15.忘却
ヴェル・アポートの南の外れにあるミラジアリナ王宮。
いや、王宮というよりは城と言った方がいいだろう。まるで外敵を寄せ付けまいとする頑強な城壁。天に少しでも近づこうとする意志があるような、高い建物。
「すげ…。」
マサキは思わず絶句した。
もちろん、キャラもリングもその大きさに圧倒されている。
「すぐ王宮に行こう。ちょっとのんびりしすぎたよ。」
ギオンが言った。
「待って、すぐ羽根を消すから。」
キャラはそう言うと、目を閉じた。
すると…
「あ。消えた。」
キャラの背にあった赤い翼がすうっと消えたのだ。
「これで人間の女の子にみえるでしょ?」
「うん、ばっちり。」
ギオンはにこにこ微笑んだ。
「けっ。」
マサキは相変わらずキャラと眼を合わそうとしない。
「じゃあ、行こうか。」
ギオンがにっこり笑ってリングの手綱を引く。
かぽかぽ…
しばらくして、城門が見えてきた。門番らしき人が4人ほど立っている。
「止まれ。」
マサキたちは門番にはばまれた。
「誰だ。名を名乗れ。」
マサキはリングから降りた。
「夢幻三夜星のヘキルです。他の二人は先に到着しているはずなのですが・・・。」
「少し待て。」
門番は中に入って行った。
やれやれ。久しぶりの<王女言葉>は疲れるよ。
しばらくして、門番が戻ってきた。
「どうぞお入り下さい。」
重い門が開けられる。マサキたちはそのまま入って行った。
途中でリングは馬小屋に連れて行かれ、マサキ・ギオン・キャラの3人になった。
城の中に入ってからも、長い長い廊下をひたすらに歩き続け、一番奥と思われる宿泊室の棟までたどり着いた。そこから更に階段を上がって、4階。
「ユイラン様とシャロン様がお待ちでございます。」
ぎぎぃぃ、と荘厳な造りの扉が開けられた。
「ヘキル!」
ユイランとシャロンの嬉しそうな顔。
リキュアとモエトも一緒だった。
「ユイラン!シャロン!」
マサキ…ヘキルは二人に駆け寄った。
「どこ行ってたのよ!心配したんだから!!」
「へへ。わりい。」
ヘキルはぽりぽり頭を掻いた。
と、双流星は後ろの二人に気付いた。
「どちら様?」
「あ、僕、ギオンって言います。一応、医者・・・」
「<やぶ>つけなくていいの?」
キャラが横からちゃちゃを入れる。
「二人に助けてもらった。特にギオン。俺いっぺん死に掛けたしな。」
ヘキルはけけけ、と笑う。
「死に掛けたって・・・いったいあなた何やってたのよ?!」
「後で話すよ。」
「で?そこの可愛らしい女の子の名前は?」
「ああ、こいつ?キャラ。」
「ポカッ」
キャラの拳がヘキルの頭を殴る。
「仮にも恩人に向かってこいつはないでしょう?」
「うっせえな。」
「やめなよ。」
ギオンがヘキルをなだめる。
「まあ、いい。」
ヘキルが先に戦線離脱した。
「ヘキル。ミラジアリナ国王に御挨拶に行ってきましょう。」
「え?」
「ヘキルが到着しだい・・・ってことになってたのよ。」
シャロンがにこっと微笑む。
「早く着替えちゃいなさい、ヘキル。そんな汚れた服で謁見するわけにいかないわ。」
「…はーい。」
ヘキルはしぶしぶ準備を始めた。
「それと…ギオンさんとキャラさんでしたっけ?ここで待っていてくださると嬉しいわ。」
「はい。」
ギオンはあいかわらずのにこにこ顔で答えた。
国王、クレイド=ミラジアリナ。生粋のミラジアリナ人で、黒髪、漆黒の瞳、白い肌を持つ。歳は16。顔立ちは…はかなげ、という表現が一番ぴったりくるだろう。闇の帝国の王というよりは、清浄な空気の中でしか生きられない妖聖霊王といった感じだ。
だが、ヘキルはクレイドを見た瞬間に凍り付いた。
闇の力。濃い闇の気配。
「…!」
クレイド王は操られている!
