第五話 生命の花-3
予想通り、収容所に戻った彼女を待っていたのは英雄の凱旋では無く、新たな脅威を迎える恐怖だった。
無理もない、と彼女も思う。
戦意においても、数においても敵の方が勝っている。その敵の戦意を砕くのが目的の演出だった事を考えれば、例え味方であっても恐怖に囚われるのはやむを得ない。
「おかえり。相変わらず周りが見えてないみたいだけど」
そう言って笑顔で迎えてくれる二三一の様に、豪胆な者ばかりではない。
「見るべきものは見てるわよ。視野が狭いのは認めるところだけどね」
彼女はそう言って肩を竦める。
「ただ、ゆっくりはしていられないわ。代表者だけを集めて話をした方が良いわね。今日はともかく、明日は忙しくなるから」
彼女は二三一にそう言うと、二三一は頷く。
「分かった。俺とメルディス様、ルー先生ってところか?」
「ルー先生は最後まで巻き込まれた被害者であってもらいたいから、呼んで欲しくないわ」
「分かった。俺はこの場を収める。メルディス様、後で部屋に行きます」
「ええ、お願い」
メルディスは騒然とする収容所の一階から、かつて彼女達が使っていた部屋へ移動する。
「待って下さい、メルディス様。私もご一緒します」
そう名乗り出たのは、かつて彼女達と同室だった獣人姉妹の姉である十一の少女だった。
「このシェルが命に変えてもメルディス様をお守りします」
「そんなに硬くならないでイイわよ。彼女に害意があるんだったら、とっくにやってるでしょう」
メルディスは軽く言うが、シェルの表情は固く彼女を睨んでくる。
収容所で生活している時から、彼女はこの獣人姉妹には警戒され続けていた。その彼女があれだけの惨劇を演出してみせたのだから、当然の反応でもある。
「不死王の研究機関に対して『ナインテイル』なんて、大した皮肉ね」
周りは恐怖しているが、メルディスは笑顔で彼女に言う。
彼女にしても、それは予想外の反応だった。
あえて『ナインテイル』を演出した訳ではなかったが、不死王に匹敵する厄災を演出できたのなら上出来だった。が、メルディスはそれにさえも希望を見出しているのだ。
呪いさえも味方にしようとしている、女王の姿だった。
メルディスは、彼女が思っていたより遥かに強かったのだ。
美しく気品ある美女であるメルディスだが、彼女はその見た目からは想像出来ない程強い精神力の持ち主である。
考えてみれば、メルディスは身近にいた彼女でさえ気付かない程巧妙に隠していたが、彼女にも劣らない反逆の意思を持っていた。それを押さえ込み、従順な亜人達のまとめ役を演じていた擬態の天才である。
敵に向かって振るわれた暴力に対し、しかも全責任を自分が取ると言った後の事で恐るような人物ではなかった事を、彼女は思い出した。
こう言う芯の強さも、メルディスとイリーズの共通点かもしれない。
誰が見ても打たれ強そうに見えないメルディスとイリーズだが、その見た目とは裏腹にブレる事なくその場に留まる事が出来る。
それは正真正銘の強さであり、戦闘力の高さだけでは語る事の出来ない、芯の強さ。
彼女は桁外れの戦闘能力を身に付けたが、それでイリーズやメルディスより強くなったと、胸を張る事は出来ない。
実際彼女であれば、ここで全員を繋ぎ留める様な事はせず、邪魔になると感じたら切り捨てただろう。メルディスはこの絶望的な状況下にあっても脱落者を出さず、暴動も起こす気配さえないのだから、大したものだ。
彼女がかつて生活していた部屋は、当時の面影を無くしていた。
ここは作戦会議室として使っていると、十一の少女だったシェルから教えられた。メルディスとその親衛隊長を自認するシェル、メルディスの身の回りの世話をするシャオにとって馴染みのある部屋なので話しやすいと言う理由でそうなったらしい。
