17.革命軍
「それじゃ、気をつけて。」
アゲハがにっこりと微笑んだ。
「ケティ、ベクティ、気を付けろよ!まあ、お前たちなら大丈夫だとは思うが・・・。」
「あたりまえさっ。二人いっしょならなっ。」
「俺たちにできないことなんかないぜっ。」
双子の剣士、ケティとベクティは強気に言い放った。
実際、二人が組んだ時の強さは一人の時の数倍だ。テミストクレスですら時に危ういほどの腕前なのだ。一人ずつならアキラ以下なのだが。
「御武運をお祈りしております、アキリア王子!!」
「お前たちもな。」
「行って参ります!」
二人の声がぴったり重なった。
実行日一週間前、一番遠くまで行かなくてはならない西のチームが出発した。リーダーはアゲハ、ケティ、ベクティの3人。以下、17名の子供たちが続く。
全員の馬が見えなくなってから、アキラたちは最近ずっと活動の起点にしている、トラド村へと向かった。準備をするためには湖の真ん中にあるトラドシンでは都合が悪いからだ。
「ゴードンさん。」
「行きましたかな?」
「はい。」
「ではわしらも準備に入るとしよう。」
ゴードンさんは村長。今回の革命に全面的に荷担してくれることとなっている。
「急がないと・・・アトラン将軍に気付かれるかもしれないしね。」
「そうだな。」
アキラとギオンも急ぎ足でみんなの所に戻った。
「おかしい。」
噂のアトラン将軍はずっと閉じていた両眼を開け、つぶやいた。
千里眼でアキリア王子を捜索したが、国中のどこにもいないのだ。そしてアキリア王子を連れ去った髪の長い少年の姿も。勿論テミストクレス以下デルタスからやってきた者たちの姿もまったく確認できない。
それも、ここ一週間ずっと。
一応ダークグリフィンを飛ばして捜索はしているが、見つかるか分からない。それに、ダークグリフィンでは相手方に気付かれた時、殺されてしまう危険性がある。現にアキリア王子は以前にダークグリフィンを倒している。
「ダークポイント・・・。」
アトランは気がついた。最近、カルタリカ湖周辺に、ダークポイントが広がっている。
数年前に一度ダークポイントの捜査にダークグリフィンを数頭やったが、一頭も戻ってきていない。もしそこにアキリア王子がいるとしたら・・・。
「クフト!クフト!」
「はいっ。」
突然呼ばれ、クフトは慌てて部屋に駆け込んできた。
「なんでしょう?」
「クレイド王に許可をもらってこい。ダークポイントへ行ってくる。兵を100名ほど借りる、と。」
「ダ、ダークポイントですか?」
クフトは思わず聞き返した。
ダークポイントはカルタリカ湖中心の、未開の地帯のこと。今まで行って帰った者がいるとかいないとか。いつでも闇のバリアがかかっていて、アトランの千里眼はおろか、いつもかかっている霧のせいでダークグリフィンでも中を見ることはできない。
「そうだ。今すぐ行ってこい!」
「いえ、でも何もこんな時期に・・・。」
クフトはアトランを諌めようとした。無駄だとは分かっていたが。
「そこにアキリア王子がいらっしゃるかもしれん。」
「はあ、わかりました。」
気のぬけたような返事をして、クフトは部屋を出ていった。
アトランは出ていったのを確認してから額に手を当てた。そして、両眼を閉じ、第三の眼を開く。多眼族の交魂である証。交魂のアトランには、身体変化が起こっていた。額に開いた漆黒の瞳。普段は閉じ、髪で隠しているから側近のクフトにすら知られていないが、千里眼を使うのはこの第三の眼だ。
もう一度カルタリカ湖周辺に神経を集中させる。
やはり今まで湖上だけだったダークポイントが岸にまで広がっている。たしかあの辺りには村があったはずだ。飲み込まれたのだろうか・・・。
「むっ?」
と、バリアの中から人が出てきた。人数は20人そこそこ。子供たちばかりだ。だが中には明らかにデルタスの者が交じっている。金色の髪は黒髪のミラジアリナ人の中でよく目立つ。
あれは・・・。
「アキリア王子の連れの者だ!」
アトランは両眼を開いた。
やはり王子はダークポイントにいる。アトランは直感した。
「だが、なぜ・・・?」
なぜダークポイントに?誰の手引きだ?そしてあの子供たち・・・。
「まさか・・・!」
アトランは自分の直感に驚いた。
反乱の兆しだと、自分の直感が告げている。
「革命だと?そんな者はすべて操作刑に処しているはずなのに・・・。」
もしその直感が本当ならばダークポイントへ向かっている場合ではない。今すぐに迎え撃つ準備をしなくては。
「あのー、アトラン様・・・。許可をいただいてきたんですけど・・・。」
「中止だ!!今すぐにゲルマン前王以下、将軍たちを集めよ!」
「は、はあ~???」
クフトは混乱。
何考えてんだ、このお方は?!
