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ALNO(アルノ)  作者: くれいじい
第一章 ギターと家族
6/8

大統領

高級外車のランプが、雨に濡れた巨大な建物を照らし出していた。


大統領官邸・旧首相官邸に到着してすぐ、SPに囲まれて大統領との面会になった。


赤絨毯が敷かれた小奇麗な執務室の中に、背が高く、品の良さそうな出で立ちでその老紳士は立っていた。


人の良さそうな笑顔を浮かべたこの国の大統領は隊長と俺を見て、開口一番流暢な英語でこう言った。


「遠路はるばる、ご苦労様でした」


「大統領閣下と直接お会いできる機会を頂けるとは、身に余る光栄ですわ」


隊長も慇懃な礼でそれに応じた。


「…ところで、そこの方は?」


…来た。


運転手といいこの大統領といい、俺がいたらなにか困る事でもあるというのか。


「彼は査察官のラディ・アルノです。私がこの目で見て優秀と認めた自慢の部下で、いずれは私の後を継がせたいと考えています」


「ほう。それは喜ばしい事ですな。WWUの功績については、私もしばしば耳にする事があります。何でも、加盟国内の失業率を0.5%まで抑えたとか」


「ええ。我々WWUは国家統合と同様に、加盟国の貧困問題の解消にも力を入れていますから」


「貧困が無いというのは良い事です。昔はこの国にも、世界トップの経済大国と言われて浮かれていた時代がありました。その頃はまだ大統領という役職もなく、議会内閣制・資本主義の政治体制でしたが」


俺は大統領のぼやきを聞きながら、事前の研修で知った、この国の政治体制移行の歴史を思い出してみた。


世界の国々は、各々様々な政治体制を取っている。


大統領制、議院内閣制、権力集中制、等々。


この国がかつて取っていたのが議院内閣制だ。


これは立法権(法律を制定する権利)を有する議会と、行政権(政策を実行する権利)を有する内閣・首相が分立して政治を取る制度で、世界の中ではかなり少数派の政治体制。


景気が良く、とりあえず働けば幸福が約束されていた時代はこの体制でもきちんと政治は機能したらしい。


だが、近代のいっこうに終わりの見えない不況や治安の悪化、そして外交問題の増加などにより、この国の政治が大きく揺さぶられた瞬間、政治はまったく機能しなくなった。


様々な立場の議員が好き放題に物を言い、同一政党内でも意見はバラバラ。あげくのはてに審議拒否に議会での乱闘。


不況を打開する政策はおろか、その年の予算を可決する事すら満足にできない。


そんな遅滞した政治状況の中、国民が感じたのはこの国の政治体制の限界だったという。


そうして数十年前、この国の憲法が改正され、内閣が廃止された上で政府に大統領という役職がもうけられた。


この大統領というのは、国民の中から全国投票で選出され、行政府の長として強い権力を持つ国家元首の事だ。


要するに、議員内閣制から大統領制へと移行したのである。


その大統領に、隊長が話を切り出した。


大きな自信をはらんだ声で相手を威圧する姿は、“獲物”を前にした隊長の常だ。


「現在WWUは、貴国に年間米1000万トンを中心として様々な食料、そして貴国の国家予算の半分を援助しています」


大統領が目を細めた。


「感謝しています。何千万人という国民がWWUに救われています」


「しかし残念な事に、WWUの援助額と貴国の提出した国家予算及び政府の支出報告の間に、ひどい矛盾があるのです」


「………」


大統領のまとうオーラが、一瞬にして変化した。


表情は強ばり、眉間に皺が浮き出ている。


隊長は容赦なく、核心に踏み込んだ。


「連合政府に納められた加盟国民の血税から、WWUの援助金は捻出されています。もしそれが、貴国の申告内容とは別の用途に使用されているとしたら、由々しき問題です」


「………」


大統領は何も答えなかった。


「また」


隊長は一歩大統領に近づいた。


「とある調査機関の報告から、貴国が核兵器を開発しているという情報をWWUは掴みました」


隊長は、自分より背の高い大統領の顔をぐっと見上げると、そんなとんでもない事を言った。

あれ、もう春になっちゃうの?

………今年度もモテ期来なかったな………

                 くれいじい

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