ヘキルは愕然となった。
「お初にお目にかかります、ミラジアリナ国王 クレイド様。夢幻三夜星のシャロン、ユイラン、ヘキルでございます。今回は、ミラジアリナの王宮で公演させていただく機会を設けてくださり、まことに…」
シャロンの長―い挨拶。多分この後王様も同じくらいしゃべるだろう。
でもヘキルはそれどころではなかった。王が操られていることにショックを受けていて、王がヘキルの名を呼んだことにすら気付かなかった。
「ヘキル!呼ばれてるわよ!」
「え?」
ヘキルは小声でささやくユイランの声ではっとなった。
「ヘキルよ。そなたは見たところミラジアリナの者であろう。出身はいずこなのだ?」
「アルカイダでございます。」
ヘキルの言葉に、王の側に控えていた大臣(らしき人)や、兵士たちの間にざわめきが走った。
「ほう…アルカイダ・・・。」
「はい。」
ヘキルはできるだけ微笑んだ。変な印象は持たれたくない。
「ゆっくりしていくとよい。夢幻三夜星の方々よ。ミラジアリナは良い所ぞ。」
「ありがたき幸せ…。」
三人はそろって頭を下げた。
部屋に戻るなり、ユイランが突っかかってきた。
「ちょっとヘキル。あなたなんでぼーっとしてたのよ。」
「……クレイド王は操られてる。」
「え?!」
「何だって?!」
「本当?」
ユイラン・ギオン・シャロンの声が入り乱れた。
「おそらく事実ね。この城の中、操られてる人でいっぱいよ。」
キャラはこともなげに言った。
「それと、気になるのはあの塔・・・。」
キャラは窓の外に聳え立つ塔をあごでしゃくった。
「闇のバリアが張ってある。おそらくシンジがいるのはあれね。」
「シンジ・・・。」
ヘキルはこぶしをぎゅっと握った。
「シンジって、あの笛の名手だっていう・・・。」
シャロンが言う。
「そうだ。そして、俺の兄貴みたいな奴。俺の大事な人の一人だよ。」
ヘキルは目を細めて塔を見た。
黒い力で完全に外界と隔離された塔。あの中に、シンジがいる!
「完全に閉じ込められてるみたいね。大丈夫かしら・・・。」
キャラが少し心配そうな声を出した。
すると、ヘキルはあっけらかんとした声で答えた。
「シンジなら大丈夫だ。それより俺は、今ここにいる奴等の方が心配だ。」
「…それって、私たちのこと?」
ユイランが聞く。
「そう。」
「確かに。ユイランさんやシャロンさんは妖力に対して無防備ですからね。」
「シンジは強い。俺よりずっとな。だから大丈夫だ。」
ヘキルはきっぱりと言い切った。
「確かにそのとおりよね。シンジが簡単にやられるはずないもの。」
キャラもふぅ、と息を吐いた。
「それより、あなたたちの心配をするべきね。行動する時は私かギオンかマサキ、3人のうちの少なくとも一人といっしょにいた方がいいわ。なるだけ一人で行動しないように。」
「わかったわ。」
シャロンがにっこり微笑んだ。
「えっとあなた、キャラさん…だったかしら?」
「そうよ。」
「<マサキ>じゃなくて<ヘキル>でしょう?今のうちからそう呼んどかないといざって時に間違えるわよ?」
ユイランがチェックを入れた。
「ま、それもそうね。」
「じゃあ僕もそうしなくっちゃ。」
「別に俺はどっちでもいいんだけど。」
最近では、マサキでもヘキルでも、それが自分だと認識できるようになった。<ヴェルナ>はちょっと無理かもしれないけれど。
「とにかくあなたはヘキルよ。ここで、マサキって名を口にしちゃだめよ。わかった?」
シャロンがヘキルに言い聞かせるように言った。
「はーい。」
ヘキルは素直に返事をした。
確かにその時シンジは、のんびりと昼食を摂っている所だった。
「おいトーマ!残すなよ。もったいねえぞ。」
「シンジ様…この状況で良く食べてられますね。もう1週間以上も監禁状態なんですよ?」
「いいじゃねーか。そのうちチャンスはやってくる…ってな。」
シンジは皿のスープを最後の一滴まで飲み干した。
「本当ですかあ?」
トーマは半信半疑。
「本当、本当。」
「お引き取りします。」
これまた操られた女の人が皿をあげに来た。
「なあ、俺ら以外に王宮に誰か来たか?」
シンジがさりげなく聞く。
「アリアの音楽隊が3人。それにそのお供の従者が2人。」
「へえ。アリアの音楽隊…ね。」
シンジがにやっとした。
「こりゃあもしかすると…王女の御到着かあ?」
このバリアの中から気配を読み取ることはできない。だが、その音楽隊にマサキがいるような気がした。これは完全にただの直感だった。
「そろそろ潮時…かな。」
シンジはずっとほったらかしになっていた弓矢を取りだし、手入れを始めた。
次の日に行われるミラジアリナでの演奏も、アリアでやったのと同じ宮廷演奏会。
ただ違うのは、夜ではなく夕方頃に行われる、ということ。しかも外。この寒いのに何考えてんだ?!
「美しいアリアの楽士よ。今宵はどのような曲を聞かせてくれるのだ?」
クレイド王がユイランに聞いた。
「アルティメラからバラードまで。様々な曲を御用意させていただいております。」
ユイランはにっこり笑って答える。
「それは楽しみだ。」
クレイドの側にいたおじさん・・・前王ゲルマンが偉そうに言った。
このおっさんは好きになれないなあ…とヘキルは感じていた。おそらくクレイド王を操っているのはクロークの弟にあたる、このゲルマン。自分の子を操るなんて・・・。
「では始めましょうか、シャロン、ヘキル。」
「はい。」
シャロンだけが返事をして、ヘキルはもう少しの間ゲルマンの方を向いていた。
「ヘキル。」
「ん?あ、ああ。悪い悪い。」
ヘキルも定位置につく。
打ち合わせはいらない。すべては3人のアドリブ。それだけでも芸術は作り出されるのだから…。
踊りおわったヘキルは、どこかからの視線を感じた。
「…?」
見渡すと、その視線はクレイド王子のもの。だが、何かおかしい。
「あ!」
思わず小さく声を上げた。
闇の支配が薄まっている。なぜだ?
