WWU
組織は、その名を全世界連合政府という。
通称WWU(Whole World Unite)。
かつて国際連合と呼ばれた組織が前身で、より強く幅広い権限を持っている。
例えば、加盟国の最高施政権はその国の政府ではなく、WWUが持つ事になっている。
つまり、ある国の政府方針とWWUの方針が食い違えば、WWUの方針が優先されるという事。
また、さらに大きい特徴が、WWUに加盟している国同士は事実上同じ国として扱われるという事だ。
加盟国間の人の移動は自由。いかなる交易にも関税などの保護政策は禁止。等々。
つまり、WWUに国家が加盟するという事は、WWUにより国家が統合されると言い換える事ができる。
数十年前に突如発足したWWUは、驚くべきスピードで世界の主要な国々を統合していった。
WWUが国家を統合する目的には、国家間紛争の防止や貧困の撲滅が挙げられる。
国同士を一つにしてしまえば、利害の対立もなくなり紛争も起きなくなる。
そして国々をまとめて人口調整を行えば、貧困をなくす事も不可能ではない。
混沌としていた世界情勢の中で、WWUの登場はまさに奇跡と言われた…。
しかしそんなWWUにも、問題となる点があった。
WWUに関して、誰もがまず疑問に思う事。
「施政権を奪われてしまったり、保護貿易が認められなかったり、いろいろと損ばかりするのにどうして国は加盟するの?」
至極簡単な事だ。
加盟したのではなく、させられたのだ。
WWUという組織の発足を最初に提唱した国は、当時世界で最も国力が大きく、影響力のある国だった。
そしていくつかの関係の深い同盟国に、「WWUに加盟しなければすべての貿易と安全保障を打ち切る」と、一方的に宣告した。
当然宣告を受けた国々では大騒ぎになったが、不況で政情が不安定だった事もあり、賛成反対と散々世論が揺れた後結局どれも加盟する事を決めた。
そうして世界の主要な国がWWUに統合されてからは、早いものだった。
加盟国の軍備を使って紛争地へ軍事介入し、結局紛争国双方を統合。
国に調査団を派遣し、言いがかりをつけて経済封鎖や武力制裁の後統合。
当然あちこちで非難の声が上がったが、圧倒的な力の差故に直接発言できる国はどこにもなかった。
さっきも言った通り、俺はこの組織…WWUで働く職員だ。
全世界連合政府国際調査隊という部署で、国際査察官の任に就いている。
自分たちの“正義”に若干の疑いを抱きながら、それでも毎日の忙しさに流されつつ仕事をしていた時、俺は久々の海外任務に就いた。
もうWWUは、世界のほぼ全ての国を何らかの形で管理下においてしまっているが、たった一つ、主要国の中で統合できていない国がある。
それは、俺の因縁の国。
すなわち、俺を捨てた母親の故郷だ。
WWUが統合されていない国をそのまま放置するはずもなく、実際今、その国にWWUの査察団が送られようとしていた。
査察団とは、WWU国際調査隊から派遣されるチーム。
…そう。今まさにチャーター便でその国に向かっている俺たちの事だ。
家でゴキブリが出ると怖くて逃げちゃう事もあるけど、部室でゴキブリが出たらみんなでシーブリーズかけたりして遊んでる。
仲間がいるから、人って強くなれるんだなぁ。
くれいじい