「革命が起こるぞ。」
「えええーー?!?!」
クフトは一人でぶっ飛んだ。
が、アトランは何事もないかのようにさっと立ち上がった。
「あのですね、それもまたいつもの<予感>ですかぁ?」
「・・・。」
返答なし。ここはイエスと受け取ろう。
「わかりました。でも、僕はそんな事ありえないと思うんですけどねえ・・・。」
アトランの長いコンパスに必死でついていくクフト。
でも、返事はない。
「どうなさったんですか?そんなに怖い顔して・・・。」
いつになく厳しい表情のアトラン。
やれやれ。
クフトは諦めた。
「・・・。」
こうなったらどこまでもついていきますよ・・・。
その2日後にはシンジたちがアルカイダへ向けて出発。そして革命決行予定の3日前にはテミストクレスたちが出発した。
「王子っ。くれぐれも御無理なさらないでくださいねっ?!」
「わかっているさ、テミストクレス。」
「ギオンさんも王子のこと、しっかりと頼みます。」
「分かってますよ。」
ギオンは相変わらずにこにこ。サイファは相変わらず無表情。
「ふー、やっと行ったか。」
アキラは大きく息をついた。
「すごい人ですね、テミストクレスさんは。」
さしものギオンもちょっとほっとした様子。
「さあ、あと3日だし、俺たちも準備しようぜ。」
「うん。」
本隊となる東軍は、トラドシン・トラドの両村合わせて、総勢約150人の大所帯。
「全体指揮はお前がとれよ、ギオン。」
「えっ?ぼ、僕?」
「当たり前だろ。反乱軍のリーダーなんだから。」
「えー、でもアキラだってデルタスの代表だろぉ。」
「あほか。これはあくまでミラジアリナ政府に対する反乱なんだぞ。俺が指揮とってどうすんだよ。それにシンジならともかく俺にリーダーはつとまらない。」
アキラはきっぱり言い切った。
「でもさ、サイファでもいいと思・・・」
「俺はやらない。」
ギオンの言葉が終わる前にサイファがばっさり切り捨てる。
「そんなあ~。サイファー。」
「というわけだ。お前やれ。」
「うう・・・。」
嘆くギオン。
「僕、エルギールと同じチームになればよかったなあ・・・。エルギールなら頼んだらやってくれるのにー。」
「あほかっ。」
両サイドからアキラとサイファの突っ込みが入る。
「おにーぃちゃーん。」
「あ、サウィーだ。」
とっとこ駆け寄ってきた小さな少女を慣れた風に抱えあげる。
「サウィーもおにーちゃんとおんなじなんだよ!いっしょにわるーいの、たおすんだよ!」
「わ、わるーいの・・・。」
<わるーいの>って、ミラジアリナ・・・?