部屋には大きな丸いテーブルがあり、椅子が五脚ほど置かれている。
普段ここで話をするのはメルディスと二三一、ルーディールくらいで、シェルとシャオの姉妹はメルディスの後ろに控えていると言う。
知った者しかいない収容所では必要の無い事の様に彼女は感じたが、シェルがそういう形式にうるさいようで、そう言う事をやりたがるとメルディスが苦笑いしている。
「でも、今日は座って話してもらうからね」
メルディスに先に釘を刺されて、シェルは眉を寄せている。
「二三一が来るまで、貴女の話が聞きたいわ」
メルディスは慣れた動作で椅子に座ると、手近なところの椅子を手の平で彼女に勧める。こういう仕草も、メルディスなら周りに有無を言わせない雰囲気がある。
「私の? 大して面白くないわよ」
彼女は椅子に座ると、帽子を脱いでテーブルの上に置く。
氷雨の振る外からやって来たとは思えないほど、彼女には濡れた様子が無い。また、マントは汚れているものの、帽子やマントの下の黒いコートなどは汚れや傷んだ様子が無い。
「独学でしか魔術を身につけてなかった人が、衣服の防護が出来ているだけでも興味深いんだけど」
さすがにメルディスはそこに気付いていた。
「面白味は無いけど、色々あったのよ。あんまり話たくない事もね」
彼女は肩をすくめて言う。
奇襲に向かったところで所長に会い、戦いに敗れて西の大地に投棄された。奇跡的に助かったが、そこで出会った少年の善意と好意に打たれて、ここへ戻ってくる気持ちも薄れていた。だが、その少年も自分の呪いを肩代わりしてこの世を去った。一度は全てを投げ捨てた。自分の殻に閉じ篭って、そのまま朽ちていければという甘い腐敗に身を委ねようとしたが、それも力を持つ者によって強制的に覚醒させられた。生きる目的も見い出せず、せめて意味だけでも得ようと足掻いた結果、不必要な戦闘力だけが彼女の中に蓄積する事になった。
こんな話をしても、他の亜人を必要以上に恐れさせるだけである。
どちらにしても、彼女が行動すれば亜人達の大半を恐怖に陥れる事になる。ここで話してもあまり意味が無いのだ。
彼女はそう考えていたが、最大の理由はイリーズの事を話たくないと言うのが、本当の理由である。
かつて『銀の風』とイリーズの話をした事はあるが、他の者達と話たくないと彼女の内側から強く感じていた。
「経験が貴女を押し上げているのね。まるで別人みたいな深みを感じるわ」
メルディスは彼女を見ながら言う。
「私の事はイイわよ。コッチの話を聞かせてくれる?」
「こっちも大した事は無かったわよ。大した事があった場合には、この状況にはなってなかったのは、貴女なら分かっているでしょ?」
「まあ、そうかもね」
メルディスが手強い事は百も承知であるが、主導権は握れそうにない。
「なんでそんなに牽制しあってるの?」
部屋にやって来た二三一が、彼女とメルディスに対して不思議そうに言う。
「仲間なんだし、そこは普通に再会を喜んだりしないのかい?」
二三一はそう言いながら、彼女の隣に座る。
「大体どんなに警戒しても、あの『ナインテイル』の化身みたいな攻撃は俺達にはどうしようも無いんだし、今さら怖がる必要なんて無いだろう?」
「そう思える方が少ないと思うけどね」
彼女の言葉にメルディスは苦笑いして、シェルは大きく頷いている。
「そうかな? まあ、それは良いとして、今後の話し合いだろ?」
「今後、と言うより明日の朝には向こうの総攻撃が始まるでしょうね」
彼女は簡単に言うが、二三一は驚いている。
「総攻撃? 門の外には数千の戦力がいるんだろ? 足並みを揃えるのだけでも、けっこうな時間がかかるんじゃないか?」
少数とはいえ部隊を率いる二三一とシェルは、集団を集団として機能させる事の難しさを知っているので疑問に思っているようだが、彼女は首を振る。
