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プロローグの観察者

なんか、私もやりたくなっちゃって、つい……。

流石に最初の原作エロゲータイトルが酷過ぎた件。

 私は生来感情の起伏が極小らしく、笑ったことや、悲しんだ記憶があまり無い。

 家はそれなりに裕福で、歴史的建築物とか、世界的エンターテイナーとかとご対面した事もある。

 建前以上の感想を抱いたことはないので、もしかしたら自分は不感症と言う奴なのだろうか。

 ヤることヤる時に、ちゃんと相手をその気にさせられるか不安だ。その相手がいないので、今のところ千無きことだが。

 そんな不感症な私が、唯一恐れていることがある。

 何処までも暗くて、何もかも冷めていて、何からも取り残されたあの場所へ行くこと。

 何者にも成れず、何物でもない、不確かで、混ざり合った、渦巻く死。

 "俺"は、あの場所を見たことがあって、"私"はそれを覚えている。

 要はそういう話なのだけれど、私は生き方を見失ってしまっているのだ。表面は繕えても、内面的にはあそこと同じで、冷めてしまった。

 感じられない"私"は、この世の何処とも繋がっていない。

 ここには居ない"俺"は、もう誰にも繋がれていない。

 じゃあ、私は、この世界に居た"本当の"私は何処へ行ってしまったの?

 誰でもない"私"は、一体何処に居ると言うの?

 もしかしたら、私は未だにあの場所で……


 「嫌だ」


 この世界は、ここには居ない"俺"が知っていた世界だ。

 死を視た"俺"と混ざり合った、"私"が視ている夢なのだろうか。


 「嫌だよ……」


 あそこには居たくない。

 "私"は生きているんだ。"俺"とは違う。

 だけど、"私"も、"俺"の知っている私とは違う。

 だってここは、"美懸森の美恋歌"は、"俺"の記憶では、性的表現を加えられたギャルゲー。所存、エロゲーと呼ばれる世界なのだから。


 「誰か、お願いだから」


 記憶をなぞるだけの定まった人生を、誰でもなくなってしまった"私"と"俺"を、


 「助けてよ……」



 ☆


 

 早朝の日の光を浴び、同じ印章を付けた生徒達が、大きな建物へ向かって坂を登っている。

 その中で、一際騒がしい男女の集団が、周囲の視線を集めていた。

 初夏が訪れ、夏用の制服を着た少年の周りを、ピョコピョコ跳ね回るウルフカットの小さな少女が、


 「ハヤトくんハヤトくん! 真珠、夏休みの予定がありません! これは由々しき事態だと思われます!」

 「そうかい、俺は実家の手伝いに追われると思うよ。秋には奉納祭もあるしね」

 「夏のパッションを肉体労働で発散ですか!? マゾいですね! 流石ですハヤトくん!」

 「忙しいって答えただけでこの仕打ち……!」


 暑苦しいほど溌剌とした答えに、少年は予想外の評価にショックで呻く。

 そんな少年の反応に気付かず、真珠がさらに口を開こうとする。

 少年だけに注視していた真珠は、自分達に近づいていた人物に気付かなかった。


 「それでですねハヤブフッ」

 「ハヤ豚? ちょっと、真珠。私の胸に突っ込んで、ハヤトと私の豊満なオパーイ同時に揶揄するなんて、それってハヤトを私の母性で埋め尽くせってこと!? そうなのね!?」