「あれえ?おにーぃちゃんかみのけないのお?」
「あ、うん。切っちゃったからね。」
サウィーがギオンの髪をぎゅっぎゅっと引っ張った。
「へんなのーっ。」
「・・・。」
アキラは少し離れて二人を見ていた。
年の離れた兄妹・・・って感じ。
「いつもああなのか?」
そっとサイファに聞く。
「ああ。」
そっけない返事。
「ガキにかまってる暇あったらとっとと準備しろってんだ。」
サイファが珍しく不満気な表情を表した。
「お。珍しく表情あんじゃん。」
「フェザン。」
フェザン=ククルー。トラド村の若者・・・と言ってももう24になるが。つんつん突っ立った髪に、オレンジのバンダナ。目が半分隠れているせいで顔立ちはわかりにくい。
フェザンの登場でサイファはまたもとの無表情に戻ってしまった。
「あー、おしいな。お前に表情ある事なんて滅多にねえのに。」
このフェザン、なぜだかサイファが大のお気に入りで暇さえあればちょっかいを出しに来る。
「フェザンも戻るよ、あんまり時間ないんだし。」
「ないんだしーー。」
サウィーがギオンの後をついて繰り返す。
「・・・。」
サイファは無表情でそれを見つめる。
アキラは小さくため息をついた。
革命実行予定の日の前日、シンジたちはアルカイダに到着した。
「ここに来るのは初めてなんですよ。」
「そうなのか?じゃ、マカルト本家がどこにあるかなんてことは知らないとか・・・?」
「いえ、それは調べてあります。」
「よかった。」
「って言うか調べなくても見れば分かるんですよね、この場合。」
「・・・。」
シンジはマカルト本家を前に立ちとどまった。
一言で言うと・・・でかい。門の高さはゆうに5~6メートルあるだろう。横幅、縦幅にいたっては表現しようもない。シンジには地の果てまで続くのではないかと思われた。
「どうやって入るんだろ・・・。」
シンジ・エルギール・セインの3人は門の前で途方に暮れた。
が、それも数秒のことで、すぐに門の脇にある勝手口のような所から人が出てきた。
「御用件とお名前をどうぞ。」
「お前から名乗れ。」
シンジが間髪入れずに返す。
黒髪、漆黒の瞳の女性は少し微笑すると、その小さな唇を開いた。
「失礼いたしました。私は、コノハ=ヴァイオレットと申します。マカルト家の使用人です。あなた方のお名前をお教えいただけますか?」
「俺はシンジ=ヴァンドル。それにエルギール=ウェポン、セイン=リーブラ。ここの主人に会いたいんだ。」
「失礼ですが、お引き取り下さい。素性の知れない方を屋敷へ引き入れることはできませんので。」
「・・・。」
3人は顔を見合わせた。ここですごすご引き下がるわけにはいかない。
「あなたはデルタスの方ですね。なぜこんなところへおいでになったのでしょうか?」
「頼みたいことがあるからだ。」
シンジは真っ直ぐに言った。
マカルトの妖力者を味方につければ、これ以上心強いものはない。
「残念ながらあなた方を信じることはできません。特に御三方とも妖力者とお見受けしますので・・・。」
礼をしてさがろうとした使用人の女性を、シンジは引き止めた。
「待ってくれ。」
これはあんまりいいたくなかったけど・・・仕方ない。
「俺は・・・クローク=マカルトの甥、シンジ=ヴァンドルだ。ここの主人に会わせてくれ。」
「・・・?!」
使用人の表情が明らかに変わった。
「・・・少々お待ち下さい。」
中に引っ込んでいった。
「入れるでしょうか?」
「多分大丈夫だ。マカルトは血縁に執着するって聞いたからな。それより・・・主人をどうやって説得するかを考えとけよ。」
「・・・。」
確かに。それが一番の問題だ。
「キィ」
勝手口が開いた。
「どうぞお入り下さい。」
「な。」
シンジはにっと笑った。
さあ、ここからが勝負だ!
「大変だ!」
「どうした、フェザン?!」
「政府の軍勢が・・・こっちへ向かっている!!」
「何?!」
その場に緊張した空気が張り詰めた。
「数は?」
「それが・・・約50・・・。」
「50?!」
そんな少数でここを落とすつもりなのか?それとも偶然ここへやってきたのか?
