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続・EYES  作者: 早村友裕
18/21

18.激突

「船が見えます・・・たくさん・・・赤い龍の旗印、アリア・・・。」

「ちっくしょう、やっぱりな・・・。」

シンジは顔を歪ませた。

「どうされたんですか?」

「いや、一番恐れてた事態が起こりそうなんだ。」

シンジは着物姿の、まるで日本人形のような少女の頭に手を置いた。

カンナ=マカルト。視力が極端に弱い代わりにアトランと同じ千里眼クレアボヤンスの能力を持つ。ミドルクラス下位の妖力者で、闇の力を使う。

「・・・エルギール。」

「なんでしょう?」

「針路変更だ。進路を南東へ取れ!」

エルギールはちょっと不思議そうな顔をしたものの、すぐに指示にしたがった。

「間に合うか・・・?」

シンジの表情は険しい。



アトランはその頃、ちょうど出陣の時だった。

「反乱軍の本隊はすでにマーラの街を突破したとの情報が入っている。もはや一刻の猶予もない!」

帝国軍、1万名。アトランの直接指揮のもと、東からヴェル・アポートに向かっているギオンの軍を叩くこととなった。

残りは王宮にとどまり、他方からくる軍を阻む。

もちろん指揮は副隊長のキャトー=ミリオン以下5名。名を列記すると、トゥーレン(拓人)、ラサイ(羅沙唯)、ユメザ(悠芽邪)、ガイア(凱阿)、パスク(覇梳)である。

「アトラン将軍に負けるな!!」

キャトーは5名の副将軍たちにはっぱをかける。

「ちょっと気合はいりすぎじゃない?」

ユメザがぽそっとガイアにつぶやく。

「キャトーはアトラン将軍のあとがまをねらっているらしいからな。」

「ふーん。一生無理だと思うけど。」

ユメザはどーでもいい、といったかんじに鼻で飛ばした。

ユメザは見かけはただの無鉄砲な青年(実年齢38歳)だがひとたび戦闘となるとアトラン将軍に優るとも劣らない戦術で敵を苦しめる。

そんなユメザをガイアは苦笑した。ガイアの祖父はアリア人で、ガイア自身の顔もアリア人に近い。鼻の辺りのそばかすをぽりぽりっとかいて、アトランの去っていった大地を見つめる。

「アトラン将軍・・・御武運を・・・。」



「きたっっっ」

フェザンは紅い点を地平線の彼方に見つけると、大急ぎで軍の元へ向かった。

「ギオン!!来た!アリアの軍勢だ!」

「よし。各軍配置につけ!戦闘態勢!!!」

「おおーーーっ」

怒涛なようなうなりがあがり、人の波が動いた。

起兵してからおよそ1週間。初の戦闘に、自然と気合いが入る。

「僕は軍の前方にまわる。アキラは後方、リキュアさんは右舷、サイファは左舷を頼むよ!」

「まてよ。ギオン、お前は後ろにいろ。」

「えっ?でも・・・」

「リーダーってのは軍の後ろに腰据えてるもんだぜ?」

アキラは有無を言わさずにリングを走らせた。

・・・ いいのか 言わなくても

「大丈夫だ。ギオンならすでに読んでいるはずだ、そのぐらい。だからこそあいつにしんがりを任せなくちゃいけない。」

アキラの目に映ったのは、アトラン将軍の姿。1万の軍隊を率いてこちらに向かっている所だった。

まだアキラに<見える>のはせいぜいここからヴェル=アポート程度までの距離だが、確実にアキラの妖力はあがっている。

・・・ 3人目だ これで

「ん?何が?」

・・・ ついていきたいと思った奴が

「??」

強い意志の力とハイエストクラスのプレオリーを持つ<3人目>。

「ま、いい。とにかく急げ!」


「ザッ」

アキラは軍の先頭に踊り出た。

アキラの視力ならもうアリアの旗印が読み取れるほどにまで近づいている。

「アキリア王子!」

「フェザン。」

「俺、ギオンの方に行きます。なんか嫌な予感がする・・・」

「わかった。早く行け。」

「はい。」

フェザンの後ろ姿が人の波の間に消えた。

・・・ 勘のいい奴だ

「本当に。なんとなく、後ろから軍が迫ることに感づいたのだろう。」

革命の途中でおもうことではないが・・・ミラジアリナは、もう大丈夫だ。ギオンがいる。エルギールがいる。それにフェザンやサイファも・・・心配するようなことはない。これからはうまく動いていくだろう。

「さあ。」

アキラは気合いを入れ直した。

「これからが本番だ!!」

双方の軍が激突した・・・!