「こっちが与えた恐怖より大きな恐怖で押さえつけ、強迫すれば武装して前に進むくらいの事は簡単にできるわよ」
「そんな事が出来るのか? 言っちゃなんだが『ナインテイル』は味方にまで恐怖を与えるくらいだ。敵意を向けられた側はたまったもんじゃないだろう?」
「私もそう思って欲しくて思いっきりやったけど、残念ながら所長の方が怖いでしょ? だって私にはケンカを売れても、所長には売れないと思うし」
「なるほど。つまり所長は『ナインテイル』より怖いって事か」
二三一は腕を組んで言う。
「ちょっと待って。外の戦力をまとめてるのって、所長なの?」
シェルが口を開く。
「俺はそうだと思ってたけど、違うのか?」
二三一は首を傾げている。
「え? だって外の戦力って、研究所とかの衛兵だけじゃなくて軍隊とかが出てきてるんでしょ? 亜人収容所の所長ってそんなに偉いの?」
シェルは意外と冷静らしく、細かいところではあるがもっともな事を尋ねる。
「亜人収容所の所長が軍隊を率いる兵長より偉い、って事は無いわよ。でも、その連中を徹底的にビビらせてやれば兵権くらい簡単に手中に収められるからね。例えば私があんた達を脅せば、この収容所の兵権は私が握れるでしょ?」
「そりゃそうだな。俺なら土下座すると思う」
二三一は驚く程あっさりと認める。
「外の連中はそれを露骨にやったのよ。大体亜人の戦力にビビってる様な奴らが所長と戦える訳ないって。所長、超怖いもん」
彼女の言葉にシェルは眉を寄せ、メルディスと二三一は微笑む。
「それは君でもかい?」
二三一の質問に、彼女は頷く。
「アレを怖くないって言う奴がいたら、ソレの方がどうかしてるわよ。多分、この戦いに参加した人の大半はアレより怖いモノになんて遭遇しないんじゃない?」
「それに戦いを挑んで勝てるの?」
シェルが彼女に挑むような目を向けるが、彼女は鼻で笑う。
「勝てるか勝てないか。そんな次元の話をしていられるのは、まだまだ余裕があるって事ね。ちょっと安心したわ」
馬鹿にされたと感じたのかシェルは立ち上がろうとしたが、彼女はそれを手で制する。
「じゃ、私が勝てそうにありませんって言ったらどうするの? 今さら所長には勝てませんから、降参しますって申し出て、それを受け入れてもらえるとでも思ってるの?」
シェルは唇を噛んで言葉を飲み込み、挑発的な言葉に二三一も眉を寄せるが、メルディスだけは興味深そうな表情をして聞いている。
「勝てるとか勝てないとかじゃないのよ。もう、方法とか手段とかを話し合う時じゃない。後はどこまで悪名を引き受けられるかって話なの」
「つまり、手段を選ばなければ勝てるのか?」
二三一の質問に、彼女は簡単に頷く。
「例えば、明日の朝に収容所の門を少し開けるとするでしょ? そうすると総攻撃のはずなのに少数の先遣隊が入ってくると思うから、そいつらの肩なり腹なりを槍で貫いて、即死を避けながら肉の盾として切り込んでいくの。亜人の決死隊を十人編成で組んで、その肉の盾に怯んだ奴等を同じ様に盾に使えば、こっちの被害が百人くらいの時に所長への道が開いてるでしょうね。そこにこっちから総攻撃をかければ、十分に勝算はあるわよ」
「サラッととんでもない事を言うよな。だけど、よくわかったよ。君は徹底的に戦士ではないんだな」
「でしょうね。戦士って、私には理解が及ばない生き物よ」
彼女は二三一にではなく、独り言の様に言う。
「武器を持つ事は力じゃないわ。ソレは目的がなんであれ、敵を傷付ける物なのよ。ソレに意義を求める事それ自体が、私には理解できない」
彼女はそう言うと、ベルトに差し込んでいる銀色の柄にそっと触れる。
「相手を傷付ける事に正しいとか意義とか、そんなモノがあるとでも思ってるの? それはもう悪なのよ。あとはソレをどこまで背負えるかの話でしかないの」