どちらにしても危険だ。
「サイファとギオンにはもう伝えた。王子も早く!」
「すぐ行くさ。」
ミラジアリナの軍勢はもう村から見える距離まで来ていた。
「どうだ?」
ギオンに聞くと、のんびりとした答えが返ってきた。
「なんか、戦う意志はないみたいだよ。」
「?どういうことだ?」
はっきりと大将の顔までも確認できる所までやってきた。
どうやら大将は、女副将軍リキュア=サダルのようだ。
「アキリア王子!」
突然将軍は叫んだ。
「お話があります!こちらに敵意は有りません!どうかダークポイントへの侵入を許してください!」
「?!」
アキラはとっさに走り出した。
軍のぎりぎり手前まで来る。
「どういう事だ?!何の目的でここへやってきた?!」
叫ぶと、リキュアが馬を下りてアキリアのもとにひざまずいた。
「アキリア王子、あなたがミラジアリナ政府に反旗を翻す者たちに荷担なさっていることは既に知られております。私は・・・ミラジアリナを裏切り、こちらの側につきます!」
「ええっっっ!??!」
アキラは思わず叫んだ。
リキュア=サダルはミラジアリナの副将軍。普通に考えればアキラたちとは敵味方の関係だ。それがなぜ・・・?
「信じられない。」
いつの間にかアキラの真後ろに来ていたギオンが言った。
「あなたたちはミラジアリナ政府の者なんでしょう?それが突然僕たちの味方をするって言われても全然信じられないよ。」
「・・・そう言われるでしょうね。」
リキュアは唇の端で微笑した。その仕草があまりに悲しそうだった。
「第一、どうやって僕たちの反乱を知ったのか。極秘に進めてきたはずだ。」
ギオンの表情もいつになく硬い。
「アトラン将軍の千里眼と知才で。あの方は本当にすごいお方です。ほんの一握りの状況からすべての事態を予想します。」
「アトラン・・・。」
アキラはアトランの暗い瞳を思い出した。
「私は、ミラジアリナをこれ以上放っておく気はありません。マリオネット刑に処せられた多くの人のためにも・・・。私はその考えに同意できる56名の兵を連れて、ここへ参りました。」
「本当に信用できるのですか?」
「はい。」
リキュアの漆黒の瞳が、ギオンをまっすぐに捕らえた。
暫く時間が過ぎていく。アキラは息が詰まりそうになった。
「分かりました。」
ギオンが頭を下げた。
「同志として、御迎えいたします。どうぞ、トラド村へ入ってください。」
頭を上げた時、ギオンはいつものにこにこ顔に戻っていた。
「あなたがデルタスのおーじさまぁ?」
「ああ。・・・一応。」
もとマサキの付き人のリコアはアキラに興味津々。
「じゃあ、マサキ様の許婚?」
「?!」
アキラはマサキの名が出たことに驚いた。
「マサキを知ってるのか?」
「しってるのって・・・私の国の新しい王女様よ。知らないわけないわ。」
この小娘、まだ10歳かそこらのくせになんつーませた口調。
「それに私、マサキ様の付き人だったしね。」
「付き人?」
「そうよ。」
自信満々なリコアの瞳。
アキラはマサキのことを急に思い出して少しだけ目を伏せた。
「マサキ・・・元気か?」
「元気・・・には見えなかったわね。忘却魔法かけられて、体調崩してたみたい。」
「忘却魔法・・・?」
「マリオネット刑より一つ下の刑。記憶を入れ替えさせられるらしいの。副作用が大きいんですって。」
「・・・!」
アキラは青ざめた。
今もマサキは苦しんでいるんだろうか?早く解いてやらないと・・・。
「あら?お客様?」
そこへ、ツインハレー登場。
「あ、ユイラン様とシャロン様ですよね。」
「ええ。あなたは・・・?」
シャロンがゆったりと微笑みかける。
「私、リコア=サダルって言います。宮廷演奏会、拝見しました。非常にすばらしかったです。」
