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4話:縋り付くように


深夜の王城は、昼間の華やかさが嘘のように冷え切っていた。

ミリアは、腫れあがった頬を隠すようにマントのフードを深く被り、幽霊のように静かな足取りで自室へと戻った。

誰にも見つかりたくなかった。

今の自分は、あまりに惨めで、無力で、王女としての抜け殻のようだったからだ。


部屋の明かりを点ける気にもなれず、ミリアはベッドの脇に座り込み、カイルの母から託された木箱を膝に置いた。

窓の外では、王都を照らすエーテルの光が、ゆらゆらと不気味な黄金色の影を天井に投げかけている。


「……カイル。あなたなら、なんて言ったのかしら」


震える指で木箱を開ける。

中には、彼が丁寧に使っていた古い手帳や、幼い頃に三人で拾った奇妙な形の石ころ、そして何冊かの日記が入っていた。

思い出のひとつひとつが、鋭い破片のようにミリアの胸を刺す。


「……カイル。もう一度会いたいよ……」


思い出に縋るように、箱の中から古い一冊の日記帳を取り出した。それはカイルが兵士になりたての頃、慣れない手つきで書き始めたものだった。


『……訓練が辛い。剣を振るのが怖い。本当は戦うなんて向いていない。でも、母さんの薬代を稼がなきゃいけないんだ。ミリアやゼノにも、もう情けない姿は見せたくない。……明日は今日より、一歩だけ前に出られますように』


つたない文字で綴られた、弱気な言葉。

ミリアは日記のページを指でなぞりながら、静かに涙をこぼした。


「カイルは、本当は誰よりも怖がりで、それなのに誰よりも優しい人だった……」


震える手でページをめくっていくと、ある日の記述で手が止まった。


『……街で変な噂を聞いた。城の敷地のどこかに、忘れられた神さまが眠っている洞穴があるらしい。そこを見つけたら、どんな願いも叶えてくれるんだって。馬鹿げた噂だけど、今の僕は藁にもすがる思いだ。少しだけ、探してみようと思う』


その数日後のページには、少しだけ力強い筆致でこう記されていた。


『神さまは居た! 城の北の端、枯れ井戸の奥にある洞穴……。行き止まりの壁の隙間から、確かに神さまの声を聞いた。何を言っているのかはわからなかったけど、不思議と、なんだか勇気が湧いてきたんだ。これで、明日からも頑張れる気がする』


カイルにとっては、それは単なる「神頼み」であり、過酷な軍務を耐え抜くための、ささやかな心の拠り所だったのだろう。


「願いを叶えてくれる神さま、か……」


ミリアは日記を閉じ、顔を上げた。

泣き腫らした目はまだ赤く、ゼノに引っ叩かれた頬はズキズキと痛む。


「私の願いも…叶えてくれるかな…。ねえ、カイル。」


ミリアは夜着の上にマントを羽織り、カイルの遺した日記とランタンを手に取った。

あんなに毛嫌いしていたエーテルの源、神さまにまさか自分が縋りたいと思う日が来るなんて。

それでもミリアは悲しみから逃れるために洞穴を探しに部屋を出た。


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