 栗毛を腰まで伸ばし、胸を若干開くように改造された制服を着た少女は、己の胸に埋まった真珠へとさらに、


 「確かに、あんたじゃ少しばかりお肉足りないものねえ。……大丈夫よ、真珠。私はメス豚だけど、あんたはメス犬だもの! 二人で淫乱だわ!」

 「バカにしてますね!? 私、淫乱に見下されてます!」

 「谷間に埋ったまま喚いてもくすぐったいだけよ? それに見下してなんかないわ、だってあんたの顔オパーイで見えないから!」

 「今、真珠猛烈な勢いで見下されましたよ!? 圧倒的優位からの視線が、脂肪の塊を越えて降り注いでます!」

 「そんなことないわよ、ねえ? ハヤト、あんたも板の上より、布団の上の方が寝心地良いわよねえ?」

 「ここで俺に振らないでくれよ!?」


 ハヤトと呼ばれた少年は、相変わらずセクハラ紛いな少女の言葉に戸惑い、叫んだ。

 それを見兼ねたように、三つ編みで眼鏡を掛けた少女が口を挟む。


 「ちょっと舞衣子、そういうセクハラ紛いな発言は慎んで下さい。大和撫子たる者、」

 「うふふ、身持ちの固い女は面倒よねえ。あんたも正直にラッキースケベして欲しいって言えばいいじゃない、この真面目ムッツリ女」

 「なっ……!? そ、そういうことではなくてですね? 大体私は、隼人さんとは別に……」

 「ああ、これはあれね、アミには審議が必要だわ。即断即決でねえ!」

 「そうですね、亜美女さん、往生際が悪いです! マリアさん、審議をお願いします!」


 真珠がそう言った先、ミッション系の制服を着た異国の少女は微笑んだ。


 「神は悔い改めよ、と仰いました。……有罪です」

 「速い! 展開速いですよ!?」


 眼鏡の少女が叫ぶと、母性を含んだ表情でマリアは、


 「恥ずかしがることはありません。亜美女さんは、――――ヘタレ撫子ですからね」

 「マリアマリア!? 日本語が不慣れだからってミスマッチが絶妙過ぎますよ! 違います、大和撫子ですから! 私、一応あなたと同じで神に仕える巫女ですんで!」

 「開かすのはいけませんが、素晴らしい者は皆で共有するべきだと思うんです。分け隔てなく、平等に」


 控え目なゆっくりとした動作で、マリアは隼人の隣へ並んだ。

 隼人は、マリアの彫刻然とした姿とは裏腹に、彼女から漂う香りが、確かに女性の匂いであることにドギマギした。


 「む……」


 その様子に、亜美女は微かに眉を動かす。

 マリアは、亜美女の姿を目に収めると、再び微笑み言った。


 「誰かを欲することに、自らを慎み隠す必要は有りませんよ。心は示さなければ、相手に受け取って貰えませんから」

 「…………ずるいですよ、私達、神様と結婚してるのに」

 「ここは日本ですし、神様もお酒とお祈りをすれば許して頂けますよ」

 「あー……、そう考えると神道ガッテムですよねえ……」


 そう言って、お互いに通じる話で微笑み合う二人。

 何やら甘く漂う空気に反応したのは、真珠だった。


 「舞さん舞さん、真珠お二人の話が良く解りません!」

 「簡単よぉ、つまりねえ……、神様も恋する女の子にはゲロ甘なのよーー! そこで見つめ合う二人みたいにねーー!」


 舞衣子の言葉に、周りで様子を窺っていた生徒達がざわめき出した。


 「おお!? 巫女とシスター……、同じ神職で在りながら宗教差を超えた禁断の恋……!」

 「細身で美乳の純情亜美女さんを、金髪巨乳で結構強引なマリアさんが、優しく導いて逝くんですね解ります!」

 「キマシタワーー! この情報を早く描き起こして、奉納祭までには完成させてやるぜ! エロ同人みたいに!」

 「だ、ダメよ! 亜美女様の純潔を散らすのは舞衣子様なのよ! で、でも、舞衣子様とマリア様が言葉攻めして同時に前から後ろから……、有りだわ!!」


 それまで一部だった賑わいが、一気に活気と共に周囲へ拡散する。

 生徒達は、それぞれの妄想に身を震わせながら、今後の予定について話し合っていた。


 「ちょっと、舞! 余計な方向に飛び火させないで下さいよ! 後で火消しが大変なんですから!」

 「あんた、粛清する気満々ねえ。流石風紀委員会会長だわ!」

 「ま~い~?」

 「えろどーじん、ってなんですか?」

 「大丈夫です、マリさん。家の宗教は、戒律のおかげで同性愛を推奨してた時期もありますから。ええ、ダイジョウブデストモ」

 「マリアーーーー!?」

 「つーか、……俺はもう行っていいか?」



 ☆



 未だ早朝の通学路。それでも、この騒がしさが、ここでの日常だ。

 その日常を、一人だけ俯瞰する者が居た。

 通学路を眺めることができる、校舎の屋上から、賑やかな彼らを見下ろしていた。

 緩いウェーブの掛かった白髪が、屋上に吹く風に棚引いている。

 初夏の太陽が照りつける中、彼女は暑さに茹だる訳でも、風に涼む訳でもなく、ただ無表情だ。


 「もうすぐ、共通ルートも終わり、か」


 確認するように呟かれたその言葉にも、やはり感情は籠っていない。

 彼女は、騒がしい通学路の、特に騒がしい集団をしばらく眺めると、やがて身を翻した。


 「個別ルートに入る夏休みから、一気に状況が動く。それまでにやる事やらないと……」


 少しだけ、何かを睨むように、彼女の目が細まる。


 「必ず、あなた達に会って、私が何なのか聞き出してやる」


 その為なら……、


 「彼らを、上手く利用し尽くしてやるわ」


 屋上のドアが、彼女の言葉と共に、静かに閉じられた。

感想お待ちしてまーす。次回の更新もゆっくりゆっくり!

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