「ありがとう。でも、演奏会ってことはあなた王宮にいたのよね。どうやってここへ?」
「姉様に連れられて。私の姉様、この国の副将軍だけれど、今回はこっちの味方よ。」
「あら?もしかして、お姉様はリキュアさんとおっしゃるのでは?」
「ええ。ご存知ですか?」
「ええ。もちろんよ。」
「私たちを王宮まで案内してくださった方なんですから。」
シャロンはもう一度微笑んだ。
「じゃあ、リキュアさんがいらしているのね。」
「ねえ、会いに行ってこない?シャロン。」
「そうね。案内して下さる?」
リコアは嬉しそうに頷くと、たたたたっと駆け出した。
「・・・?」
マサキは誰かに呼ばれた気がして、窓の外を見た。
「気のせいか?」
が、目の前に・・・碧い影が現れた。
「?!だれだっっ!?」
「ひでーな。『誰だ』はねーだろ。」
碧い翼、マリンブルーの澄んだ瞳、青銅色の髪、そして額の一角。言わずとしれた水龍、ウィオラである。
青い羽根を風に乗せ、ふわりとマサキの部屋に着地した。
「お前ほんとによく記憶がぶっ飛ぶ奴だな。回路どっかおかしいんじゃねえのか?」
ウィオラはじろじろマサキを見た。
「に、してもずいぶんと女らしくなったもんだなあ。」
「は?お前、誰だ?答えろ。」
「必要ないな。」
「何っ?!」
マサキが構える間もなく、ウィオラはマサキの背後に回った。
「まあ、術を解くのはアキラたちに任せよう。術がとけたら・・・この記憶が解除されるように・・・。」
ウィオラはマサキの頭に手を置いた。
「?!」
マサキの頭の中に大量の情報が流れこんでくる。
目の前がチカチカする。
「何をした?!」
「お前の頭に記憶を埋め込んだだけだ。今は封印してあるけど、そのうちに解ける。」
「どういうことだ?」
マサキにはわけが分からない。
ウィオラはマサキの額に手を置いた。
「最期の決着はお前たちでつけるんだ。俺とライラは見てる。ヤバそうだったら手伝ってやるよ。」
「何が・・・?」
「すぐに分かる。」
ウィオラはにやっと笑った。
「何だろ・・・」
「ん?」
「お前・・・会ったことある気がする。」
「ああ。ある。」
「やっぱり?俺が忘れてるだけなのか?」
「そうだ。ま、ライラ曰くそろそろ思い出すらしいから。もうちょっと我慢してろ。」
「思い出す?お前のことをか?」
「・・・いや、全部だ。」
「全部・・・?」
「アキラのことも、シンジのことも、デルタスのことも・・・そう、<全部>だ。」
「・・・?」
マサキはいぶかしそうにウィオラを見た。
「お前・・・<アキラ>とか<シンジ>のこと、知ってるのか?」
「ああ。もちろんだ。」
マサキの中で一番あやふやな記憶。思い出そうとすると頭が割れそうなくらいに痛む。
「誰なんだ?教えてくれよ!」
「俺の友達の名前さ。それからお前も・・・。」
ウィオラは少しだけ悲しそうな顔をした。
「元気でな。マサキ・・・」
ウィオラは碧い碧い翼を翻した。
「・・・。」
一人残されたマサキは窓辺に佇む。
「ウィ・オ・ラ・・・・・・」
また単語だけがふっと浮かぶ。
今の人の名前だろうか。それとも別の言葉だろうか・・・。
「出陣!!」
「おおーーっ!」
ギオンの声で、革命軍は進軍を開始した。
現在の兵数はおよそ200。騎兵20以外は歩きなので、王宮までは20日間で達する予定だ・・・何事もなければ。
「アトラン将軍は戦いを早々に仕掛けてくるでしょう。芽は早めにつむのがあの方の主義ですから。」
「ああ。気は抜けない。だが、その時になったら考えるさ。いくらアトラン将軍とはいえ4方から攻められて対処するのは難しいだろうからな。」
アキラはにやっと笑った。
ほんとうにギオンとシンジのコンビはすごい。4方から攻めようなどとはアキラには到底考え付かなかっただろう。
「リキュアさん。むこうの戦力を教えてくれませんか?」