「ガキィン!キイン!」

「カーン!」

剣が交わり、跳ね返る音が戦場に響く。

アキラも剣を二本抜いた。


「後方の軍に告ぐ!今すぐ戦闘態勢を整えよ!後ろから国軍が迫っている!」

ギオンの凛とした声が響き渡る。

「は?何言ってんだ?ギオン。」

フェザンは眉を寄せた。

地平線には国軍どころか人影すらみえない。

「僕が将軍ならどうするかなって考えた時、やっぱり挟み撃ちっていうのが一番いい手だと思うんだ。だから、アリアと示し合わせて総攻すると思うんだよ。」

「なるほどな。」

フェザンは指をパチンとならすと、指示を伝えるために駆けていった。

「アリアの軍は・・・5万ってとこか。これに帝国軍が約1万だとすると・・・ちょっと危ないかも。」

シンジとエルギールの軍は、アゲハ達の軍は、それにヒバリの軍は大丈夫だろうか。

とくに気にかかるのはシンジとエルギールの軍。アルカイダでマカルト家の協力は得られたのだろうか。まさか国軍はシンジたちの軍を襲ってはいないだろうか。

「見えたぞ!騎馬隊だ!!」

「?!」

ギオンの目に飛び込んだのは、地平線に並ぶ騎馬の列。

アトラン将軍の黒馬を筆頭に隆々と並んでいる。

「くそ・・・騎馬隊か・・・。」

予想していなかったわけではないが、苦戦することは否めない。

だが、人としてこの革命をおこした以上、妖力は使いたくない。もっともむこうが使ってきた場合はやむをえないが。

「できるだけ弓兵を集めよう。接近戦は避けたい!」

「はいっ。」

リーダーたちが自分の持ち場へ散っていく。

進度で言えば、他の隊はそろそろ王宮へ着いてもいい頃だ。急がなくては。

「あ、いけないいけない。焦りは禁物だった。」

と、ギオンは一人で苦笑。

「確実に、確実に。」

しっかりと自分に言い聞かせた。


「撃てっっっ」

「ヒュンヒュン・・・」

国軍に向かっていっせいに矢が射掛けられた。

何本かが命中し、ミラジアリナ国軍側の兵士が落馬する。

「続けろ!」

さらに激しく矢が乱れ飛ぶ。

向こうからも矢が飛んできた。こうなっては訓練を受けていないこちらがわが不利だ。

「・・・早めに勝負を仕掛けてきたな。」

ギオンの表情に焦りの色が浮かぶ。

が、それは一瞬で、ギオンはすぐににやっと笑った。いつもにこにこのギオンにしてはかなり珍しい表情だ。

「でもそれって、ここを破れば首をとったも同然なんだよねえ。」

アリア側は、互角の戦いをしているらしい。だが、まだリキュアの言っていた<鉄砲>という武器は使用していないらしい。そのあたり、アリアはどうでるか・・・?