ヘキルは天を仰いだ。太陽は沈み、逆の地平線からは半月が顔を出しはじめている。
「踊り子、ヘキル。」
「はい。」
クレイドに呼ばれて慌てて返事をした。
「そなたは本当に美しい。我が国にはマサキという姫がいる。私はまだあったことがないが、噂には絶世の美女だと聞いている。」
「…。」
それは俺だよ。何だよ、その絶世の美女ってのは。
ヘキルは心の中でつぶやく。
「そなたとマサキと、どちらが美しいのだろうな…。」
比べるな、そんなもん。
ヘキルはちょっと目をそらした。
「それは、比べるまでもありません。マサキ様のほうがお美しいでしょう。」
一応答えておく。でも、視線は合わさない。
なんだかあの視線を意識すると、変になりそうだから。
「…くっ……。」
後ろの方でユイランが必死で笑いをこらえているのが分かる。
「それだけに本当におしい、その右眼。」
「…。」
ヘキルは無言。
これ以上答えればボロが出そうだし…。
「なぜそのような事になったのだ?そもそもそなたは、どういう家庭で育ったのだ?」
「…!」
やばい。そんな事、答えられない。どうしよう…。
ヘキルが答えあぐねていると、女剣士が助け船を出してくれた。
「クレイド王。人には聞かれたくないこと、というものがございます。その質問は、少しぶしつけではないでしょうか?」
「ん?ああ、そうだな。確かに、過去を聞くのは失礼にあたる。すまぬ、ヘキル。許してくれ。」
「いいえ。」
ヘキルはほっとして微笑んだ。
「クレイド王。」
ヘキルはクレイドの側へよった。
「一緒に…踊りませんか?」
ヘキルは最上の微笑みをたたえて、クレイド王に右手を差出す。
が…。
「ガタタン!!」
クレイドは突然立ち上がった。
「私に触れるな!!」
「え?」
ヘキルは慌てて手を引っ込める。
「ははは、すまぬ。照れておるのだ、この子は。あなたのように美しい姫君を前にして。」
ゲルマンが豪快に笑い、まわりからもひそやかに笑いが漏れたが、当のクレイドは真っ青な顔をしてその場に立ち尽くしている。
「すみません、クレイド王。失礼をいたしました。」
ヘキルはそのままユイランたちの所まで戻った。
「変だよな。どう考えても。」
「ええ。でもとにかく、今は場を繕ってらっしゃい。」
ユイランがヘキルを押し出した。
「ギオン…あいつ(クレイド)の操作が薄まったのはなぜだと思う?」
「僕は直接感じたわけじゃないから何とも言えないな。ただ、そのクレイドって王も一応妖力者なんだろう?そういう外からの力に抵抗することくらいはできるんじゃないかと思うよ。」
「そうか…。」
前王ゲルマンに(多分)操られているクレイド。もし本当にそうだとしたら、この国は実質ゲルマンの支配下にある事になる。
「事態は思ったよりも複雑みたいだね。」
ギオンが苦笑した。
「とにかく、これからどうするのよ?」
キャラが聞く。
「とにかく…シンジをあの塔から出して、俺はまともなクレイド王にわけを話したいから、ゲルマンに操作をを解かせて…。」
「そんな事聞いてるんじゃないわよ。それをするために<どうするのか>を聞いてるの!」
「今から考える。お前も考えろ。」
「なっ…!」
キャラの顔が引きつった。
「何言い出すのよ、あなたは?!何も考えずにここに来たわけ?!」
「いや、まさかクレイド王が操られてるとは思わなかったからさ、どうしようもない。」
「…。」
キャラは心底あきれた顔をした。
「とりあえず、シンジに俺が来てることを知らせないとな。ま、シンジのことだからだいたい分かってる気もするけどな。」
ヘキルはにやっと笑った。
月はもう天頂近くまで昇っている。
ヘキルは闇夜に紛れてシンジのいる塔に一番近い窓のところまで来た。それでも塔までの距離が20メートル前後はある。塔の最上階をうっすらと黒いバリアが包んでいるのが見えた。
小さな窓があるが、人影は見えない。光だけが漏れている。
「うまく破れるかな?」
ヘキルは右手に妖力を集めた。そしていつものように、手のひらの上にボールにする。
あの窓。あの窓の大きさだけでいい。それだけ分のバリアが壊せれば、シンジは俺の気配に気付くだろう。
「よしっ。」
ボールを投げようとしたマサキの背後から、突然声がした
「ヘキル。」
「?!?!!」
ドッキーーン
ヘキルは慌てて振り向く。