「あ、はい・・・。ミラジアリナ国軍は、民間兵を抜きにすると・・・おそらく2万はいないでしょう。ただ、気にかかることはあります。」
「なんですか?」
「アリアの新兵器のことです。」
「アリアの?」
「はい。<鉄砲>といって、鉛の玉をものすごいスピードで飛ばすのです。」
「あっっっ!!」
アキラは思わず叫んだ。
「どうしたの、アキラ?」
「俺・・・それでやられたことある。足に・・・穴あいた。」
「?!」
「そうです。それほどの威力はあります。」
リキュアは厳しい表情で目の前を見据えた。
リキュア・ギオン・アキラの3人はしんがりを務める。それぞれ妖馬に乗って軍全体を見渡せる位置にいた。ギオンの馬は漆黒の毛並み。リキュアは金色、そしてアキラは・・・
・・・ どこでそんなもの相手にしたんだよ
リングに乗っていた。
リングが他のどの馬よりも機動性に富んでいたからだ。
「まだ俺らが3人で旅してた頃だ。ある島で、ビルラに操られてる妖石の闇商人と戦った時・・・そいつが持ってた。」
「デルタスにまで・・・普及しているのですか・・・。」
リキュアは瞳を伏せた。
「あれは恐ろしい武器です。槍や剣で対抗できるようなものではありません。」
「そうか?」
アキラにはそうは思えなかった。
「あのくらいなら剣ではじける気がするけど。」
あの時は油断したが、銃口と引き金さえ見えれば、避ける自信がある。
「それってさあ、アキラ、君だからできるんじゃないの?」
そう言ったのはギオン。
「うーん、そうかなあ。」
「少なくとも私には無理です。盾を強化するしか策はなさそうですね。」
「いえ。大丈夫ですよ。」
「え?」
リキュアは驚いてギオンを見た。
「何のために僕たちが妖力者になったと思っているんですか。そういう卑怯っぽい武器は、使えなくしてしまえばいいんです。」
「・・・?」
リキュアは、いぶかしそうな顔をした。
「まあ、とにかく任せてください。」
ギオンがにっこりと笑った。
そのころ、ギオンが兵を上げたという噂は国中を駆け巡っていた。
「革命軍・・・?!」
「ああ。<あの>ダクト=リフェルさまの御子息だそうだ。」
「<黒い牙>の?!」
「あの方の息子なら・・・」
「この国を変えられるかも!」
士気が国民に広まっていく。
「東西南北、4方で兵を上げたそうだ。」
「こうしちゃいられねえ!」
「待て!俺も行く!」
人々は武器を手に、反乱軍に合流した。
革命軍、現在約2000・・・
「おかしいね。」
「ああ。」
「ほんとうに。」
「・・・。」
ギオン・アキラ・リキュア・サイファの4人は、頭を悩ませた。
「何がですか?」
のんびりとユイランが聞く。
「いや、いいんだ。気にしないで。」
ギオンはにっこり笑ってごまかした。
「それより、救急部隊の準備は大丈夫ですか?」
「ええ、だいたい。」
ユイラン・シャロンなど、戦闘に参加しない人は、救急にまわっていた。もちろん、サウィーなどの子供なんかも。
「それはよかった。」
ギオンたちが懸念していたのは、あまりに帝国群の抵抗がなさ過ぎる、ということだった。いくつかあった関所も、すでに3万人近くに達していた革命軍をあっさりと通した。まあ、たった二万ほどの帝国群には抵抗のしようがない、と言えばそうなのだが・・・。
それに、思いのほか人数が膨れ上がってしまったがために移動が困難になってきた。
今のところ100人単位でリーダーを決め、そのリーダーを通してアキラたちが指揮をとる、という形をとってはいるが全員をスムーズに動かすのは大変だ。何しろリーダーだけでも三百人近いのだから・・・。
「何?ミラジアリナからの使者?」
「はい。」
「とおせ。」
アリア王、エデンは考えを巡らした。
何の話だろう?もしや、ツインハレーと踊り子の件か?