「ま、そっちはアキラたちに任せよう。」

ギオンは矢を避けつつ敵陣を見た。

「アトラン将軍を超えないと、僕等に勝利はないんだから!!」

自分と、まわりの仲間にいい気かせるようにさけんだ。

軍は衝突寸前。もう矢の射程ではない。

「総力戦だ!」

どこかのグループのリーダーの叫び声の後、怒涛のようなうなり声があがった。

「うおおおお!!!」

「わああああ!!!」

「カッキィン!ギイン!」

剣のぶつかり合う音が響く。

「これじゃだめだ・・・」

押され気味の軍を見て、ギオンは決心した。

「大将を殺るしかない・・・。」

歩兵を蹴り飛ばさないように慎重に馬を走らせる。

「ぐわあぁっっ」

「カンッッ」

人のうめきと混乱。

ギオンは何人かの敵兵を倒しつつ、ただ一人を探した。

「いたっ。」

ギオンは馬の方向をかえ、何人もの騎兵で囲まれる敵将軍の方へと走らせる。

「ミラジアリナ将軍アトラン=グレーロス!勝負を申し込む!受けよ!」

ギオンが剣を振りかざす。

ギオンの腕前は未知数。かたやアトラン将軍は国軍随一の剣の腕前を誇る。

「名を名乗れ!」

「革命軍総大将ギオン=リフェル!!」

アトラン将軍の眉が引きつった。・・・一瞬だけ。

が、すぐにいつもの表情に戻ると、静かに言った。

「さがっていろ。」

アトラン将軍はおのおの武器を構えようとした周囲の兵を下がらせると、剣を抜いた。

「来い!」

「ガキィィンン!!」

アトラン将軍の言葉が終わるか終わらないかで撃ちかかったギオン。そしてそれを止めたアトラン将軍。スピードは・・・互角!

できる・・・!

アトランは冷静に敵の強さを分析した。おそらく相手・・・ギオンと名乗るこの青年も、今はまだ様子見程度だろう。だが、将軍のアトランと互角に打ち合う腕前は、かなりのものだ。

「カキン!」

剣が一閃して、2人は一度間合いをきった。

あたりの兵も手を止めてその様子を見守る。

「シン・・・」

しばらく間、静寂が訪れる。

遠くでアリア軍と衝突する音が聞こえた。

刹那。

「はああっ!!」

「やあっっ!」

気合とともに、撃ちかかった。

勝負は一瞬。二振りの剣が閃いた。

「くっっ」

鮮血が散った。

そして戦士は落馬する。

「どさっっ」

「アトラン様!」

「大丈夫だ。私は。」

アトラン将軍は馬上からギオンを見やった。

ギオンは・・・血のほとばしる肩を押さえていた。剣が地面に落ちた。

「くそ・・・」

「リーダー!!」

革命軍に迷いが走る。

「とどまるな!私は大丈夫だ!戦攻を続けろ!」

ドクンドクン

ギオンは痛みを押さえて剣を拾い上げた。

「まだだ!まだ・・・」

「無駄だ。力の差は分かったろう。」

「まだ戦える!」

「ギオン!」

叫び声が全てを遮った。

黒馬のひづめの音。漆黒の戦衣を身にまとった若き戦士。シルバーヘアのメッシュが入った髪、普段は憂いを帯びている漆黒の瞳を怒りで満たし、ギオンのもとへと駆けつけた。

「サイファ・・・!」

サイファは一瞬でギオンを馬上に引き上げると、まさに疾風のごとくに敵陣からひいた。

「いったん退け。お前が無茶してどうする。」

「・・・ごめん。」

ギオンはうな垂れた。サイファはそれ以上何も言わなかった。

そして、ギオンは戦線を振り返る。

「軍も退かせようか・・・だめだよ。退けない。だってうしろにもアリアの軍が・・・」

首長を欠き、勢いをなくした革命軍はすでに押されはじめていた。

「どうしよう・・・僕のせいで・・・」

ギオンはぎっと唇をかみ締めた。

どうしよう・・・?!

「僕の安易な考えと過信のせいで・・・」

勝てると思った。たとえ帝国最強のアトラン将軍だろうと負けるつもりはなかった。でも・・・甘かった。

サイファはサウィーやユイランのいる革命軍の中央まで来ると、ギオンを馬から下ろした。

「ギオンさん!」

あわててシャロンが駆け寄って支える。

「ユイラン、すぐ治療!」

「わかってるわよ。」

すぐに応急処置が施され、ギオンの肩には包帯が巻かれた。

「大丈夫。そんなに傷は深くないわ。出血はひどかったけど動脈は無事。」

「ありがとう。」

ギオンはやっと笑えた。

「すぐ戦線に戻るよ。今僕が抜けるわけにはいかない。」

「お気をつけて。」

シャロンの心配そうな顔にもう一度微笑みかけると、ギオンは指笛を吹いた。

「ピィーーッ」

そこへ、一頭の妖馬が駆けてくる。

「サイファ。ありがとう。」

「・・・。」

サイファは何も言わずに持ち場へと戻っていった。


戦況は相変わらず悪い。

だが、勝機が見えないことはない。

「ここが正念場だ!がんばろう!」

リーダーたちを、兵たちを励まし、ギオンは叫び続けた。もちろん自分でも戦いながら。

だが、その中にアトラン将軍の姿は見うけられない。


「?!」

戦っていたアキラは、何かを感じた。

何だろう・・・?