「耳が痛いね。君は英雄が嫌いかい?」
「私の思う英雄は、敵を殺す事に長けた奴じゃない。戦いを収められてこその英雄でしょ」
それが理想論だと言う事は、彼女にも分かっている。
だが、彼女を救ってくれたイリーズの一族などはそれに近いと感じた。
王族の誇りを失った訳ではない。その誇りを持ち、その責任を背負い、滅んでいった一族。
かつてあった戦いを、どんな形であったとしてもそれを終わらせた者達。
その当時に生きていなかった、戦いが終わった後に好き勝手に言える立場の歴史家達がどう記そうが、その王族の決断があったからこそ戦いは終わり、禁術の蔓延を防いだと言う事実は変わらない。
「極論に過ぎないか? 考え方としては危険な気もするが」
「気にしないで。私がそう思ってるだけで、他の人に強要するつもりも無いから」
「それで、貴女はどういう戦術で戦うつもりなの?」
シェルや二三一と違い、彼女との会話を楽しんでいるメルディスは彼女に質問する。
「私の戦術、っていう程大したものじゃないけど、考えているのは私が一人で敵陣を崩壊させて所長を倒す事よ。メルディス達の仕事は戦後処理になるわね」
「無茶苦茶だな。戦士を否定した君が単騎駆けかい?」
「私の考え方としては、戦いに価値を見出していない人間が適任だと思うのよ。血を流させる事に誉れを求めるべきじゃないでしょ? 本来兵隊とかの武力は内側を収める為のものであって、抑止力以上の事に使うべきでは無いものなんだから」
「おっしゃる通りで」
二三一は表情を和らげると、肩を竦める。
「ただ、私は真正面から出て目立つ行動を取るけど、所長なら空から奇襲をかけるくらいの事はやってくるでしょうね。出来る限りのフォローはやっていくけど現実的に全てをフォローする事は不可能だから、そこは実戦部隊にお願いするわ」
「どう言う戦力が来るんだ?」
「そうね、私と同等の戦力を持ってると思ってもらった方が良いわね」
「無理だろ、それ」
二三一は即答する。
あの『ナインテイル』の惨劇を見せられてしまっては、戦意喪失しない方がおかしい。
「ああ、武器を持ってない私と同等って意味ね。多分、物理攻撃で倒すのは難しいと思うから、思いっきり痛めつけるつもりで頑張ってね。特にメルディスとルー先生は狙われるだろうから、気を付けて。あと、捕虜とかいる?」
「捕虜? まあ、捕虜扱いなのはルー先生とスパードさんくらいかな?」
二三一の言葉に、シェルとメルディスは頷く。
「スパードさん、こっちにいるの? だったら、私は遠慮無く暴れていいって事ね」
「鬼か、お前は」
「元気、じゃないんでしょうね」
彼女の質問に、二三一が頷いて答える。
スパードは亜人収容所の門を閉じる際の攻防の時、最前線に現れて亜人達にとって高すぎる障害となっていた。門を閉めようとする亜人達に対し、スパードは一人で立ち向かい、しかもその集団を撃退しようとしていた。
門を閉じられなければ、収容所内に兵力を展開出来る。こうなっては校舎や寮といった地の利を活かすゲリラ戦でしか戦えず、そうなると鎮圧も時間の問題だった。
そこで亜人側の誰も予想していなかった事が起きた。
どうしても門を閉じたい亜人達と、門を閉じさせない為に戦っていたスパードに対し、門の外の兵はスパードの事を考慮せずに矢を射掛けてきた。
その時、スパードは無数の矢に晒され、矢傷とその毒によって生死を彷徨う重体になった。亜人達も傷を負ったが、ここからが亜人達が予想もしなかった事だった。
外の兵は収容所の門を閉めようとして、スパードを見捨てて撤退したのだ。
その後、収容所の門を閉めた亜人達は瀕死のスパードを回収して、収容所に立て篭る事になった。