「こんな所で何をしておるのだ?」
「ク、クレイド王…。」
透き通った漆黒の瞳。今や、完全に支配から外れているクレイド王が立っていた。
「先ほどはすまなかった。ぶしつけな質問をした挙げ句に、ひどい態度を取ってしまった。」
「いえ。」
ヘキルはにっこりと微笑んだ。
「それはそうと、なぜこんなところへ?」
「え…その、あまりにも月が奇麗なので…。」
慌てて答えたが、満月ならともかく半月で奇麗というのはちょっとおかしかったか…と気付いた。
だがクレイドはそんな事気にもかけていないようだ。
「そうか。月は…唯一の私の友なのだ。」
「そうなのですか?」
「私が外に出られるのは、月が天球にある時のみ。それ以外は、中に押し込められているのだ。」
「それは…操作されている、ということですね。」
「…!なぜそれを…!」
「私も多少なりとも妖力を使えます。初めてお会いしてからずっと闇の支配を感じておりました。」
そう言いつつもマサキは心の中で納得した。
そうか、月が関係していたのか。
「妖力を…それなら話してもよいだろうか?私のこの身体の事を…。」
クレイドの瞳が哀愁を帯びてヘキルに降り注いだ。
辛そうな、苦しんでいる瞳。あの時の<アキラ>と同じだ…。
ヘキルの心臓がドクン、と脈打った。
「私はさっきそなたの手を拒んだ。それは、仕方のないことだったのだ。」
「…と言いますと?」
「私のからだには闇の力がためられている。それは、私の触れた相手のからだに流れ込んでしまうのだ。そして相手を死に至らしめる…。」
「…!」
ヘキルは驚いて目を丸くした。
「王族の防御プログラムのようなものだと前王には聞いている。だが、前王は、人に触れても大丈夫だ。もしやこれは、私だけなのではないか?」
クレイドの視線とヘキルの視線が重なった。
「私は物心着いた時から人間に触れた記憶はない。唯一、一度だけ乳母が私を抱き上げたことがある。その乳母は…死んでしまったよ。私の身体から闇の力が流れ込んで…。」
クレイドが悔しそうな瞳になった。
「温かい腕がどんどんと冷たくなっていった。悲しかったよ。それ以来、人に触れることはない。」
「クレイド王…。」
「私はそなたに触れることはできない。もちろん、他の誰にも。・・・いや、一人だけいる。」
「一人だけ?」
ヘキルは聞き返した。
「マサキだ。」
「!!!」
ヘキルは思わず硬直。
「その姫は私よりも強い力を…大きな器を持つという。だから、彼女なら私の身体のなかの闇を全部流し込んでも生きているだろう。」
「…早くその方に会えるといいですね。」
ヘキルは無理矢理微笑んだ。が、顔が引きつっている。うまく笑えない。
ヘキルは無理に笑うのをやめた。きっとクレイドの眼にも悲しみを帯びたヘキルの顔が映ったろう。
「クレイド王、あなたも大変御苦労をされてらっしゃるようです。でも、いつかは全てがうまく行くようになりますよ。私も、少し前までは夜の闇しか知りませんでした。しかし、今ではある人に太陽の輝きを教えてもらったのです。」
そう。マサキも夜の闇の中で育った。アキラに会うまで。導きの龍としての旅が始まるまで。
「そなたも苦労したのだな。」
クレイドは空を見つめた。
太陽のような輝きを持つアキラの瞳とは正反対の、闇をたたえた漆黒の瞳。
「クレイド王もいつかその時が来るでしょう。」
ヘキルは少しだけ微笑んだ。
クレイドもかすかに微笑みを返した。
「そなたは…良い人だ。このような私の話をまともに聞いてくれたのはそなたが初めてだ。」
「そうなのですか?」
「共に悲しんでくれたのもそなただけだ。ヘキル…。」
クレイドがヘキルの瞳をじっと見つめる。
悲しそうな、今にも壊れてしまいそうな瞳。
「…そなたが王女ならよかったのに…。」
「!!」
ヘキルの心臓がドクンと脈打った。
クレイド…ごめん・・・ごめん!
ヘキルの眼から涙が溢れ出す。
「どうしたのだ?」
「悲しくなっただけ…。」
この人は、ただ地位を安定させるためにに私を求めていたわけではなかった。そうするしかなかったのだ。
「ヘキル…。」
クレイドはただその場にたたずんだ。
「ごめん。…クレイド…。」
「え?」
もう騙せなかった。真実を隠していることはできなかった。
ヘキルは右手でクレイドの手を掴んだ。
「ヘキル!!」
バリバリバリ……!