・・・ どうした?

「分からないけど・・・何かが近づいてくる。悪いものじゃない。なんだろう?」

・・・ 見てみりゃいいだろ

「あ、そうか。」

アキラは精神を集中した。

ぼんやりと影が見えてくる。見慣れた幻影。

「あっっ!」

アキラは歓喜の声を上げた。

・・・ ・・・?結局何が見えたんだよ?

「いいからいいから!」

アキラは敵軍の攻撃をかわしつつ叫ぶ。

「この勢いでアリア軍なんか破っちまえ!!」


「援軍?!まずいよ!」

ギオンの予想とは裏腹に、国軍の後方から新たな軍隊が迫ってきた。

今度は騎馬兵でなく歩兵中心だ。

距離は残り僅か。

「くっそお・・・」

ギオンは馬をおり、戦いのさなかに身を投じた。

「ギギン!」

「カンカン!」

戦いは更に激しさを増す。

軍は目の前。

「新手だーー!!」

革命軍に動揺が走る。

「・・・。」

万事休す。

ギオンは失敗を覚悟した。


だが・・・

なぜか帝国軍に迷いが見え始めた。

「・・・?」

なぜだ?

「ギオンーーー!!!」

栗毛の騎馬が駆けてくる。

「シ・・・」

「大丈夫か?!間に合ってよかったよ。」

「シンジ?!?!」

「絶対あぶねえと思って途中で針路変更したんだよ。間一髪ってとこか?」

シンジはにやっと笑った。

「本当だよ。もっと早く来てくんなくちゃ。」

ギオンにも笑顔が戻ってきた。

「・・・お前、怪我したのか?」

シンジが馬に乗ったギオンの肩の包帯に気付いて声をかける。

「うん。でも、大丈夫だよ。シンジも怪我してるの?」

ギオンはシンジの左手に巻かれた包帯を指した。

「これは自分でやったの。誓いの十字架クロイツってやつだよ。ま、ほとんどふさがってるしな。」

シンジは包帯を巻き取った。

十文字の傷痕が、手の甲にくっきりと浮かび上がっていた。

「こんなとこでやられるわけにはいかないだろ?」

「うん。」

2人は拳を突き合わせた。

「後でな。」

「うん!」

革命軍に勢いが戻ってきた。


拮抗を保っていたアリア側も勢いに乗って押しはじめた。

・・・ 何があったんだ?

「シンジが来たんだ!」

・・・ シンジが?!

「さっき見えた。後から来たのは、帝国軍の援軍じゃなくて俺達の援軍・・・シンジとエルギールが率いてた、北軍だよ!」

・・・ !!

「帝国軍の降参ももうすぐだろう。そうすれば、アリア兵も引き上げる。」

アキラはアリアの軍隊を見つめた。

「勝てる!」


ところがアリアはこの窮地に<鉄砲>を持ち出してきた。

「ダーン!」

「ガガン!ダンダン!」

次々に味方兵が倒れていく。

と、そこへ・・・!

「下がって下さい!王子!」

数名の少年・少女が駆けだして来た。

トラドシンの村人だ。

その中の一人が叫ぶ。

「空を裂き 地を裂き 我がもとへきたれ 黒闇霧壁!!」

少年たちのまわりを暗黒が渦巻いた。

暗黒は革命軍の前に壁のように立ちふさがり、鉄砲の弾を防ぐ。

「僕たち、トラドシンの防御チームです。このバリアは人は通れるけど鉄砲の弾は防げます。中で戦って下さい!」

リーダーらしい一人の少年が叫んだ。

年の頃は12・3。首に小さな袋を提げている。なんだろう。袋からは不思議な力を感じる。

よく思い出してみると、トラドシンに住む人たちは、みんなそれぞれ小さな袋を絶えず持ちあるいていた。ギオンも、エルギールも、サウィーさえも。いや、サイファだけは見たことがない。何なのだろう、あの袋は?