即死を免れたスパードだったが、ルーディールとメルディスによる治癒魔術の効果もあって一命は取り留めたものの、衰弱が激しく未だに介助無しでは歩く事もままならない。
「私達はわりと大丈夫だったけどね」
彼女は二三一に言う。
「いや、君とは比べちゃダメだろ? ルー先生も驚いてたよ。普通はスパードさんみたいに体力を大幅に奪われるんだから。実際俺も再生魔術のお世話になった時には一ヶ月はリハビリが必要だったんだ」
「え? そうなの?」
彼女もルーディールの再生魔術にはお世話になった。その時、動ける様になってから杖をつきながらウロウロしていたのを驚かれはしたが、ウェンディーに足を再生してもらった時にはその直後から歩く事が出来た。
「ま、命に別状は無いし、今では意識もはっきりしている。ただ、剣を持って戦う事は当分無理だろう」
「だとすると、狙われる可能性は十分過ぎるくらい有り得るから、そこは貴方達でなんとかしてね」
彼女はそう言うと立ち上がる。
「それじゃ私は屋上に行かせてもらうわね。外の様子もみたいから。守備の事は任せるし、私がいても言える事ないから、後はよろしく」
「外、雨が降ってるわよ。そんな気を使わなくても、どこか空いた部屋でゆっくり休んで。貴女が明日の作戦の要なんだから」
立ち去ろうとする彼女に、メルディスが言う。
「もう所員もいないし、あんまりベッド使いたがる子もいないから、そこで休んでもらってもいいのよ?」
「気を使ってる訳じゃないの。ここに来る前にたっぷり睡眠を取って来たから、明日の戦いが終わるまで寝なくていいだけよ」
彼女は笑いながら言う。
メルディスはそれでも呼び止めようとしていたが、二三一に止められ、彼女は外へ出る事が出来た。
さすがに二三一は戦う事をよく理解している。
メルディスは統治者であり、情が深い。そのせいか、ついつい余計な気を回してしまう所があるのに対し、二三一は生粋の戦士である。
戦う者にとって体力と同じくらい重要なモノがある。
敵の情報と、戦う覚悟だ。
収容所の雰囲気は彼女の想像を超えて居心地が良くなっていた。ここでの時間は柔らかく、温かい。このまま夜を徹しておしゃべりしていたいと言う誘惑も感じたが、それには早過ぎる。
今は敵意を緩めず、戦う為に、勝つ為に、自由の為に血を流させる事に対する覚悟を決め、集中する事が大事だった。
彼女は宣言通りに屋上に出ると、身を切る冷たさの雨の中に立つ。
夜である事と雨である事もあり、視界は極端に悪い。寮の屋上は校舎より背が高いので、門の外まで見る事が出来る。
少なくとも今、門の所に兵が展開している事は無いので、今すぐに奇襲をかけてくるような事は無さそうだった。
彼女が屋上に姿を現すと、すぐに彼女が騎乗する翼手竜が飛んできて、翼を広げて彼女の為に雨を遮る。
「そんな事しなくても、大丈夫なんだけどね」
彼女は翼手竜に微笑みかけると、門の外に目を向ける。
「明日は私に近付いたらダメよ? 私の攻撃は無差別攻撃だから、貴方にも攻撃するかも知れないからね」
彼女がそう言うと、翼手竜は小さく頷く。
翼手竜と言う生き物は竜と呼ばれてはいるが、実質は巨大な翼の生えたトカゲの様なモノで、特別優れた知性を持ち合わせているという事は無い。
しかし、この翼手竜は彼女の言葉を理解しているので、非常に賢いと言えるだろう。
「貴方にも名前が必要ね。私を誰より早く見つけてくれたから、ケヴィンなんてどう? この世で唯一『生命の花』を見たという、探検家の名前。エテュセの名前を広めた人なんだって」
彼女が翼手竜に言うと、翼手竜は数回頷く。
「それじゃケヴィン、明日はちゃんと安全な所にいないとダメよ? 貴方がいないと私の移動が困るんだからね」
彼女は翼手竜にそう言うと、門の向こうに目を向ける。
そこにいるはずの敵を見据えて。