闇の妖力が突然流れ込んできた。左腕のダークネス・シールドと反応しているようだ。
苦しい。でも…
「何をするのだ!死んでしまうぞ!」
「はあ…はあ…。」
ヘキルは大きく息をついた。金に輝くアームアナメントに、ひびが入っている。
どうやらクレイドの中の<闇>は全てヘキルの方に移ったようだ。
「生きて…いる?」
クレイドは信じられない、といった表情でヘキルの顔を覗き込んだ。
そして、ヘキルの手を取り、自分のからだにもう妖力が残っていないことを確かめる。
「大丈夫なのか?ヘキル?そなたは…!」
ヘキルは無言で包帯を巻き取った。涙のせいで接着剤が剥がれていた。
どこまでも透き通るマリンブルーの瞳。
「マサ…キ……!」
「ごめんな、クレイド。本当に…!」
ヘキル…マサキはクレイドの手を振り払って駆け出した。
正体をばらしたからには、ここにはいられない。
「みんな!すぐここを出るぞ!」
「え?!」
突然駆け込んできたマサキに、全員が疑惑の視線を向けた。
「クレイドに正体ばらした。今すぐ逃げるぞ!」
「何やってんのよ、もー!!」
キャラが目をつり上げる。
マサキはさっと普段着に着替えた。こっちの方がずっと動きやすい。ライラの剣を背負い、投擲を装備する。
「ギオン!ユイランとシャロンをすぐに城の外へ!」
「わかった。」
「キャラ!リングを連れてシンジのいる塔に来い!」
「命令しないでよ。」
そう言いつつもすでに翼を出し、窓から飛び立とうとする。
「俺がバリアを解除したらすぐに脱出!各自トラドシンに向かうこと!以上!いそげっ。」
マサキはすぐにキャラとともにシンジのいる塔へと向かった。
「すごい統率力・・・有無を言わさないというか・・・。」
残されたユイランがぽつりとつぶやいた。
「でもすごく的確でしたね。さすがは導きの龍、といった所ですか。」
ギオンもふう、と息を吐いた。
「じゃあ、行きましょう。王女の指示にしたがって。ついてきてください。城を脱出しますから。」
ギオンはにこにこ顔でユイランとシャロンを導いた。
「あの…どういうことでしょう…?」
一人事態が飲み込めていないのは、疾風術師モエト。
「あのー、えーと。つまりぃー…ヘキルはマサキだったって事ですねっ。」
にっこり笑って言うギオン。
「それでは、急ぎますので。」
「え…?」
モエトは一人部屋に取り残された。
「え……?」
「あのバリア…結構強かったわよ。壊せるの?!」
「壊す!」
できるのできないの言ってる場合ではない。
キャラはいったんマサキと別れ、リングのいる馬小屋へと向かう。
マサキは全力で塔へとダッシュ。
「頼む!壊れてくれ!!」
マサキはできる限りの妖力を集めた。
「破壊光線!!」
一気に碧い光がバリアへと向かう。
「バリバリバリ……!!」
碧い光と黒い光が混雑する。
どうだ?!破れたか?!
「マサキ?!」
「シンジ!」
懐かしい声が光の向こうから聞こえてきた。
「どういう事だよ、これは。」
「すぐにキャラが来る。キャラに聞いてくれ。」
「ああ、あいつ?何でお前がキャラのこと知って…。」
「シンジ!早く行け。時間ねーんだ!」
「ああ、分かった。」
と、シンジの後ろに小さい子供がくっ付いている。
「誰だ、こいつ?」
「トーマってんだ。俺の義弟分。」
「何でもいいや。」
そこへ、リングとキャラが駆けてきた。
「シンジ!」
… マサキ!
それぞれに御主人の名を呼ぶ。
が、反対方向からは城の兵士が駆けてくる。
「シンジ!先行け!そのちびを危険な目に合わせたくなかったらな!俺がいったん食い止める!」
「あほ、お前。逆だよ。お前が先に行くんだ。」
シンジが軽々とマサキを担いでリングの背に乗せた。
「行け。」
「シンジ!」
「あれを食い止めるのはお前には無理だ。」
「…。」
マサキは背に背負っていたライラの剣をシンジに手渡した。
「これ使え。短剣よりは使えるはずだ。でも…絶対に無理するな!」
「わかってるさ。」
シンジがにやっと笑った。
「さあ、早く行け!」
リングは弾かれるようにして走り出す。
「キャラ、トーマを頼む。先に行っててくれ。」
「はい。」
トーマの小さな手をキャラに引き渡すと、シンジはおもむろに弓矢を取り出した。
「久々だなあ。戦いは。」
にやっと笑って、弓をつがえる。
「まてっ、リング!いったん戻るぞ!シンジがまだ…!」
… 奴は大丈夫だって言ったのはどこのどいつだよ
「そりゃそうだけど…。」
マサキは口篭もる。
城門が見えてきた。
「リング、お前はシンジを連れに戻れ。こっからなら俺は一人で行ける。」
… そうだな
リングはスピードをゆるめた。
マサキはひょいっと飛び降りる。
「早くしろよ。シンジだって完全完璧な人間じゃないんだから。」
