるーく振って感触を確かめる。
「軽いなあ・・・。」
「がまんしろ。」
俺だって木刀は使いにくいんだから。しかも一本しかないし。
そう。アキラはもともと二刀流。一本でもそこそこの腕前だが、やはり2本の時に比べると格段に落ちる。
「ま、いっか。」
マサキはすっと木刀を構えた。
その瞳にアキラは映っていない。真剣な眼差しの中には、ただ空虚な空間がある。
「しっかり受けろ。今回は手加減はしない。」
「承知。」
アキラはゆっくりと構えた。
もちろん打ち出すのはアキラの方だ。マサキにはまだ攻撃の仕方を教えてはいない。もっともやろうと思えば簡単にできるだろうが。
「やあっ!」
「カーン!」
打ち合いが始まる。マサキはアキラの力強い攻撃を受け流しつつ、間合いを詰めていく。
が、アキラも下がるわけにはいかない。
「ガツッ」
二本の木刀が交わった。
「ギギギ・・・」
不快なおとを立てて二つの力がぶつかり合う。
「ミシ・・・ミシミシ・・・」
木刀が今にも壊れそうに悲鳴を上げる。
やはり力の差か、だんだんとマサキが押されていく。
「はあっ!」
「バキーン!」
「!!」
アキラが気合いを入れた瞬間に、マサキの持っていた木刀は真っ二つに折れた。
アキラの木刀の切っ先がマサキの喉元にすえられる。
「・・・!」
側で見ていたクロークが息を呑んだのが分かった。
「終わりだ、マサキ。」
「くっそーっ!」
マサキは手に残っていた木刀を地面に叩き付けた。
「やっぱりアキラは強いなー。まだまだ勝てそうにない。」
「当たり前だ。そんなに簡単に勝ってもらったら、俺が困る。」
このセリフ、前にもどこかで言ったな。
「アキリア王子。あなたは腕は確かですが、指導者には向かないようですね。」
クロークはあきれたように言った。
「え?なんで?」
マサキが聞き返す。
「毎回毎回木刀を折ってもらったのでは、何本あっても足りませんから。」
「・・・。」
アキラはマサキの投げ捨てた折れた木刀に視線を移した。
「は、あはは・・・。」
アキラは苦笑い。
クロークはちょっと眉をひそめて折れた木刀を拾うと、マサキに新しい木刀を渡した。
「もうこれ以上はやらないぞ。大切に使え。」
クロークはこつん、とマサキの額を小突くと家に入っていった。
「どーだ?マサキ。ちょっとは上達したか?」
代わりに出てきたのはシンジとハール。
「今始めたばっかだよ。」
「マサキ様ならすぐにお上手になられますよ。」
「でもさあ、ハール。その<マサキ様>っての、やめてくんねえかなあ・・・気持ち悪くってよお。」
「だめです。」
断固拒否。
ティラといいハールといいなんで俺の周りにはがんこものが多いんだろう・・・と思うマサキ。
「ま、いいけどさ。」
マサキはまた木刀を構えた。
「今度は攻撃側やってみるか?」
「ああ!」
マサキの瞳が輝いた。
その練習は日が暮れるまで続いた。




