番外編2:小さな騎士の誓い
番外編というか、本編補足となっております。
読まなくてもたぶん大丈夫です。
下層街の外れ、草の生い茂った空き地。そこは、13歳のゼノと、12歳のミリア、カイルにとっての遊び場だった。
「ほらほら! どうしたのカイル、もうおしまい!?」
ミリアが声を弾ませながら、訓練用の木剣を鋭く振り下ろす。
カイルは必死にそれを防ぐが、ミリアの容赦ない連撃に足元がふらついていた。
幼い頃から訓練場に忍び込み、騎士たちの動きを見て盗んできたミリアの剣筋は、大人顔負けの鋭さがある。
「くっ……まだまだ!」
「あはは、口だけは威勢がいいんだから!」
ミリアがわざとらしく木剣を回して、カイルを煽るように笑う。
少し離れた場所で、壊れた蓄音機の部品をいじっていたゼノが、顔を上げずに声をかけた。
「おいおい、ミリア。あんまりカイルをいじめてやるなよ。こいつ、これでも毎日じいさんの工房の裏で素振りしてんだからさ」
「えっ、そうなの? ……でも、勝負は別よ。ほら、カイル、次で決めるわよ!」
ミリアが踏み込み、今日一番の鋭い突きを放つ。
いつもなら、カイルはここで尻餅をついて負けてしまう。けれど、この日のカイルは違った。
ミリアの瞳が銀色に輝きかけたその瞬間、カイルの集中力が極限まで高まる。
(……来る!)
カイルは目をつぶらず、ミリアの剣筋を見切った。
半身を引いて突きをかわすと、ミリアの勢いを利用して、その手首を軽く叩く。
「あ……っ!」
ミリアの木剣が手から離れ、カサリと草の上に落ちた。
次の瞬間、カイルの木剣の先が、ミリアの喉元でぴたりと止まる。
静寂が流れた。ゼノが作業していた手を止め、目を見開く。
「……僕の、勝ちだ」
カイルが肩で息をしながら、静かに、けれど力強く告げた。
ミリアは呆然としていたが、やがて顔を真っ赤にして、負け惜しみのように叫んだ。
「な、なによ今の! たまたまよ、たまたま! 次は負けないんだから!」
「……ううん。たまたまじゃないよ」
カイルは剣を引き、真っ直ぐにミリアを見つめた。その瞳には、今までになかった強い決意の光が宿っていた。
「僕……決めたんだ。兵士になろうと思う」
「え……?」
「兵士になって、一生懸命訓練して、国一番の兵士になる。……それで、いつか、いつか絶対に! 王国直属の騎士になって、ミリアを守るよ」
いつも自分に助けられてばかりだった泣き虫のカイル。
その彼が、自分を守ると言った。
それは子供の「ごっこ遊び」の台詞ではなかった。
「……へえ。王国一、ね。お前みたいな臆病者がどこまでやれるか、見ものだな」
ゼノがニヤリと笑い、腰を上げた。
「だったら、お守りが必要だな。……じいさんに内緒で、最高のやつを作ってやるよ。ミリア、お前も手伝え。カイルが途中で逃げ出さないように、ガレット家の呪い……じゃなくて、護符を刻み込んでやるからな」
夕暮れの光が、三人の影を長く伸ばす。カイルの初めての勝利と、あまりにも真っ直ぐな誓い。




