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5話:巡り合わせ

2026.01.10 21:49〜

お話を少し書き直しました。

「カイル……あなたも、こんな風に震えながら歩いていたの?」


今のミリアにとって、国の歴史やエーテルの正体など、どうでもよかった。

親友を失い、父に突き放され、ゼノに殴られ、孤独の深淵に突き落とされた彼女にとって、日記の「神さま」という言葉だけが唯一の縋りつける糸だった。


カイルが勇気をもらった場所へ行けば、自分も少しだけ、彼に近づけるかもしれない。

「神さま」が本当に願いを叶えてくれるなら、この胸を掻きむしるような痛みを、どうか止めてほしい。

夜の城内は、昼間よりもずっと冷たく、静まり返っている。


廊下を照らすエーテル灯が、自分を監視する父の冷たい視線のように見えて、ミリアは影を縫うようにして歩いた。

城の北端、庭園の隅にある古びた枯れ井戸。

そこだけが忘れられたようにつたに覆われていた。ミリアは泥に汚れるのも構わず、井戸の底にある小さな空洞――カイルが見つけたという洞穴へと身を沈めた。


「神さま……、どうか……」


湿った土の匂いが鼻を突く。

ランタンの小さな灯りが、岩肌を心許なく照らした。

道は狭く、尖った岩がミリアの手足をかすめるが、彼女は止まらなかった。暗闇の先にある「何か」に辿り着きたい、その一心だった。


行き止まりの岩壁に突き当たったとき、ミリアは力尽きたように座り込んだ。


「……いないじゃない。神さまなんて、どこにも……」


壁に額を押し当てて泣きじゃくった、その時だった。


(……ああ……やっと……きた……)


岩壁の隙間から、地鳴りのような、けれど酷く哀しい響きを持った「声」が漏れ聞こえてきた。

言葉ではない。それは魂に直接触れてくるような、深い重低音。

けれど、不思議だった。凍えきったミリアの心を、その響きは優しく包み込んでいく。


カイルは言っていた。「なんだか勇気が湧いてきた」と。

確かにこの声は、暗闇で震える者に寄り添う温かさを持っていた。


「神さま……そこにいるの?」


ふと、背後に気配を感じてミリアは弾かれたように振り返った。


暗闇の中に、二つの黄金の光が浮かんでいた。

吸い込まれるように美しい「瞳」だ。

ランタンの微かな灯りが、夜の闇をそのまま形にしたような、漆黒の肌を持つ青年を映し出す。


ミリアと彼の目が、正面から真っ直ぐに合った。

刹那、青年の瞳が激しく揺れ、彼は衝動的にミリアへと歩み寄ると、壊れ物を扱うような力強さで彼女を抱きすくめた。


「……ミア……」


掠れた声で、聞いたこともない名前を呼ばれる。

漆黒の肌に黄金の瞳。その異様な姿に、恐怖が全身を駆け巡った。

これはカイルの言っていた優しい神さまなんかじゃない。闇から生まれた、恐ろしい化け物だ。


「離してっ!!」


ミリアは渾身の力で彼の胸を突き飛ばした。

不意を突かれた彼はよろめき、数歩後ろへと下がる。

漆黒の指で顔を覆った彼の隙間から、黄金の雫がひとしずく、床にこぼれ落ちた。


「……すまない。あまりに、似ていた。その銀色の瞳、震える声……。数百年という歳月が、嘘のように溶けて消えたかと思った」


彼は力なく、自嘲するように笑った。

その黄金の双眸に宿る絶望的なまでの愛しさに、ミリアは息を呑む。


「……あなたは、誰なの!?」



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