欺瞞
待っていた現地の職員に連れられ、査察官達は役目ごとに空港から姿を消して行った。
俺もその一員になろうとした時、隊長の声が聞こえた。
「ああ、ラディ・アルノ査察官はここに残りなさい」
「えっ?」
「あなたには急遽、別の仕事ができたのよ」
ごめんなさいね、と言って微笑む隊長の様子は、もういつもの彼女に戻っていた。
俺をおいて全ての査察官がいなくなるのを待って、隊長は俺を別の方向へ連れて行った。
国際空港の数ある出入り口の一つを目指して、俺は隊長と空港内を歩く。
「さっきは、大人げない所をお見せしてしまい、すみませんでした」
俺の謝罪には反応を示さない隊長。
そのまま数歩が過ぎて、突如隊長は口を開いた。
「…欺瞞だ。そう思ったでしょ?」
コツコツとヒールの音を響かせながら、隊長は言った。
「………」
「100年以上前に大戦が終わって…世界は平和になったように、誰もが理解し合えるような環境が出来たように思われた」
「…そうですね。一応は」
「でもやっぱり、人間だって、本質は他の動物とそう変わらないのよ。きっと」
「どういう意味ですか?」
「生まれた場所が違って、言葉が違って、文化も常識も違う。それでも仲良くできる程人間が社交的な生き物ならWWUなんて必要ないし、発足する機会も無かったんじゃないかしら?」
「それなら、なぜWWUなんて物が発足したんですか?」
「そうね…。発足当時の歴史は闇に包まれてるけど、要は誰かが得をする仕組みがあるのよ。きっとね」
「いくらなんでもそこまで斜めに見なくても…」
確かにWWUには問題もあるし、批判もされているが、その根本の理念はきっと正しいのだと思うだけに、俺は隊長の考え方を100%受け取る事はできなかった。
「斜めになんて見てないわ。いい?この世の中で最も信用できる物があるとすれば、それは欲望よ。人間も含めて、どんな生き物も欲望には正直。…覚えておくといいわ」
たどり着いた出入口をくぐると辺りはすっかり暗く、夜風が少し冷たかった。
すぐ側に黒塗りの高級外車が停まっていて、スーツを着た現地の男が起立して待っていた。
「WWU国際調査隊長で、今回の査察団の指揮をしていらっしゃるメリー・ケール様でいらっしゃいますね?」
「ええ。よろしくね」
隊長は微笑んだ。
男は俺の方を見て怪訝な表情を浮かべた。
「失礼ですが…そちらの方は?」
「私の部下なの。ラディ・アルノ査察官よ」
「これは失礼致しました。…では、お車へどうぞ」
俺と隊長は車の後部座席に滑り込んだ。
さっきの男は前のドアを開けて運転席に座り、助手席にはSPと思われる別の男が座っていた。
「急がなくてはならない。通行人が何人か見ている」
SPが唐突に口を開いた。
「やはり、目立ってしまうことを考えれば国賓用の公用車は避けるべきでございました」
運転手の男は手早くエンジンをかけ、夜の街を目指して車を発進させた。
お腹へる→食べる→遊びたい→PC→眠くなる→寝る→起きる→お腹へる→…
もうだめぽ
くれいじい