考えている場合ではない。アリア側は大丈夫だと踏んだアキラは帝国軍と戦うギオンたちの方へと駆けつけた。

「どうだ?!」

「大丈夫、こっちが押してるんだ!」

「よかった。」

アキラはぼそっとつぶやいた。

「シンジが、来ただろう?」

「あ、そうです!何で分かったんですか?」

「俺の能力さ。」

ギオンは満足そうに微笑うと、リングの手綱を引いた。

「アトラン将軍を探します。これ以上の戦闘は無意味です。」

「わかった。俺も行く。」

アキラもリングを急かした。

「アリアの方は大体カタがついた。あとは悪あがきしてる国軍だけだ。」

と、そこへお気楽な声が降ってきた。

「アーキラぁ~」

炎の翼。燃えるような瞳。言わずと知れたレッドエンジェル、キャラである。

「何かすることある?」

「あ!アトラン将軍、探してくれよ!」

「え。アキラ、それって反則・・・。」

「いいさ、そのぐらい。」

「はぁ~い。わっかりましたあ!」

キャラはいきおいよく飛び立っていった。

「俺たちも探そう。」

「うーん。でもなあ・・・」

ギオンはキャラの後ろ姿をちらっと見ると、リングを追いかけはじめた。


「いたか?」

「それが、戦地からはもう退いたみたいなんですよぉ。」

「何?!」

「なんで?!」

アキラとギオンは同時に声を荒げた。

「ギオン!今すぐ軍を止めろ!戦いは中止だ!」

「わかってるっ。」

ギオンはすぐに馬を走らせた。

アキラもアリア側へ向かう。

「フェザン!軍を止めろ!アトラン将軍が消えた!」

「えっっ???」

「早く!!」

「は、はいっっ。。」

フェザンはアキラに怒鳴られ、しぶしぶながらも人の波に消えた。

アリア軍は敗走を開始した所だった。これ以上追う意味はない。

「勝ったぞーー!!」

「わあああーーー」

沸き上がる軍の間を駆け抜け、もう一度ギオンの手助けに向かう。

なぜアトラン将軍がいないのか。おそらく勝てないとみて軍を見捨てたのだ。

「アトラン・・・!」

アキラの顔が怒りに満ちた。

「アキラ!」

「シンジ!ギオン!」

「だいたい帝国軍は降伏させた。あとは・・・アトランって将軍だけだ!そんなに時間が経ってないからそう遠くまでいけるはずがない。・・・追うか?」

「もちろん!リング!全速力だ!」

・・・ わかってるっ

シンジとギオンもそれぞれの馬を駆り立てた。


一方アトラン。

クフトを含む護衛4人だけを連れて、すでに戦場からかなり遠ざかっていた。

「将軍。大丈夫ですか?」

「・・・ああ。」

あのギオンという青年。甘く見ていた。

刃の一撃こそ入らなかったものの、ギオンは柄で副撃をアトランの腹に打ち込んでいた。甲冑にはひびが入り、打撃はアトランの身体にまで響いている。

「・・・。」

と、護衛につけてきた4人のうちの一人がきょろきょろしはじめた。

「どうした?」

4人の中で最年長のデストゥールが声をかける。

「ここなら・・・分からねえよな。」

「?」

「どうしたのだ?」

後ろのデストゥールと護衛の一人が馬の歩みを止めたのに気付いて、アトランも手綱を引いた。

「ズッガーーン」

「?!?!」

突然の銃声。

「ううっ・・・」

うめき声を上げて倒れたのは、デストゥール。

煙のあがる<鉄砲>を手にしているのは、さっきまできょろきょろと辺りをうかがっていた護衛兵士。

「何をする?!」

「<ゲルマン王>からの使命さ・・・戦に負けたら、将軍を始末しろ。」

「?!」

<ゲルマン前王>が?!まさか・・・

「あんたは目立ちすぎたらしいぞ、交魂のアトラン将軍・・・」

