通り雨
幸い、俺が目を覚ました時には既に窓の外は地上で、雨は止んでいた。
小さなチャーター便から正装した男女が列を為して出ようとしていた。
殆どの者が一律に体格が良く、そうでない者はたいてい射抜くような鋭い眼光を備えていた。
俺も頭上の荷物入れからショルダーバッグを取り出すと、列の後に続いた。
窓から、タラップを降りる隊長の姿が見えた。
降りる時に起こしてくれれば良いのにと思ったが、そこを起こさない所もあの人らしかった。
「ほう、俺たちゃ今アジアにいるのかい」
飛行機から降りる列に並んだ大柄な白人エージェントが、隣の一回り細いこちらも白人の男に話しかけた。
ガムを噛む音がニチャニチャとうるさい。
「ハハッ。高度成長とやらの夢から覚めた黄色いサル共の面を見るのが楽しみだなぁ」
二人は顔を見合わせて下品に笑った。
あまりに耳障りな笑い声に、周りの者が皆彼らの方を見た。
大柄な方の男が、にやにやしながら俺の方をちらりと見た。
「なあ、アルノ。お前のその黄色い顔、まさかアジア人の血じゃねぇよな?」
「なわけねーだろ」
クスクス笑いながら細い方の男が言った。
「アジア人が“この国”への査察になんか来るもんか。大方、日焼けサロンに行って中途半端に焼いた挙句、髪の毛だけ黒焦げにしちまったんだろう?なあ?」
また二人は大笑いした。
俺は黙って、カバンを肩から下げると混雑した機内をうまくすり抜けながら列の後ろに加わった。
すれ違いざまに大柄な方の男の足を踏みつける。
「いてっ!おい、てめぇっ!」
男は憤慨して俺に近寄ろうとしたが、大きな身体で列の流れに逆らう事は、周りの人間が許さないだろう。
皆が俺の方もちらちらと見ている事に気付いたが、俺は胸に上った複雑な気分を消化するのに忙しかった。
俺は列の最後尾に立つと、窓から外を眺めた。
空港の広い離発着所の向こう側に、微かに都市の灯りが見える。
時計を見ると、もう深夜を回っていた。
列の前の方からまだ罵倒するような怒声が聞こえてきていたが、もう気にするのも馬鹿らしかった。
WWUの目標の一つ、“世界の完全なる恒久平和の実現”。
そんな目標を掲げる連合政府の内部の人間が平気で差別発言をする時点で、“恒久平和”なんてただの欺瞞としか思えない。
そんな連合政府のまるで侵略行為のような他国統合に加担している俺の生き方が誠実かと問われたら、無論答えはノーなのだが。
逆転検事2買いに行きたい。
くれいじい