… わかってる
リングの後ろ姿を見送ってから、マサキは目の前にまで迫った城門に向かった。
「そこまでだ。マサキ=ミラジアリナ!!」
「?!?」
突然の大声。
マサキはとっさに辺りを見渡した。
「逃げられるとでも思ったか?マサキ。」
「ゲルマン…!」
マサキは自分の叔父にあたるその人物をきっと睨みすえた。
「最初からお前がマサキだということは分かっていた。もう無駄だ。観念しろ。」
「くっ。」
いつのまにかまわりを全て黒いローブを来た妖力者たちに囲まれていた。
「可愛い姪だ。手荒なことはしない。ただ少し、黙ってもらおうか…。」
ゲルマンの瞳が暗い光を帯びた。
マサキはとっさに身体に妖力を集める。臨戦態勢。
「йкξξΨ∮ыя……」
いっせいに聞いたことのないような言葉で呪文を唱えはじめる妖力者たち。
マサキも妖力を発動…しようとした。
「アイスウォール!」
が、できない。
身体に給っていたはずの妖力が保ちきれずに放出されてしまう。
「しまっ…た…!」
さっき破壊光線で力を使いすぎた。
がくん、と膝をつく。息が荒い。
「もう終わりか?新しい我が国の王女よ…。」
「くっ…そっっ」
妖力者たちの手から黒い光…闇の妖力が放たれる。
マサキに、避けるすべはない。
「うわあああぁぁ!!」
全身を雷が貫くような感覚がはしる。
「パーン!!」
アームアナメントが耐え切れずに吹っ飛んだ。ダークネス・シールドが闇の色を帯びた。
「はっはっはっはっは……」
ゲルマンの高笑いだけがその場に響き渡った。
「パッキーーン!」
「?!」
クロークのはめていた金の指輪が、突然粉々に吹っ飛んだ。
「どうしたの、父さん?」
ティラが不思議そうに聞く。
「マサキが…支配された。」
「えっ?どういうこと?」
状況を理解できないティラ。
「この指輪はマサキのアームアナメントと対で創ったものだ。だから、これが壊れた時はマサキの方も吹っ飛んだ時。つまり…マサキのダークネスシールドが発動した時だ。」
「ど、どういうこと?!」
「マサキが大量の闇の妖力を浴びるとこうなる。つまり…」
「そ、それじゃあ…!」
「すぐにウェスタ王に知らせなくては。」
クロークは王の間に向かって歩を進めた。
全ての矢を放ち終えたシンジのもとに、タイミング良くリングが到着した。
「マサキは?」
… 先に城門のとこへ置いてきた
「そうか。俺たちも脱出しよう!」
シンジはひらりとリングに飛び乗った。
「正門はマサキがいるんなら避けた方がいい。西門へまわろう。」
リングが方向転換する。
… お前本当に強いんだな
「え?」
… マサキに話は聞いてたけどそれ以上だ
「何がだ?」
… ……
リングはそれ以上言わなかった。
シンジから感じるのは、マサキと同等か、それ以上の潜在能力。ウォールの時のように威圧感はないが、やはり恐ろしいほどの力を感じる。
「いたぞ!あれだ!」
「?!」
見つかった!
… しっかりつかまってろ
リングはさらにスピードを上げた。
騎兵たちはどんどん後ろに遠ざかっていく。いや?一頭だけ先頭に踊り出た馬がいる。
「何だ、あいつ?!」
「待てぇい!」
叫びながら追ってくるのは…キャトーだ。
額に青筋を数本浮かべながら、ものすごいスピードで追ってくる。
「げっ。」
シンジは思わず顔をしかめた。
「シンジ=ヴァンドル!!ミラジアリナ副将軍、キャトー=ミリオンの名にかけて貴様は逃がさんぞお!!」
… 何だあいつ
リングもちらっと振り向く。
… でもあいつの乗ってるのは妖馬だな
「ああ。」
… しかも…速い!
漆黒の毛並み。キャトーの巨体を乗せながらもまったく疲れた様子はない。
「大丈夫だ。追いつかれることはない。だが…」
このままでは振り切ることも不可能だ。
… おいこの辺に湖か川はないのか?
「たしか塔から見えた。もう少し左の方に湖があったはず…。でも、どうする気だ?!」
… 振り切る 湖の大きさは?!
「結構でかい。」
… それならいい
「まさかお前泳ぐ気じゃないだろうな?!」
… 泳ぐのは奴のほうだ
目の前に湖が見えてきた。
対岸は見えない。相当大きな湖なのだろう。
「おい、お前湖に突っ込む気か?!」
シンジが慌てた。だがリングはスピードをゆるめず湖に向かう。
「はっはっは!諦めたか!おとなしく捕まれ!!」
後ろの方でキャトーがわめいている。
リングは四肢に妖力をまとった。
「?!」
「湖に突っ込んで…死ぬ気か?!捕まるくらいなら死んだほうがまし、ということじゃないだろうな?!」
キャトーもさすがに慌てはじめた。
と、リングの前足が湖に突っ込んだ…!
「え?」
シンジは我が眼を疑った。
減速もせずに湖に突っ込んだリング。そのリングが水の上を…走っている?!