<交魂>という言葉に顔を歪める余裕もなかった。

アトラン将軍は裏切られたというショックで打ちのめされていた。

「将軍を前に何たる狼藉!貴様・・・!」

残り2人の護衛兵がアトラン将軍をかばうようにして剣を抜く。

「その剣ではこの銃の威力には勝てない。」

その男は自分の剣を抜いた。銃口を剣に突きつけ、引き金を引く。

「ダダーン!」

「ぐあっっ」

兵士が一人、倒れた。男の持つ剣には丸い穴があいていた。

「アトラン将軍!!お逃げください!」

最後の護衛兵は、クフト。精一杯腕を広げて、アトラン将軍をかばった。

だが、アトラン将軍はゲルマン前王に捨てられたというショックのあまり、動けないでいた。

「アトラン将軍!!」

クフトの必死の叫びが響き渡った。


「ダーン」

「?!」

銃声はアキラたちの耳にも届いた。

「銃声・・・?!」

「急ごう!なんだか嫌な予感がするよ・・・!」

ギオンは言った。

アキラとシンジの2人も、さっきから妙な胸騒ぎを感じていた。

「ダダーン」

2度目の銃声。心臓の鼓動が早くなっていく。

「見えたっっ!」

「ガガーン!!」

姿が見えた頃、三度目の銃声がした。

兵士らしい一人が落馬するのが見えた。

「あれ・・・将軍かな?」

護衛らしい者に守られるようにして、アトラン将軍がいた。

「危なそーな感じ。シンジ!」

「わかってるさ。」


「くっ・・・」

「はずしたか・・・今度は当てるぜ?」

クフトはなんとか上体をひねって一発目を躱した。が、玉は左腕をかすめていった。

アトラン将軍は今逃げられるような状態ではない。なんとかお守りしなければ・・・!

「死ね。」

男が銃に指を掛け、クフトが目を閉じた時、空を切る音がした。

「ドスッッ」

「なっ?!」

男は銃を取り落とす。

男の肩には、一本の矢が深々と突き刺さっていた。

「ナイス、シンジ!」

「俺が外したことあるかよ!」

「弓、お上手なんですね。」

緊迫した雰囲気にそぐわない、のんきな声。

見ると、3人の少年(青年?)が馬を駆けてやってくる所だった。

「ア、アキリア王子?!」

さすがのアトラン将軍も目を覚ましたようだ。

「ア、アキリアだとお・・・?!」

男も振り返る。

光輝ひかりを集めて創った黄金の瞳。それと対になる、金色の髪。噂に違わぬ容姿に、男は思わず声を失った。

「どういう状況なんだろうね?」

「おそらく将軍は王様に見捨てられてしまいましたとさ、みたいなもんだろ。」

クフトの驚いた顔を見ると、どうやら図星らしい。

「くそっ。ついでに全員消してやる!」

男は馬を飛び降りて銃を拾った。

アキラは剣を構えた。

「あ、危ない!その銃、剣も通り抜けるほどの・・・!」

「ダーーン!!」

「アキラ!!」

アキラは馬上につっぷした。剣が地に落ちる。真ん中で剣がぽっきりと折れた。

クフトに王子らしからぬ口調で文句を言う。

「・・・言うのがおせーんだよ・・・。」

アキラは起き上がって血の流れる右腕を押さえた。

シンジがアキラの前に立ちはだかる。

「人の国の王子にむやみに手ぇ出すもんじゃねえぞ?」

シンジは冗談めかしていったが、目は完全に怒っている。炎がシンジのまわりで渦巻いているようだった。・・・アトランとギオン、アキラにはシンジのまわりを渦巻く莫大な焔炎ほのおの妖力が見て取れた。

シンジはマサキから預かった<ライラの剣>を抜き放った。

アキラは思わず叫ぶ。

「あほ!剣じゃ防げねーって・・・」

「ガガーーン!」

クフトは目を閉じた。

また、遅かった・・・?