「エデン王。失礼ですが、急を要する事態なので、ご挨拶は省かせていただきます。」
「うむ。何用だ?ミラジアリナの使者よ。」
「ミラジアリナで反乱が起こりました。」
「何?!何故に?!あれほど平穏に治めていたはずだ。」
「帝国を乗っ取ろうとする不届き者がおりまして・・・その者がデルタスの王子、アキリアと手を組んで革命を起こしたのです。つきましては、アリアに援軍の要請と、武器の支援を申し上げに参りました。」
「デルタス国の王子・・・?!何たることだ。ウェスタは何をしておる!」
エデン王はミラジアリナの実態を知らない。
ミラジアリナでは政治に妖力を使うこと、すなわちマリオネットのことも・・・。
「すぐに国軍を招集せよ!総力を挙げてミラジアリナを支援する!」
「どうしたの?」
にわかに王宮内が騒がしくなってきたことに、若き皇女、エヴァは不安を抱いた。
「ただいま、ミラジアリナで反乱軍が騎兵いたしまして、その援護に向かうため、国軍の招集と銃器類の確保が行われている次第であります!」
「反乱ですって?」
エヴァの脳裏を碧い瞳・漆黒の瞳をもつ者の姿がよぎる。
「まさか・・・。」
もちろん、貿易商を営むカイティの耳にもその噂は入ってくる。
「マサキ・・・!」
きっと事の発端はあいつだ。
「無茶するなって言ってたのに・・・。」
「革命軍と提携?!それはまことか?!」
「はい。グモンが、たった今到着いたしました。」
「アキリアめ・・・。」
ウェスタは体中が震える思いだった。
「とんでもないことをしでかしてくれるわ・・・。」
「・・・ということはマサキも必ずそこに!」
1週間ほど前に王宮に帰還していたメシアが言った。
「・・・。」
ウェスタは頭を抱えた。
どうすべきだろう?やめさせるか、そのままにしておくか、もしくはデルタス軍の応援を派遣するか・・・?
「クローク!メシア!ティラ!」
「はいっ。」
「今すぐにミラジアリナへ向かい、王子アキリアおよび王女ヴェルナの安全を確保せよ!」
「・・・ということは連れ帰れということですか?」
「そうは言っておらん。革命に荷担するも、止めさせるもそなたたちの意志のままに。必要ならば、隊長たちを連れて行くといい。あまり大人数にならないように。」
「はい!」
親子3人、そろって返事をした。
「あれ?」
マサキは床に落ちている碧い羽根を拾い上げた。
「この間の人のかな?」
碧い翼を持った人。エンジェル(聖天使)かとも思ったが、どこか違う気がする。
透き通った碧。自分の瞳と同じ色・・・
東軍の王宮への道のりは、半分を越した。
「一つだけ・・・可能性があるんだけど。」
「何だ?ギオン。」
「もし・・・アリアの援軍を頼まれたら、僕らに勝ち目はない。」
「アリア・・・援軍?!」
「アリアは東の国だろ。来るとしたら、僕らの後ろから・・・そして前から帝国軍の挟み撃ちに遭ったら、もうどうしようもない。」
「・・・!」
「そうなる前に王宮にたどり着かなくちゃいけないな。他の軍と合流しなきゃ。」
「こういう時にキャラがいたらなあ。ひとっとびに偵察へ行ってくれるのに。」
「無い物ねだりしてもしょうがないよ、アキラ。ねえ、リキュアさん。」
「そうですね。今は目の前のことだけを考えましょう。考えていてもどうしようもありませんから。」
「それから、あと一週間で王宮に到着する予定なんだけど、なるだけ無血開城したいんだ・・・って言っても無理だろうな。でも、なるだけ争いは避けたい。他の部隊にもその旨は伝えてある。」
「それは俺も同感だ。」
なるだけ無駄な争いはしたくない。
「あと問題なのはヴェル=アポートに入ってからなんだ。そこで戦となると・・・一般市民を巻き込みかねない。ヴェル=アポートに着いたら・・・もちろん、『到着できたら』の話だけど、今の時点で3万5千いることだし、大半は『囲み』を作って、精鋭の1000人前後で王宮に突入した方がいいんじゃないかとおもうんだ。」
「ああ、そうだな。」
「それとさあ、今向かってるマーラのことなんだけど・・・。」
「・・・ギオン、お前・・・本当にすごいな。」
「え?」
すべての事態を予測し、その全てへの対応策を考える。そう、まるでシンジのように・・・。
「なあ、ギオン。お前さあ、もしこれが終わったら、デルタスに来ないか?」
「ん?」
「シンジとコンビ組んでさ、俺と一緒に国を動かしてみないか?」
「・・・。」
ギオンは、ただゆったりと微笑んだ。
ほんの少しだけ、悲しさを含んで・・・。