… 気にするな俺の能力だ
「お前妖馬だったのか…。」
… 気付いてなかったのかよ マサキの使い獣だって言っただろーが
「ん、まあ、慌ててたからな。そういや俺としゃべってる時点でおかしいんだよな。気付きゃよかった。」
… 奴等を振り切ったらマサキを迎えに行かねえと
「あ、そうだそうだ。…大丈夫かな、あいつ…。」
シンジは胸騒ぎがした。
まさか…とは思うが……
「キャラ!どうだった?!マサキは?!」
シンジはマサキの捜索から戻ってきたキャラに飛びついた。
「シンジ…驚かないで聞いて。みんなも。」
キャラはゆっくりと全員を見渡した。
シンジ、ギオン、ユイラン、シャロン、トーマ、リング。キャラも含めた7人は今、来る時にも通った聖山アクロス(ウォールのいるところ)にいる。昨夜はマサキがまったく見つからなかったため、夜が明けてからキャラが探しに行ったのだ。
「結果から言うと、マサキはいたわ。でも…。」
キャラはいったん言葉を切った。
シンジはその時、一番恐れていた事態が起きたことを察した。
「操られていたのか…」
「…そう。」
「!!!」
全員に衝撃が駆け抜けた。
「しかも更に最悪の事態。アキリア王子がこの国に到着するわ。」
「何いっ?!」
シンジは思わず大声を上げた。
最悪のタイミング。アキラが操られたマサキに会ってしまったら?そんなこと、考えるまでもない。
「どうする?シンジ。」
「うーむ…。」
だからと言ってどうしようもない。こちらには、操作を解けるほどの妖力の使い手はいない。操作を解くには、光輝の力が必要だからだ。もし違う力…水や炎で解こうとすれば、それこそウィオラ並みの力と技術が必要になってくる。
光の大きな力を使える奴…というと、シンジにはアキラしか思い浮かばない。いや、他にといわれれば、ライラもシャラメイもキチ島の長(セバー=ロージス)もそうなんだけど・・・。
「よし、アキラをマサキに会う前に拉致する。」
「え?」
あまりに突拍子のない言葉にキャラは思わず眉を寄せた。
「何?アキリア王子を拉致するの?」
ギオンは相変わらずのんきな顔をしている。
「そうだ。じゃ、そのために作戦を立てる。」
シンジはきっぱりそう言い放った。
ユイランとシャロンは訳が分からない、といった感じで呆然としていた。
「リング。」
シンジはさっきからずっと黙りこくっているリングに声をかけた。
… 何だ
「あんまり自分を責めるな。悪いとしたらマサキ自身だ。お前になんの罪もない。」
… ふん そのくらい分かってら あいつがグズだから悪いんだ
そう言いつつもリングにいつもの威勢のよさはない。
少なからずマサキを置いてシンジを連れに行ったことを後悔しているのだろう。
「キャラ。アキラはいつ頃到着する?」
「えっと、話を聞いた所によると、今日の昼過ぎ・・・。」
「そうか。」
シンジは今南東の空を横切っている太陽に目を向けた。
「あまり時間がないな。細かく計画を立てる暇がない。強攻策で行こう。」
「あ!それなら、これ…。」
ギオンはトラドシンを出る時にエルギールから受け取った呼び粉を取り出した。
「これは?」
「えっと、エルギールの使い獣が呼べるんだ。」
「妖魔の種類は?」
「一角妖飛馬。」
「ホーンペガサス!!そりゃあ使えるっ。」
シンジが嬉しそうな声を上げる。
「それで八割方成功したようなもんだ。」
シンジはいつものようににやっと笑った。
「マサキ。」
「何?」
マサキの碧と黒の瞳がクレイドの方へ向けられた。
闇の力を流し込まれたことで何らかの身体変化が起こったのだろうか、肩にかかるほどもなかった髪が腰のあたりまで伸び、身長も少し高くなったようだ。そのせいで見た目の年齢も2~3歳ほどあがった。今マサキは14歳(推定)だが、見た目だけなら16、7歳でもおかしくない。
マサキはその長い黒髪をうざったそうに払いのけた。
「もうすぐデルタス王国の王子が到着するそうだ。一緒に出迎えてはくれぬか?」
「分かった。」
マサキは窓際から立ち上がった。
「デルタスの王女にはなれないってちゃんと断らなくちゃな。」
「きちんとした服装で出迎えるのだぞ。」
「はーい。」
「リコア(梨核)!リコア!」
クレイドは従者の名を呼んだ。
「何でしょうか、クレイド様?」
きょろっとした好奇心旺盛な黒の瞳。身軽そうな小さな体。まだ年端もない少女がクレイドのもとへかけてきた。
「マサキを衣装飾室へ連れて行って、一緒に服を選んできてくれないか?できれば…リキュアも一緒に。」
「はーい。わかりましたあ!」
元気よく返事をして、ぴっと敬礼。
「じゃあマサキ様、行きましょうか。」
リコアはマサキを先導して歩き出した。
ギオンは呼び粉の入った袋を無造作に炎の中へと投げ込んだ。炎はみるみる袋を焼き尽くす。
と、袋の燃え尽きた辺りから炎の色が変わってきた。
「きれいね。」
シャロンが目を細めて炎を瞳に映し出した。
まるで光の粉をばらまいたような金色の炎。煙の色すらも黄金に染めて、天高くどこまでも浮かび上がっていく…。
「デルタスの王子の名は何て言うんだ?」
正装に着替えたマサキ。
長い黒髪を結い上げ、漆黒の衣装を着ている。細くしなやかな手足にダークネス・シールド。ミラジアリナ王家の紋章はダークネス・シールドをもとにデザインされているから、マサキにとっては身分証明の代わりにもなる。