「あ・・・ああ・・・」

だが、クフトの耳に飛びこんで来たのは、シンジのうめきではなく、男の恐怖に満ちた声だった。

「!!!」

アトラン将軍が、クフトが、ギオンが目を見開いた。

「剣ってのは意外に<分厚い>んだぞ?」

ライラの剣から、うすく煙が上がっていた。

シンジは剣を<縦に>使った。切っ先から剣に食い込んだ弾丸は、剣の3分の1ほどの所でとどまっていた。

剣を振り払って弾丸を地面に落とした。

ライラの剣は切っ先が二股に分かれたようになってしまった。

「銃はきかない。おとなしくしろ。」

シンジに馬で詰め寄られ、男はじりじりと後退していった。

そこをすかさずクフトが捕らえる。

「観念しろ!」

「く・・・くそっ」

男は羽交い締めにしたクフトを突き飛ばすと、自分のこめかみに銃口を当てた。

「!!」

「ダァーン!」

アキラの方が、早かった。

弾丸は男のねらいを外れ、空へと飛んでいった。

「馬鹿なことはやめろ!」

アキラは腕を押さえたまま叫ぶ。

「だがっ・・・失敗したからどの道俺の命は・・・」

「だったら、一緒に来ない?」

ギオンがのんびりと、でも良く通る声で言った。

「僕等の軍においでよ。仲間は多い方がいい。」

あいっかわらずのにこにこ顔。こういうときは便利かもしれない。敵意がまったくと言っていいほど感じられないから。

「・・・・・・!」

男は呆気に取られた顔をしている。

「行こうよ。」

人の心を動かせる人間は、人の上に立つ才能があるという。そういう意味では、ギオンは天才だった。

男は静かに頷いた。

「君・・・名前は?」

「アレル・・・アレル=ギャルド。」

「アレルか。よろしくね。」

ギオンが馬から下りて握手を求めた。

黒髪・黒い瞳の生粋のミラジアリナ人。顔を隠すようにターバンを巻いている。

「どうだ?」

シンジが倒れたデストゥールともう一人の兵士を助け起こした。

「この人は・・・もうだめだ。心臓一発。こっちの人はたいしたことない。急所もずれてるし、血もほとんど出てない。気絶してるだけだろう。」

シンジはデストゥールの方を慎重に横たえ、もう一人は少し離れたところへ寝かせ、胸の上で手を組ませた。血の染みが、シンジの服にもついた。

「ギオン、頼む。」

「わかった。」

独学とはいえ、ギオンには医術の心得がある。

ギオンはデストゥールの傷を見はじめた。

「さて・・・」

アキラはアトラン将軍とクフトを見た。

「どうしようか。こういう状況はさすがに考えてなかった。」

「俺もだ。」

アキラとシンジが口々に言う。

「なぜ・・・助けた?」

アトラン将軍が口を開いた。

「なぜって・・・なりゆき。」

「・・・右に同じ。」

「僕は助けてないし。」

ギオンも口を出す。

「何でだろう。俺、どうしてもお前とは戦えないらしい。」

アキラはアトラン将軍に向かって言った。

「・・・。」

「あいかわらず悲しそうだ・・・。」

アキラの太陽の瞳が憂いをおびた。

アトラン将軍の漆黒の瞳にもまた悲しみが反射する。まるで悲しいことから眼を背けるかのように、アトラン将軍は視線を落とした。

「アトラン様?」

いつもとは違う師の様子に、クフトも不思議そうな声を上げた。

「君たちも」

ギオンがアトラン将軍とクフトに向かって言った。

「怪我人だろう?こっち来て。・・・いや、ここは僕が行くべきかな?」

ギオンは立ち上がって、つい先ほどまで争っていたはずの将軍に手を差し伸べた。

その姿が、アトラン将軍の恩師と重なった。将軍の唇から呟きがもれた。

「ロード・・・リフェル・・・・・・」

「え?」

アトラン将軍は呆然となってギオンの漆黒の瞳を見つめた。

「何?」

「ぁ・・・ぉ・・・・・・ぃ」

ほとんど聞き取れないような声で何かをぶつぶつつぶやくと、アトラン将軍はどちらともなく馬を走らせた。

「アトラン様!」

クフトが慌てて後を追う。

「キャラ!!」

「はーい。わかってまぁーす。」

どこから現れたのか、キャラがさらにその後を追っていった。

「ロード・リフェルって誰だ?」

「あほ、ギオンだよ。ギオン=リフェルだっただろうが。」

「あ、そうか。」

「違うよ。」

ギオンがきっぱりと言い放った。

「ロード・リフェルって・・・僕の父さんのことだ!」

「え?」



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