「アキリア=デルタス。少し前まではGOLDEN EYESと呼ばれていた。」
「ごーるでんあいず…?」
ドクン
心臓が締め付けられるような感覚を覚えて、マサキは思わず胸に手を当てた。
「どうした?具合でも悪いのか?」
「いや、大丈夫だ。」
マサキは大きく息をついて背筋をぴっと伸ばした。
「無理するな。」
「わかってる。」
「そうか?」
クレイドは少しだけ眉を寄せた。が、すぐに王女に向かって微笑んだ。
「そなたがそう言うのなら安心だ。」
マサキもにやっと笑いかえした。
「お前、いい奴だな。」
「私がか?」
「ああ。だってさあ、シンジだったら……え?シンジ?」
マサキははたと言葉を止めた。
「シンジって・・・誰だ?」
とっさに口をついて出た<シンジ>という名前。しかし<シンジ>という名前からは、何も記憶が出てこない。
「どうした?マサキ。」
「いや・・・わからねえ・・・。」
本当に何も分からない。記憶がまるでぽっかり抜けた…いや、むしろ明確に繋がらないという方が正しいだろう。記憶の鎖が完全に断ち切られている。
「ま、いいか。」
少しもやもやは残るが、いま考えるべきことではない。
「ああ、王子が到着なされたようだ。」
「行くか。」
二人は連れ立って王の間へ行った。
もうすぐアキリア王子が通されるはずだ。
「緊張するか?」
「ぜんぜん。でも…なんか変な気分だ。王子の名前聞いた時からずっと。」
胸がむかむかする。なぜか無性に苛立っていて、感情を押さえようとすると気持ち悪くなりそうだ。
「説明できねえ。とにかく・・・変だ。」
「あまり無理をするなと言っておろう。休んでもよいのだぞ。」
「いや、いい。王子に会わなくちゃいけねえから・・・。」
デルタスの王女になるのを断るのではなく、他にもっと何かしなくてはいけない事があるような気がした。
それが何かは・・・思い出せない。
「こちらにクレイド王がいらっしゃいます。・・・少々お待ち下さい。」
アトランはちょっと会釈するとアキリアより一足先に王の間に足を踏み入れた。
「クレイド王。アキリア王子をお連れしました。」
「通せ。」
「はっ。」
アトランはクレイド王の側にマサキがいることを確認した。
どうやらことは順調に進んでいるようだ。密かにほくそえんでからアキリアたち一行を中に引き入れる。
「ようこそおいでなさった。デルタスの王子よ。」
「お初にお目にかかりまして。私はデルタス国王ウェスタの第一子、アキリア=デルタスと申します。」
アキリアはクレイドの側へよって片膝をついた。
テミストクレス、アイコット、ジャフティ、ケティ、ベクティもそれに習う。
「今回私がここまで参りましたのは・・・。」
アキリアは顔を上げて今回の攻撃について聞こうとした時だった。
アキリアは気付いてしまった。碧と黒の瞳に。アキリアの知っている頃とはまったく違った雰囲気をかもしだすその王女の存在に・・・。
「マサキ!!」
「えっ?」
テミストクレスが驚いて頭を上げる。
「マサキ!お前なんでそこにいるんだ?!」
ズキン
マサキの頭の中で何かが動き出す。
「その瞳でこっち見るんじゃねえ・・・。」
マサキは苦しげにそうつぶやいた。
この王子の金色の瞳を見ると、頭ががんがんする。
「そう言えば紹介していなかったな。この者はマサキ。近くミラジアリナの皇后となるものだ。」
クレイドがマサキを指して言う。
「嘘だ!」
アキリアは立ちあがって拳を震わせた。
「マサキはデルタスの・・・…」
アキリアが言いかけた時…!
「ガッッッシャーーーン!」
「?!」
窓を割って何かが飛び込んできた。
白銀の毛並みが陽の光で輝いた。銀色の一角はユニコーンのもの。純白の翼はペガサスのもの。瞳はまるでブラックルビーのように、光に満ちた漆黒。
「ホーンペガサス(一角妖飛馬)?!」
<それ>はアキリアの前に軽々着地した。
「ちょっと遅かったかなあ?」
乗っているのはギオン。もちろんアキリアとの面識はない。
「あ、あなたがアキリア王子ですか?」
後ろで束ねた長髪に、人のよさそうな笑顔。
アキリアは少しだけ緊張を解いた。
「一緒に来てくれませんか?シンジさんが待ってますから。」
「シンジが?!」
「ええ。」
ギオンは一巻の地図をテミストクレスに放った。
「僕たちはその地図の場所にいます。アキリア王子は少しの間お借りしますね。」
「あ!貴様は、ツインハレーの従者?!」
衛兵の一人が叫んだ。
ばれたのならばトンズラこくまで。
「早く乗ってください。」
ギオンはアキリアがホーンペガサスに乗ったのを確認してから飛び立たせた。
あまりに突然で、誰も身じろぎすらできなかった。
「・・・・・・。」
「・・・…。」
数秒固まった後、最初に我に帰ったのはテミストクレス。
「私たちは王子を追います。王子を救出しだい戻ります。それまでお待ちいただけますか?クレイド王。」
「ん…あ、ああ。わかった。すまぬ、突然すぎて我を失っていた。いざと言う時に役に立たぬ衛兵どもであったことを存分に謝罪する。」
「では、急ぎますので。」
テミストクレスはさっと立ち上がった。
のこりの4人も後に続く。
「バタン」
5人が出ていって、王の間にまた沈黙が訪れた。




